赤と黒が重なって


驚くほどすっきりと目覚めた朝に吃驚した。何時も身体が怠いというのに今日は調子が良い。時計を見る――と、雛鳥が居た。本棚の上で毛づくろいをしている。ああ、昨日の夜から飼って…飼ってるのか、これは。朝5時、俺ではありえない早起き。前はそうでも無かったが最近はずっと身体が重くて起きれなかった。あのヒトが、夜織さんが頭を撫でた時から体の状態がすこぶる良い。伸びをするとキィキィ!と雛鳥が啼いた。

「おはよう」

キィ、と翼を広げた。慣れてみると存外可愛いものだ。夜織さんが言ったように此れは人懐っこい。手を伸ばすと、ふわり宙を舞い手に乗った。少しの間、指で頭を撫でる。名前でも付けようか。雛鳥、なんて呼ぶの面倒だし。

「――古宵」

こよい、ってどう?君の名前。そう問うと雛鳥…古宵は顔に擦り寄ってきた。気に入ったと解釈していいのだろうか。そう解釈しよう。暫く古宵と戯れる。昨日夜織さんに貰った蜂蜜を古宵にあげると高い声を上げた。
6時半、調子も良いし朝連でも行くか。と家を出た。少し暖かくなったとはいえ、朝は針のような風が吹き寒い。ブレザーに手を突っ込みゆっくりと歩く。

「よ、国見少年」
「蒼嗣さん?」

朝っぱらから蒼嗣さんが居た。にこやかに手を振る。待ってたぞと言わんばかりだ。「どうしたんですか?」と首を傾げると「いやぁ、夜織に喰われずに無事帰路に着いたかなと思って」この人の中で夜織さんは信用がないのだろうか。蒼嗣さんの方がよっぽど…いや、なんでもない。

「国見少年顔が整ってるからぺろり、と逝かれちゃいそうで」
「…はぁ…」
「何その目…って痛っ!?」

古宵が蒼嗣さんの頭を突いていた。このやろー!と蒼嗣さんは古宵を掴んだ。ちょっと、古宵に乱暴はやめてください。

「こいつ、夜織のとこに居た鳥モドキじゃん」
「今俺の家に居るんです」
「あー、こいつは有象無象喰うからな。国見少年にはぴったりのボディーガードだな。あ、捕食シーンは見ない方がオススメ。R18グロ映画宛ら」
「…見ないようにします」

キィ?と古宵が首を傾げた様に見えた。
俺は頭に古宵を乗せ、何故か蒼嗣さんと一緒に学校へ向かう。そういえば、道が綺麗な気がした。ゴミが落ちている、とかそういうやつではなく黒いモノが殆どいない。

「だいぶ綺麗になったろ?昨日ちょっと掃除してたし、たぶんこいつも狩りをしてたんだろう」
「掃除」
「おう、春先は憂鬱になる人間多いから」

あれは元より生きているモノではないらしい。
悪意やら邪念やら人間の悪い感情が溢れ出したモノなのだと。個々では小さいソレは、ソレ同士で共食いを始め、ある程度大きくなったら今度は溢れ出す前に人間に憑き喰らうのだと。そうやって喰らい続けたソレは人間の感情まで喰らい、理性が生まれる事がある。そう蒼嗣さんに聞いた。「理性ったってただのケダモノレベルだけどな」と笑った蒼嗣さんに俺は全く持って笑えなかった。

「あんなやつらばっかりじゃないけどな。夜織みたいなやつもいるし」
「夜織さんって…」
「おん?」
「聞くタイミングが掴めなくて、本人に聞いた方が良いのは分かってるんですけど」
「あーあいつ?脈絡無くても聞きゃあ答えてくれんぜ。隠しちゃいないし。俺が言っても特に気にしねーから」
「えっと、じゃあ…あの人の正体って」
「鬼」
「、おに」
「おう、鬼だ。角もあるんだぜ?普段隠してるけど」
「言っちゃあれですけど、鬼こそ人を喰いそうなもんですよね」
「イメージそうだよな。他の鬼なんかは人間喰うんだろうけど。昔はあいつも人間喰ってたと思うぜ」

ははは、と蒼嗣さんは笑った。なんか脅されてる気分だ。不用意に近づくな、とても言いたいんだろうか。

「あ、勘違いすんな。今の夜織は良いヤツだよ。かなりお人よしで人間好きで和菓子が主食のただの鬼だから。ま、近付き過ぎるなっていう忠告はしておくけど」
「近付き過ぎるな?」
「おう、アレは人間大好きだからな。だから、生きる世界が違うと自覚しなきゃいけない」

蒼嗣さんの言いたい事が、よく解らなかった。直に学校が見えてきて「じゃあな国見少年」と蒼嗣さんは行ってしまった。

「近付き、過ぎるな…かぁ」

その警告には、一体どんな意図があるのだろう。蒼嗣さんはいつから夜織さんと知り合いなんだろうか。随分、親しそうだったけれど。俺は古宵の頭を撫でた。



◇◆◇人物紹介◇◆◇

【国見英】
青葉城西高校1年6組
バレー部所属
小さい頃から見えないものが視える
いつも身体が怠い、頭痛持ち
悪い物が近くに居ると特に酷くなる
高校に上がってから
悪いモノに特に付き纏われるようになる


【夜織】
元々は烏の名を冠する山に棲む鬼
現在少し離れた神社の一画に住んでいる
赤い物を好む
赤い着物に赤い簪、赤い番傘狐面
夜織の力が強いため、視えない人間にも認識される
和菓子全般が好き

デフォルト名の【夜織】の由来
彼岸花の別名ヤシキバナより
(彼岸花の別名沢山あります)
夜死期→夜織
少し悪いイメージの方が良いかな、と


【神宮司蒼嗣】
(じんぐうじあおし)
23歳男、祓い屋の息子
基本的に下の名前で呼ばれる
夜織が住んでいる寂れた神社は
神宮司家の持ち物
山やら他の神社やらも管理している

澱みに襲われてる
国見を助けてから知り合いに
よく国見を気に掛ける良き兄
淹れる茶が不味い


【澱み】
国見を襲ってきた黒いモヤ
人が集まる場所によく発生する
人間の負の感情が溢れ出したモノ
個々としては小さいものだがやがて共食いを始めて徐々に大きくなる。大きくなると今度は視える人間を喰い始める。喰い過ぎると今度は理性が芽生える。ただし知能は殆ど無いため殆どケダモノ状態
認識して始めて形を持つ為
無視し続ければ襲われることはない


【影鳥】
元々は日本のモノではない鳥(影)
精霊の類
全身黒く、眼が無い。長い脚に鋭い爪
頭から鹿のような角が生えている
成鳥になると人を乗せられるくらいの
大きさにまで成長する
雛鳥は手乗りサイズ
人懐っこくおしゃべりが好き
基本的に澱みを喰らう
蜂蜜が好き

国見が連れている
影鳥の名前は【古宵】(こよい)