張りぼて応援歌



「で、廊下爆走して俺の背中に突っ込んだ挙句俺を吹っ飛ばした賢二郎君、言う事は?」
「飛ばした相手が天童さんで良かったと本気で思ってます」
「先輩敬え賢二郎この野郎!」

下手に知らない人ふっ飛ばしたらどうしようかと思ったが、視線の先に倒れていたのが天童さんで本当に安心した。安心したら落ちついてきた。「賢二郎って栞とつるんでからちょっと凶暴になったよね!」それはどう考えても天童が悪いんじゃないか?


「もー…廊下爆走なんかしてどうし…あ、そういえば琴葉ちゃんは?」
「どうだっていいでしょう」
「ほほー?その反応、やっと告白したんだね。で?結果は――あ、なんか爆発して走ってたわけだ」
「うるさいです」
「なになにー?その反応、良い返事が」
「うるさいです」
「俺手を貸してやったんだからちょっとは教えてよ」
「うっさいです」

あれ、もしかして賢二郎照れてる?なんて頬を突かれた。その指を掴み。反らせる「あだだだだ!だからそっちに指は曲がらないって!!」と声を上げる。うるさいです。


「天童…天童さんじゃない方の天童は」
「あれ、栞の事気になる?」
「ええ、てっきり天童さんがサンドバッグになるとばかり思っていたんで」
「ちょっと。俺の扱い」
「仕方ないじゃないですか。…で?うっかりさっきの場面覗き見られてたら俺の人生終わるんですけど」
「何したの、って聞く前に人の妹なんだと思ってるの?」
「天災か悪魔ですかね」
「天童兄妹の扱い!」

もー!栞は大丈夫だって!俺じゃどうせ抑えきれないの分かってたから若利君に頼んだよ!そう言う天童さんに安心…いや、安心か?天童さんよりは安心か。ふー…と俺は息を吐いた。




「で、落ちついたところで」
「しつこいですね天童さんも」
「気になるからさー」

ほれほれ、話しなよーとぐっしゃぐしゃにされる髪の毛。溜息を吐いて俺は口を開いた。


「告白しました」
「おお、しなかったら怒ってたけど」
「すごい眩しい笑みを向けられました」
「脈あり?」
「で、いつもの表情で「私も大好きよ」って言われました。いつもの表情で」
「……うん…」
「なんか、伝わってない気がして」
「…否定できない…」
「キスしました」
「ぶっ飛んだね!?」
「だって!!」


どうしろっていうんですか!?とみっともなく声を上げてしまった。「自覚させるにはこうするのが一番でしょ!」なんて思ってない事も言った。軽率な行動だったとは思っている。

「あんなピュアだった賢二郎が!」
「なにがピュアですか」
「自分のマフラー琴葉ちゃんに巻いて上げたり、手を繋いで一緒に帰ったり、一番意味わからないけど走り込み一緒にしたり。これピュアと言わずになんと言う」
「付き合ってないですから」
「付き合ってたらえげつない事やりそうな言い方だね」
「天童さんと一緒にしないでください」
「賢二郎?」


あー…俺明日どんな顔で本条に会えばいいんだろうか…。その場で塞ぎこむ俺に「まぁよく頑張りました。嫌われちゃいないんだから大丈夫大丈夫」と頭を撫でる天童さん。天童さんに頭撫でられても嬉しくないんでやめてもらっても良いですか。そう言うと「か、可愛くない…っ!」と言われた。可愛くなくて結構。




◇◆◇



言うなればアレだ、魔王が居た。


「お兄ちゃんに白布、あんたら私を牛島さんに捕まえさせて何企んでたの?」



天童さん、あんたの妹は雪の魔女ですか
いいえ人間です
後ろに吹雪が見えるんですけど
偶然だね賢二郎、俺も見えるよ
そうですか
うん

………。
あ、殺される。と思った。仁王立ちの天童、牛島さんは何処へ行ったのだろうか。「若利さんなら言い包めて白布とお兄ちゃん探しに行かせたわ」お前年上を顎で使うなよ。


「で、2人でな……」

天童の動きが止まった。俺たちの背後を見て固まっている。なんだ?と俺と天童さんもそちらへ振り向く。


「あら、さっきぶりね白布君」
「お、おう…」

俺が先程告白した相手、本条がそこに居た。

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