ガリレオ衛星からの挨拶



爆弾という爆弾ではなかったが、それでも再度自覚させられるような言葉を天童さんに言われた。

「賢二郎って本条さんのことすきなの」

疑問形ですらなかったような気がした。でも押しつけではない。その言葉はストンと俺の中に収まる。


「まぁ、そうなんでしょうね。きっと」

友情なのか愛情なのか曖昧だけれど、それはきっと俺達の間では些細な問題なんだろうな、なんて思った。いや、曖昧ではないか。俺は本条を異性として好いている、ちゃんと自覚もある。だけど、本条、は―――












「げっ」
「あら、おはよう白布賢二郎」

にこやかかつ、目がまるで笑ってない天童栞と出会った。俺は一歩後ずさる。まさか朝っぱらから天童栞と遭遇するとは思いもしなかった。かわす手段が思いつかない。

「本条さんと登校?羨ま妬ましいかぎりね。というか本条さんを朝早い白布賢二郎の時間に付き合わせるってどうなの?ねぇ?白布賢二郎」

天童さんにヘルプを求めたい。春先だというのにじんわりと汗がにじみ出る。女子だからと侮ってはいけない。早く来てくれ本条。

「本条、も…朝早く学校行きたいって言ってる」
「そんなの白布賢二郎と…ああ、もういい。何も言わない」

是非そうしてくれ。ツンケンする天童栞は果たして天童先輩の妹なのだろうか。性格がまるで似ていない。あの無駄にフレンドリーな兄と、この温度差。


「…本条さん、これからここに来るの…」
「…なに、アンタも一緒に学校行きたいとか」
「言わないわよばっかじゃないの。ていうかばっかじゃないの」
「二回言うな馬鹿」
「ハァ?誰が馬鹿ですって?この鈍感!!」
「ああ?」

横を通り過ぎる人が「あらやだ、朝から痴話喧嘩かしら…若いわねぇ」と通り過ぎる。誰と誰が痴話喧嘩だ。マズイ、頭に血が上る。いや落ちつけ、耐えろ。こんな馬鹿みたいな喧嘩で熱くなるな。



「随分、楽しそうね」
「誰が!こんな男…と……」

ぴたり、と天童栞の動きが止まる。表情も固まる。まぁ、予想はしてたよな。俺本条と待ち合わせしてたんだし。天童栞だってそのことを分かっていた筈なのに。


「お、おはようございます…本条さん…」

ばったり遭遇した本条に、天童栞は引き攣った笑みを浮かべる。一方本条は無表情だった。じぃーっと俺と天童栞を見る。


「私、お邪魔だったかしら?」
「いいいいえ!お邪魔虫はわたくしめでございます!そそそそれじゃあ本条さんまた教室で!」

白布賢二郎お前あとで覚えておけよ、みたいな感じで睨まれた。しらん。運動部顔負けの脚力で天童栞は走り去った。めちゃくちゃ早い。「あ…私もあれだけ走れたら…」なんてぼやく本条に「絶対無理だ」と言ってやった。


「ところで、本当に邪魔じゃなかったかしら」
「邪魔してない、寧ろ助かった。アイツ喧嘩吹っ掛けてきたから」
「…そうなの?痴話喧」

がしっと本条の頭を鷲掴みする。「あ、あの…白布君…少しばかり痛いのだけれど」と言う本条に、手の力を少し籠める。


「いくら俺でも怒るからな本条」
「あ、あの、わかったから…手を…痛いわ…」

いくら本条相手と言えども、怒る時は怒るんだからな。





◇◆◇



「朝はよくもやってくれたわね」
「なぁ、お前暇なの?」

またもや昼休みの教室前、仁王立ちで待ち構える天童栞に遭遇。「ちょっとさ、俺購買行ってくるから待ってて」と言うと「逃げたら承知しないわよ」とカツカツと無遠慮に俺の教室へ入って行った。えー…と見送る。俺の席に足組んで座りだした。なんでアイツあんなに神経図太いんだ。もういいや、色々諦めよう。俺は購買へ向かう。戻りたくない、が戻らなかったら何されるかわかったもんじゃない。溜息を吐き、俺は再び教室へ。


「遅い、1分で戻ってきなさいよ」
「なんつー無茶言うのお前」
「人待たせておいてその態度」

もうやだコイツ。色んなものを押さえて、俺は自分の席…は天童栞に奪われてしまったのでひとつ前の席を借りる。丁度いないし。身体を後ろに向けて、天童栞の方を向く。


「で、何しに来たんだよ天童栞」
「そのフルネーム呼び止めなさいよ白布賢二郎」

お前も人の事言えないから。なんて言ったところで意味は無いだろう。「じゃあなんて呼べば?」と聞くと不思議そうな顔をされた。


「別に天童でいいじゃない」
「先輩に天童さんが居て、お前呼び捨てで呼べるか」
「え、意味わかんない。お兄ちゃんこそ呼び捨てでいいじゃない」

そう、心底不思議そうな顔をされても困る。

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