苺に鋭いフォークを


「月島君、ケーキ美味しい?」
「美味しい」

あの月島君がなんと素直な事か。なんともまぁ、可愛らしく(見た目は全く可愛くは無いけど)ケーキを頬張る月島君を眺めながら、私は紅茶に口を付けた。
ケーキを運ばれた時、当然ケーキは私の前に置かれて、店員さんが去った後にすすーっと月島君の前にケーキを押しだした。少し気まずい感じだった、覚悟はしてたけども。


「カップルさんにクッキーのおまけつきだって。よかったね月島君」

カップル違うけど。まぁ貰えるものは貰っておいた方が得だもんね!クッキーが入った可愛らしい袋も月島君の方へと押し出した。
やることもなく、じーっとケーキを食べる月島君を見る。「見てたってあげないよ」なんていう月島君のボケに私はどうツッコミを入れたらよかったんだろう。「その苺たべちゃうよ?」なんて言えば良かったかな。食べられないけど。
最後まで取ってある苺をじーっとみる。月島君、苺最後まで取っておくのか…か、かわいい。さくっと苺にフォークを突きたてた。

「きゃー!私をたべないでー!」
「うるさいよ」
「ごめんなさい」

本気トーンで怒られた、月島君怖い。
月島君はじっとフォークに刺さった苺を見つめたかと思うとそれを私の方へ向けた。ん?私は首を傾げる」。

「食べていいよ」
「いらないよ!?」
「いやいやいやいや、最後の苺食べられるとか千代さん贅沢だよ?」
「知らないよ!食べられないし!」
「良いから食べなよ」

トイレ駆け込んでも怒らないからさ。なんて月島君は言ってフォークを私の口元に近づけた。所謂あーん!というやつではないだろうか。でも私に照れるという余裕は存在しない。無理無理ほんとに無理。しかし真っ直ぐと私の目を見つめる月島君。私に拒否権は皆無のようだ。…ほんと、戻したって知らないんだから。勇気を出して、口を薄く開く。ここで「あ、ごめん冗談だよ」なんて月島君が自分で食べてくれればよかったんだけど

「んぐ!?」

有ろうことか、開き切っていない口に無理やり苺を捩じ込んできた。変な声が漏れる。そしてフォークだけが口から引き抜かれる。どうしよう、口の中にあるこれ。噛む事もできず、かといって出すわけにもいかない。

「ゆっくり噛んで」
「んー…」

何とも言えない舌触りに背筋が凍る。じわり、涙が出そうになるのを我慢する。眉間に皺を寄せながらも「はい、ゆっくり…ちょっとずつ飲み込んで」という月島君の声に合わせて苺を飲み込んだ。紅茶を流しこむ。


「うー…げほっ、月島君のばかー…」
「ごめんごめん、本当に駄目なんだ。トイレ行く?」
「このくらいなら大丈夫だばかぁー…っ」
「ごめんってば。よくがんばりました」

そういって月島君は私の頭を撫でた。何がしたかったんだよー…。「フルーツ系なら案外、いけるんじゃないかなって思ってさ」なんていう月島君を睨みつけた。そんなのずっと昔に実験済みだよ馬鹿ぁ!


「お詫びにこれあげる」
「え?あれ、これ…」

前に一緒に文房具屋に行って買ったあのレターセットだった。封筒には【千代芽衣子様】と書かれていて、私はきょとんと月島君を見る。月島君は肘をつき「読んだら、食べていいよ」なんて言った。私は、糊付けされていない封筒を開く。




「つ、月島君」
「なに、それくらい数秒で読めるでしょ?食べていいよ」
「…食べるのは、勿体ないよ」
「たった2文字の言葉じゃん。勿体ないっていうんならまた書いてあげるよ」

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