あの子は星になりました



【天童栞の話】


通行に邪魔なお兄ちゃんは潰した。これで何も問題は無いわね。白布も私を止めなかったし、今日の昼の事で思う事は一緒なんでしょう。私は速度を緩めずに若利さんと瀬見先輩の前まで駆ける。こんばんは私の敵、若利さんと瀬見先輩の前で私は止まる。

「栞か、どうした」
「天童の、妹?」

2人の視線が私に向く。私はじっと2人を睨みつけて、一度目を閉じた。ええ、やるのよ私。息を、吸う。カッと目を見開き口を開いた。


「若利さんと瀬見先輩のばーか!!」
「小学生かお前は」

バシンッ!と白布に頭を叩かれた。背後からで全く反応できなかった。頭がぐわんぐわんする。なにすんのよ!最早条件反射だった、私は白布の頬を平手打ちした、と思ったらお兄ちゃんに平手打ちをしていた。あら?


「賢二郎、なんで俺盾にすんの!?超痛いし!」
「俺殴られたくないんで」
「俺だってそうだよ!?」
「もう回し蹴り食らってるんですから平手打ちくらいいいじゃないですか」
「なにがいいの!?」

白布がお兄ちゃんを盾にしていたようで、見事に私の掌を顔面で受け止めていた。あら、やるわね白布。少し感心する。ってそうじゃないわ。今はお兄ちゃんにも白布にも構ってる余裕はないの。私は再び若利さんと瀬見先輩の方を向く。そうね、今のは流石に無かったわね。余裕が無さ過ぎてどうかしてたわ。


「苦しんで死ね」
「お前は暴言しか吐けないのか」

だってだって!私は地団駄を踏む。若利さんはいつも通り、瀬見先輩は少し顔を引き攣らせていた。なによその顔は!「もういい、お前黙ってろ」と白布に頭を押さえこまれた。ちょっと、私に触らないでよ。白布を睨むが私の目が白布と合う事は無かった。白布が口を開く。


「昼休みの事なんですけど」
「?昼休み…昼飯はハヤシライスだったが」
「昼飯はどうでもよくてですね…」

ていうか若利さんいつもハヤシライスしか食べないじゃない…心の中で悪態を吐く。「昼休み、なんで本条と一緒に居たのかって気になりまして。なんか楽しそうでしたし」白布がそう言う隣で私は瀬見先輩を睨みつける。


「…楽しそうだったか…?阿鼻叫喚だった気が」
「阿鼻叫喚?」
「若利の馬鹿さに」
「……は?」

…ん?私は首を傾げた。若利さんの馬鹿さ、何を今さら…ではなくて、若利さんは英語が破滅敵だった筈だ。テスト前、勉強しなければいけないであろうお兄ちゃんですら「若利君留年回避のため勉強会してくる」なんて家を出て行って…お兄ちゃん人に教えられるほど出来良くないじゃない…って思ってたっけ。頬を押さえるお兄ちゃんが「瀬見君英語の成績めっちゃいいからねー」なんて言う。あ、なんとなく分かってきた。


「つまりこういう事?お兄ちゃん…あ、ごめんなさい。私に血の繋がった兄は居ませんでした」
「居るよ!?正真正銘栞のおにーちゃんだよ!?」
「誰ですか貴方」
「天童覚だよ!」
「偶然、天童違いですね」

違くない!違くないよ!というお兄ちゃんを無視して、頭の中を整理する。つまり、こういうことでしょうか?私は情報を纏める。


「つまり本条さんが若利さんに英語を教えようと思ったら若利さんが馬鹿すぎてどうしようも出来なくなって本条さんの変な笑いが止まらなくなってしまったと。じゃあ今までどうしていたのかと聞くと瀬見先輩が教えてたんだよってお兄ちゃんが教えて、「その方凄いですね」って本条さんが感心して」
「なんでそこまで分かるの栞」
「ちょうど通りかかった瀬見先輩を見て本条さんが純粋に尊敬の眼差しを向けて握手をしたと」
「すげぇな天童の妹。全部合ってるぞ」

意味がわからないと首を傾げる白布。なんで今ので分からないのよ。ああ、そういえば白布は牛島若利厨だったわね。若利さんのあの馬鹿さを知らないだなんて、とても幸せな事よ。ハッ!と私は鼻で笑う。


「なんかすげー喧嘩売られてる気分…」
「気のせいじゃない?ああ、それで…」

私は再び瀬見先輩を見る。まったく…早とちりも良いところだわ、私は頭を下げた。


「すいません瀬見先輩、私の勘違いでした」
「…お、う…?」
「本条さんに媚び売る不敬な輩と勘違いしていしまいました。だって本条さんがあれだけ感情を露わにするんですもの。ずるいです…ほんと…ずるいです」

瀬見先輩が後ずさった。顔が引き攣っている。失礼な反応ですね、ちょっと好感度が下がりました。でもまぁ、本条さんが尊敬の眼差しを向けた人です、譲歩しましょう。


「とりあえず、不穏分子は排除の方向なんです」
「……」
「ごめんね英太君、うちの妹ちょっと可笑しいんだ」
「誰が誰の妹よ。本条さんが尊敬する人は私も尊敬する人です。まぁ本当に尊敬してると言ったら否ですけど」
「本人目の前にして言う事ではないよな」
「ですから、多少の事は譲歩します」


ですけど。私はバレー部全員を睨む。


「本条さんに手を出したら二度とバレーが出来ないようにしてやります」

あんたもよ白布!と白布を睨む。「ばかじゃねーの」と呆れ顔で私をみる白布に足を上げようとした。ら、頭に何かが乗る感覚。なに?と私は気配のある方を向く。


「栞は、強く育ったな」
「若利君…それなんか違う…」

私に触らないでください若利さん!と私は若利さん目掛けて拳を押しだした。




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「お前の妹、ちょっと可笑しいっていうレベルじゃないぞ」
「…言わないで…」

栞の中で最早崇拝に値している本条さん(そして出番が無い)

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