退屈はオペラ座に置いて行け



出逢い頭に「賢二郎のあほー!」と天童さんにどやされた。一体なんだ、俺だって文句の一つも言いたい。俺の本条の気持ちを知っているくせに、3人で飯食ってんだから…いや、あれは俺が…というか天童が悪いのか。変な勘違いをされている俺は、一体どうしろって言うんだ。

「このままだと琴葉ちゃんに見放されちゃうよ」
「じゃあ天童さんの妹をどうにかしてください」
「栞?なんで栞?」

事の顛末を話す事になる。最初はうんうん、と聞いていた天童さんの顔が後半になるにつれ面白いほどに顔色が悪くなっていった。まぁ笑えないんだけど。「もう賢二郎と栞付き合えば?」なんて言う天童さんを思いっ切り殴った、おぞましい事を言うもんじゃない。

「でもさ、自業自得じゃない?」
「……」
「最近、琴葉ちゃんとあんまり話弾んでないでしょ」

図星だ、天童に邪魔されない朝の登校時の会話は明らかに減っていて、それをもどかしく思う。「浮気は駄目だよ賢二郎」と頭をぐしゃぐしゃと撫でる天童さんに腹パンしてやった。だから違うって言ってんでしょう。

「…みんな、俺に対して攻撃的すぎでしょ…」
「そう人を煽るような言い方するからでしょう」
「さっさと告白でもしちゃえばいいのに」

分かってる、あの鈍感には面と向かって言ってやらないと伝わらないのは分かっている。「早くしないとさ、あの子またひとりぼっちになっちゃうよ」なんて天童さんが言った。

「あの子有名人だったけど、仲のいい子って全然居なかったんだよね。栞は仲良くしたくてたまらなかったけど。そういう人、多分他にも居たと思う。でもあの子はずっと一人だった。あの子も周りも、積極的じゃなかったみたいだからね。あの子の独り慣れって凄いよ」
「俺がいます」
「今それが消えそうだって言ってんのー!あの子のネカティブも酷いもんだね!まったく…」

取り敢えずさ、俺の頭を掴む天童さん。


「取り敢えず琴葉ちゃんと話してきなさい。栞は引き留めておくから」
「…ありがとうございます」

今日の予定はねー、塾がお休みだから図書室に行くって言ってたよ!ちゃっかり本条の予定を聞いていてこの人抜かりないなと思った。丁度部活も休みだ。俺は図書室へと向かう。途中、牛島さんと会った。牛島さんが俺の前に止まる。

「白布」
「なんですか牛島さん」
「あいつにも言ったが」

あいつ、とは本条のことだろうか。なんだ、牛島さんのこと苦手そうにしてたのに話するくらいの仲にはなっているのか。俺は存外心が狭いらしい。尊敬してる先輩に、嫉妬心が芽生えてしまう。俺は少し笑って「なんですか?」と聞いた。


「掴んで離さないでいろ、お前は本条の重りだ」
「重り?」
「じゃないと、呆気なく飛んで行ってしまうぞ。俺は、あれほど繊細ではない。だから重りなんてバレーで十分だ」
「…分かってます」


私ね、いつの日か、空を飛ぼうかと思ったのよ。
そんな事を言った本条を思い出した。重り、そうか重りか。「離さなければ、確かに飛んでいきませんね」なんて俺は笑った。

「お前は重そうな重りだからな」
「そんなに重そうですか?」
「ああ、」

掴んだら、離しそうにないしな。と牛島さんは俺の頭を数回撫でて、歩いて行ってしまった。というか牛島さんまで俺の気持ち知ってんのか。本条とにて、鈍感そうなのに。




「そういや本条と牛島さんって似てるな」

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