ダヴィンチが言うには。



「…あの、ちょっとでも考えてくれたらいいから…」
「…えっと、」
「あ!気軽に考えてくれればいいんだ。でも…良い返事を期待してるよ」

そう言って男は走り去った。私は、その後ろ姿を見送る。ぐるぐると、先程の言葉が頭を巡る。


「どうしよう」

頬を押さえる。靴の先をじっと見つめる。

「どうしましょう」

にっこりと笑った先程の男子生徒の顔を思い出す。さっきの人、確か3年と言っていた。

「どう、しよう…」

暫く私はそこに立ち尽くした。





◇◆◇


「あ、あの…白布君」
「うん?」
「ええと、ね」

ぎゅっと、俺の制服の袖の縁を掴む本条に俺の身体は固まった。上目づかいはよろしくない、心臓に悪い。平然を装い、俺は本条の言葉を待つ。しかし、一向に本題が出ない。

「どうした?」
「…えーっと…ね、好意を告げられた時ってどうすればいいのかしら」
「…は?」
「あ、あの…えーっと」
「……」

ん?なんだって?好意を告げられら時どうすればいいか?俺の頭では処理が追いつかない。顔を赤らめる本条を見て、スゥッと頭が冷えて行くのがわかった。


「勝手にすればいいじゃないか」
「白布君…?」
「本条はどうしたいんだよ。俺に聞いて助言仰ぐより自分で考えた方が早いんじゃないか?」

冷たい口調で言葉を吐きだす。ああ、駄目だと分かっているのに止まらない。きょとん、とする本条の顔。やがて口を開く。


「そうよね、これくらい自分で考えないと駄目よね」

私、ずっと白布君と一緒に居れる訳じゃないものね。あまり依存しては駄目よね。と小さく口にした。
あ、まずい。と俺は思った。ずっと前から知っていたことだ。それを、あやふやに隠して卑怯に、俺は本条を繋ぎとめて。しかし、それを本条に自覚させてしまった。

本条琴葉は俺に依存している。

ずっと前から気づいていた事だ。俺の好意と本条の好意はベクトルが違う。微妙に噛み合わない。噛み合わないくせに、歪むことなくこの関係は続いていた。
大体、付き合ってもいないのに高校にもなって男女が毎朝一緒に登校するか?という話である。それに本条は違和感を感じない。

そういう知識に疎いって怖いよな、好意を持っている人間側からしてみれば。

あーあ、と俺は後悔する。
グッと唇を噛む。どうしようか。本条が相手にどう返答するかによって、俺の行動も変わるが。いや、もう悠長なことを言っていられないのか。


「本条――」
「そうね、私やるわ」
「…え、何を」
「中等部の講師。高等部各学年から1人ずつ出て中等部の生徒の前で講師をするそうよ。大体週1で。私が中等部の時も、そんな授業があったわ。あまり人前に出る様なことしたことは無かったけど。そうね、折角だもの。やってみようと…ってどうしたの白布君」
「……うるさい」
「え、」
「あーもう…好意って言うから…」
「?好意でしょう」
「期待と言う言葉を使え馬鹿」
「…?」
「この鈍感あほばか」
「…え?」

くっそ、振り回され損だ。



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天童「白布賢二郎ほんと鈍感」
白布「本条鈍感あほばか」
本条「白布君牛島さん牛島さんうるさいわ」
鈍感スパイラル

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