紙にテーブルナイフを


先日、「友達は僕の言う事を聞く事」なんて書かれたルーズリーフを食べた。それ以降、私はお昼を月島君と共に取ることになった。どうしてこうなったのでしょうか。
それまで一緒に食べていた友達は「いいのよ!私達を気にせず2人で食べてきて!」「そうそう!2人仲良く行ってらっしゃい!」と少し興奮気味に背中を押されてしまった。なにか絶対勘違いしている。
こうして私は月島君に腕を引かれ、人気が無い体育館裏に2人で腰掛けるのです。

「ティッシュとかは食べないの?」
「ティッシュはなんか、口触りがまごまごするの」
「小学生が好きなさ、匂い付きのティッシュとか有るでしょ?ああいうのはどうなの?」
「激マズでした」
「…試したの」

誘導尋問だろうか。確かに、匂い付きのティッシュは美味しそうだったのだ。だからこう、思わず食べてしまったら…不味いのなんの。「そっか…」と月島君は1枚の紙を渡してきた。


「あっ、和紙だ」
「家にあったから」
「和紙は軽めで食べやすいの。いいの?」
「ドウゾ」

ありがとう。私は和紙を千切って口に入れた。ん、味はいつもと変わらないけど、口当たりが軽くて好きだ。月島君も袋から取り出したパンを食べ始めた。




◇◆◇


和紙を食べ終えた千代さんはごちそうさまでした、と手を合わせた。なんともまぁ、複雑な気分だ。

「お腹減らないの?」
「この頃は紙食べてるから大丈夫」
「…あ、そう」
「辞書がね、一番おいしいんだよ。紙凄く薄くて」
「そのネタ振られてもどう返していいか本気でわからないんだけど」
「でもねぇ、辞書高いから一頁丸暗記出来たら食べるって決めてるの」
「すごい勉強の仕方…」

そういえば彼女が食べていたルーズリーフには沢山の文字が書かれていたような気がする。インクとか大丈夫なのだろうか。「昔からこの勉強方法なんだよ」と食事してるのか勉強してるのかまるでわからない。


「5,6年前からって言ってたけど、それ以前はどうしてたの?」
「拒食症だったの。あの頃は無理矢理口に入れてたけど、大体病院で点滴受けて。お母さんも頑張ってご飯食べさせようとあれこれ作ってくれてたんだけどね」

あの頃学校の先生に「虐待でもされてるんじゃないの?大丈夫?」なんて心配されて…困っちゃったよ。と千代さんは笑う。全く笑えないんだけど。

「なんかね、雑貨屋さん行って半透明の綺麗な紙が売ってたの。あの時はただ綺麗だなーなんて思って買ったんだけど」
「うん」
「家帰ってじーって眺めてたら突然、食べてみようと思って」
「なんでそうなったの」
「で、食べたら吐かなかったから」

吐かなかったからって主食にすることは無いと思う。「でも栄養は取れないから点滴はいつも行ってるんだよ」と腕の包帯を見せた。


「毎日帰りに点滴打って帰るの。毎日針刺すから包帯巻かないと気持ち悪くて」
「、痛くない?」
「もう慣れたよ」

腕を撫でる、僕はその腕をそっと見つめた。

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