チープな隠蔽工作



「瀬見さん」
「なんだ白布」
「…ひる、」
「昼?」

昼なんで本条と手を握ってたんですか。そう聞こうとして口を噤む。本条、牛島さんが苦手そうな雰囲気醸し出してたくせに、牛島さんと話してるし、どうして接点があるのか分からない瀬見さんの手を握ってたし、なんだかあの時の本条今までにないくらい楽しそうな表情してたし。

「……」
「なんだ?」

なんか、考えてたらイライラしてきた。ギッと瀬見さんを睨む。瀬見さんは多分何も悪くない。瀬見さんも本条も何も悪くない。悪いのは、現状維持している俺だ。それでも、抑えられなく嫉妬してしまうのは仕方ないだろ。

「何でも無いです」
「は?すげー何か言いたそうな顔して何言って」
「なんでもないです」

ふいっ、と瀬見さんから視線を外し背を向けた。「か、かァいくねぇな…!」と瀬見さんの言葉を背に受ける。すいませんね、可愛げのない後輩で。


「いやいや賢二郎は可愛いよ」
「何言ってんだお前」
「英太君に嫉妬しているあた――痛っ!?」

余計な事言おうとする天童さんの背中を思いっきり叩いてやった。「は、嫉妬?」なんて首を傾げる瀬見さんに「何でも無いです」と視線も向けずに言った。





◇◆◇



「で、守備は?」
「なんだよ守備って」
「なんで先輩…えーっと、誰だっけ。敵、取り敢えず敵と本条さんがなんで手を握って楽しそうに話してたのかって話!」

瀬見さんな、と言うと「瀬見、瀬見先輩覚えたわ私の敵」とぶつぶつと呟く天童。呪いの言葉のように聞こえた。お前敵だらけだなほんと。「で、なんで一緒に居たの?ちゃんと聞いてきたんでしょ?」という天童に首を振った。

「は、何してんの?なんで聞かないのよ!」
「イライラして」
「精神力が足りないわ」
「お前に言われたくないんだけど」

は?私精神力強い方よ?なんて言う天童。ああ、もういいや。ツッコミ始めたらキリがない。「あーはいはい、すいませんね精神力足りなくて」と吐き出す。殴られた。精神力とは。

「若利さんまだいる?あと瀬見先輩も」
「居るけど」

というかお前なんでこんな時間まで居るんだよ、部活終わりだぞ。結構いい時間だぞ。そんな疑問に「時間は無駄にはしてないわよ、図書室でずっと勉強してたもの」と天童が答えた。ああ、こいつも特進だったか…色んな意味で阿呆で忘れてた。特進は暇あらば勉強している人種なのか。

「脳筋より健康的だと思うのだけれど」
「お前それ本条に言ってみろ」
「…本条さんは、特別よ…」

そっと目を逸らされた。こいつも本条の体力の無さを分かっているらしい。「本条さんもう病弱なんじゃないかっていうくらい運動できないから…」いくら秀才でもきっと、甘やかしてはいけなかったんだと思う。本条の運動能力の無さは異常だぞ。


「天才一つは弱点ないと」
「あのまま行ったら若いうちに動けなくなりそうだけど」
「自分が死ぬまで世話するくらい言いなさいよ」
「なんか違う」

そんな馬鹿話をしていたら先輩達が遠くに見えた。俺達の方向へと近付く先輩集団にぎらり、天童の目が光る。コイツほんと怖い。近付いて、俺達を認識したのか「あれー?栞ー?」と天童さんが駆け出した。あ、死亡フラグ。俺は何も言わない。天童が踏み込んだ。

「邪魔」

女子としてそれはどうなんだ。回し蹴りを華麗に決める。そのまま天童さんは地面に倒れ込んだ。これで妹嫌いにならないんだから凄いと思う。

「天童さん、生きてますか」
「死んでます」
「意外と大丈夫そうですね」
「大丈夫じゃない…!」

ていうか賢二郎居たんなら俺か栞止めてよ!そういう天童さんに「ああすいません、でも天童さんならいいかなって」と笑いながら言った。

「え、どういう意味?」
「そのままの意味です。ほら天童さん結構打たれ強かったりするじゃないですか。俺は無理なんで」
「先輩差し出すの止めて!?」
「あんたの妹でしょう」

妹なら、あれなんとかしてくださいよ。指差す方向には、牛島さんと…多分瀬見さんに突進する天童の姿が。俺も機嫌よくないんで止めませんよ、そう言うと「アレ誤解だから!」と天童さんが叫んだ。

<< | >>