白を引き裂く


目が覚めると、暗闇が広がっていた。明りは無い。段々と暗闇に目が慣れる。人の気配はまるでない。ヒト以外の気配は―――沢山。俺は立ち上がる。なんか、武器ねぇかな…殴れるやつ。辺りを見渡す。古めかしいものが沢山ある。これは、いつの時代のものだろうか。電気機器なんてまるでない。箒を見つけた。…木製じゃあな、と掴み振りおろす。壁にぶつかった瞬間折れた。無し。

「あ、」

平べったい、鉄の板を見つけた。持ちづらいけど、まぁ大丈夫か。つか寒ィ。目の前にあった戸を開く。開かない。まぁ予想通りだな。諦めて、部屋の中を見渡す。

「あの餓鬼どこ居やがる」

俺をこちら側に引き摺りこんだ子供の成りした化け物は、どこに居る?俺は外に続くであろう扉とは逆側にある戸をひいた。――開く。ヒュウ、と冷たい風が吹いた。暗く続く廊下。…どうするかな、助けを待っても良いが。

「…でも、1、2回ぶん殴らねぇと気が済まねェ」

血まみれの、国見を見た。ムカつく。いや、でも俺たちだって悪い。アレは、あの化け物は「俺達」を追いかけてきたのだから。


「日向も余計なもんに好かれやがって」

違うか、寧ろ嫌われたからこうなったのか。頭の中で、とある人物を思い浮かべた。
目の前の壁を蹴りつける。崩れる。壁の先には何もなく、ただ闇が広がっている。やっぱり、そう簡単には出れそうにないな。

「迷路ってどう出れば良いんだっけか?壁に片手付くんだっけか。でも別に目的は出ることじゃねーしな」

そもそも人間一人、この建物から出られてもこの空間からは出れないし。それは、こちら側に引き摺りこんだ奴をどうにかしても、だ。俺は頭を掻き毟る。「あー…」と間抜けな声が零れる。

「怪我しない程度に、まぁ…」

ぶっ潰すか。つかこの鉄の板持ちづらい。鉄パイプねーのか鉄パイプ。俺はゆっくりと闇が続く廊下を歩きだした。






▼▲▼

夜織さんが、闇に消えた。
残される俺達。…居心地が悪い。及川さんと岩泉さんの視線が痛い。「あーえーっと…」と目を逸らし、しどろもどろになる。言ってもいいのか。もうこの状況で言わないという選択肢は無いだろうけど、それにしたって突拍子もない話だ。どう、切り出す?と俺は悩む。

『国見ちゃん、もう包み隠さずぜーんぶ言っちゃいなさいよ』
「頭乗っかるな朱音」
『ふんふーん!国見ちゃんが言わないなら私が言っちゃう!はじめまして、徹に岩ちゃん。私朱音』
「……ハジメマシテ」

警戒心むき出しの2人に苦笑する。「ちなみに、及川さんにずっと憑いてましたよ」なんて言うと「エ!?」と声をあげる。

「及川さんの足の怪我を驚異的早さで治したのも朱音ですよ」
『余計な事言わないの』
「え!なに守護霊的な何か…?」

守護霊だったら、どれだけ良かったことか。「そんな可愛らしいもんじゃないですよ」というと朱音に怒られた。

「なぁ国見」
「なんですか岩泉さん」
「これとか、そいつとか…は…」
「あー…んーと…」
『日本風で言うと【妖怪】とか、そんな類になるんじゃないかしら。まあ私たち元々日本産じゃないけど。ねぇ影鳥』
『わたくしめの名前は氷雨と申します!朱音殿は大変美しゅうございますな!!』
『鳥に褒められてもまったく嬉しくないわ…』

バサバサと翼を羽ばたかせる氷雨。古宵もいずれ、こうなってしまうのか…と遠い目になった。育て方を、間違えないようにしよう。


「はい」
「なんですか及川さん」
「質問ターイム、でオッケー?」
「はい大丈夫です」
「幽霊とか視えちゃう人?国見ちゃんと、それと飛雄」
「俺は…そうですけど。影山は」
『トビオ殿は生まれつき【そういう体質】でございましたぞ!』

それは知らなかった。影山が、俺と同じだなんて。いいや、影山の方が慣れているように思えた。俺なんかより、全然奴らに物怖じせず。

『まぁ、わたくしめが教え込んだ事もございますが、トビオ殿は大層攻撃的でしてねぇ…小さいころから有象無象を踏みつぶしたり蹴飛ばしたりぶん殴ったりのオンパレードでした!かく言う私も、何度か燃やされそうになりまして…トビオ殿の第二の親だというのに…しくしく』

それは、かなり…。あの顔で、追いかけまわされたらさぞ怖いだろう。影山、そういうのにかなり慣れていたのか。…なにか、俺の中で引っかかる。なん、だろうか。モヤモヤを残しながら、未だに喋り続ける氷雨の声に耳を傾ける。
しかしまぁ氷雨は喋る。影山の苦手とする部類のヤツではないだろうか。燃やすって焼き鳥にでもする気なのか。『たまに「うるせえ焼き鳥!」と言われる始末でして…なぜああ育ってしまったのか…』思った通りだった。ああ育ってしまった理由に、氷雨も含まれているような気がしてならない。

「とりあえず、朱音と…氷雨と、後俺の頭に乗ってる古宵は大丈夫なやつです。さっきの夜織さんも」
「さっき、すごい警戒しちゃったけど夜織さん?ってめっちゃくちゃ綺麗な人だよね」
『まぁ徹の好みよね。でも彼岸の君は駄目よ!徹みたいなちゃらんぽらんに彼岸の君は勿体ないもの』
「割とへこむ事言われた…ちゃらんぽらん…って」
「当たってんだろ」
「フォロー無しっ!?」

朱音が普通に及川さん達に溶け込んでいて吃驚した。まぁ、安心かな。朱音は…そこまで悪い奴じゃないし、俺は根に持ってるけど。朱音は及川さんのこと、結構気に入っているようだし、もし否定なんかされたら…なんて思うと心が痛い。

「夜織さん、ってやつも…人間じゃないのか」
「殆どヒトにみえますけどね」
「形は人だけど、なんかやっぱり雰囲気がヒトとは違うっつーか」
「岩泉さん、そういうところ敏感ですよね」
「あ?そうか?」
「ええ、まぁ」

気が合ったのか、及川さんと朱音が喋るのを眺める。「あいつ、順応早過ぎんだろ」と呆れる岩泉さんに同意した。そりゃあもう楽しそうに話す朱音を見る。朱音と目が合い、朱音は笑った。すこし、寂しそうに。


『だって、今のうちに沢山話しておきたいじゃない』
「え?」
『国見ちゃんが居る前で言うのもなんだけど、私たちが視えたって良いこと何もないのよ。彼岸の君が事が終われば呪(まじな)いを掛けて視えなくする、って言うんだから。視えなくなったら、お話しできないもの』
「……」
『必要なら記憶だって消すわ。私の記憶だけ消すのは、そう難しい事じゃないもの』

無言の及川さんに目を向ける。何かを、考えているようだった。はぁ、と岩泉さんが溜息を吐く。ああ、なんとなくわかった気がする。


「それは、やだなぁ」




◇◆◇補足◇◆◇

影山が思い浮かべた
「とある人物」ですが
今書き進めています慈愛の
外伝にて詳しく明かすつもりです
公開時期は未定ですが
そちらもよろしくお願いします