さざなみ警報



【天童覚の話】


「なんか栞と賢二郎仲良いよね」
「どこをどう見たらそうなるんですか馬鹿なんですか天童さん」
「お兄ちゃん死んで」
「二人の言葉超痛い…」

最近、栞と賢二郎がセットで居るところをよく見る。雰囲気は殺伐としていて、仲良しとは程遠い。今みたいに「仲良しだね」なんて言おうものなら暴言(栞からはたまに物理)が飛んでくる。
言い合いの内容はほぼ100%女王様こと本条さんについてだ。なんだか賢二郎と関わってから栞の本条厨度が増してきた。賢二郎も、最初は栞に対して腰を引き気味に接していたが、最近は無遠慮で暴言オンパレードの口喧嘩をしている。痴話喧嘩にも聞こえなくもないが、内容は本条さんの奪い合いである。
1人の女の子を、男女で取り合うとかおにーちゃんとても複雑です。








「あ、本条さん」
「天童さんのお兄さん、こんにちは」

ちらっと賢二郎の教室を覗き喧嘩をしている賢二郎と栞を一目見てから俺は学食に向かった。すると、本条さんがぽつり一人で食事を取っていた。食事の隣には大量の紙の束。

「…ご飯食べながら勉強?」
「行儀悪いとは分かってるんですけど…準備が間に合わなくて」

中等部の授業の講義をするらしい。なんだそれ…と思っていると特進限定の話らしい。特進怖い。あそこは異次元空間だと思っている。生徒が生徒に講義とか…。


「…よし、終わった」
「終わった?じゃあ一緒に食べていい?」
「え?ああ、どう…ぞ?」
「ありがとー!あ、この後若利君も来るから」

本条さんの表情が固まる。あ、そう言えば賢二郎のことで若利君に嫉妬してたんだけ…にやり、俺は笑う。何かを感じとったらしい本条さんはむすっとした表情をした。


「そーんなに警戒しないでよ、ね?」
「そんなにやついた人に言われたくありません」
「やー…可愛いよね。本条さん若利君に嫉妬したんでしょ?」

からーん…スプーンが机に落ちた。「な、な…」と声を震わせる本条さん。なにこれかわいい。なんだ、鉄仮面かと思ってたけど、表情豊かじゃないか女王様。

「だって…」
「うん」
「だってバレーの話する時、白布君いっつも牛島さん牛島さんって言うんです…私は白布君のバレーの話が聞きたいのに」
「そっかー…」

ごめん、賢二郎本当に牛島厨だから。俺から賢二郎はどういうセッターかって聞かれたら「とことん若利君にボールを上げる若利君大好き人間」としか答えられない。あ、勿論バレー選手として大好きな若利君ね。うん、極力バレーの話は聞かない方が良いんじゃないかな。なんか俺も考えてみたら胸焼け起こしてきた。中学時代から若利君のファンだったらしいから仕方ないけど。うん、後で英太君に賢二郎鍛えてもらおう。今日は若利君にあげさせなーい。


「うるさいんです、白布君。牛島さん牛島さん牛島さん牛島さん…バレーの話かと思えば牛島さんの話ばっかり」
「呼んだか」
「………う、牛島さん」
「なんだ」

本条さんが完全に無表情になる。「若利君おそいよー」「すまない」と若利君は俺の隣に座る。そのまま、じっと琴葉さんと若利君が向き合う。無言。

「ちょっと、なんか言いなよ2人とも」
「…は、じめまして。1年特進の本条琴葉です」
「2年の牛島若利だ」

…え、それでおしまい?もうちょっとなんか言いなよーと机を叩く。むすっとした表情の本条さんが口を開く。


「ご趣味は」

なにこれお見合い?ご趣味は、って本条さん。

「無い」

無いじゃないよ若利君。そんなすっぱり答えないで。あと、目の前のハヤシライスから目を離して。ちゃんと本条さんの目を見て。

「じゃあ好きなスポーツは」

バレーに決まってるじゃん。しかし若利君は「……」と無言を貫く。もう駄目だよ、完全に聞こえてないよこれ。

「…好きな食べ物は」
「ハヤシライス」

でしょうね。と本条さんは呆れ顔で言った。もぐもぐとハヤシライスを食べ始める若利君から目線を外す。


「天童さんのお兄さんも」
「あ、天童さんのお兄さんじゃなくてさ、覚でいいよ。」
「天童先輩も召しあがったら如何でしょうか」

む、ガードが堅い。「俺は琴葉ちゃんって呼んでいい?」と聞くと心底嫌そうな顔をされた。あれ、俺本条ちゃんのブラックリストに載せられてる?

<< | >>