ショートケーキの溜息


「ツッキー!彼女出来たって本当!?」

僕は耳を塞いだ。というか同じクラスなのに今まで気づかなかったの?「うるさい山口」「ごめんツッキー!でも全然知らなかった!」そういう山口に俺は溜息を吐いた。


「彼女って、最近一緒に居る千代さん?」
「そうだけど」
「つ、ツッキーが彼女って認めてる…!」
「なんなの山口」

だってツッキーの彼女だった子たち「月島君の彼女です」なんて言ったらツッキー「はぁ?誰が僕の彼女だって?冗談も大概にしてよ」とか言ったじゃん!なんて山口が言ったけど、いやアレ本当に付き合ってなかったし、女子が勝手に言ってただけだし。迷惑極まりないんだよほんとに。鬱陶しくて仕方なかった。


「でもそっかぁ…千代さんかぁ……」
「……なに」
「…俺、千代さんの事全然知らない」

ツッキーの彼女なら、仲良くならなきゃ!と意味が分からない事を言いながら山口は走り去って行った。ちょっと、何処行くの山口。芽衣子と仲良くなりたいらしい山口に、若干嫌な予感を感じながら、まぁ大丈夫だろうと高を括った。

あの時山口を止めていれば、なんて今更な後悔をすることとなる。




◇◆◇



「月島」
「お前…」

田中さんと西谷さんが目の前に立ちはだかった時点で、良くない事が起きると予期した。というか、なんとなく予想はついている。隣に居る山口を見ると、目を合わそうとしなかった。やっぱりか山口…。俺の視線から逃げようとする山口と、俺の肩を掴む田中さんと西谷さん。もう走って逃げようか。

「彼女が出来ただと?」
「俺達は何も聞いてないぞ」
「なんで言う必要があるんですか」

あの月島が否定もしないなんて!!と騒ぎ立てる2人に他の部員まで集まってくる。ああ、まったくめんどくさい。


「性格がひん曲がった月島と付き合える女子なんて、どんな子なんだ?」
「メンタルがかなりつよい女子とみた」
「月島と張り合える女子…」
「山口ー!月島の彼女ってどんな」
「俺の口から言える事は何もないです」
「なんで震えてんだ山口」
「ツッキーが怖いからです」

じゃあ月島本人に聞くか。何故か親指立てて田中さんが笑う。ムカつくニヤつき顔だった。「じゃあ洗いざらい話してもらうぞー!」と引き摺られるように部活終わりの僕は部室に連れて行かれる。


「さて、まずは」
「その子可愛いのか?」

「西谷サイテーだな」
「最低だべ」
「最初は名前だろ」

もう勝手にコントしててください、と僕は無視して着替え始める。「いやいややっぱり気になるそこ!」「月島に似合わずほんわかした子だったらどうする!?」「似合わない!」勝手な事を言ってくれる。山口がガタガタと震えているのに気付いたが無視をした。僕は着替えながら口を開く。


「割と抜けてます」
「癒し系?」
「癒し系…?まぁ僕みたいに性格ひん曲がってはいないですからね」
「……誰だよ、月島の性格ひん曲がってるって言った奴…」
「お前だよ!」

いいえ、田中さんじゃなくて西谷さんでした。僕はシャツのボタンを締め切る。ああ、そう言えばケータイの電源落としたままだったな。学ランを着る前に電源を入れた。

「で、名前は?」
「言いません」
「なんでだよ!」
「言ったら探してちょっかい出すでしょ」

そう言うと黙り込んだ。図星か、少しは人の気持ちも考えてほしいものだ。ケータイを弄るとメールが来ていた。通知1件、芽衣子からだった。メールを開く。いつも部活が終わるくらいの時間に「部活お疲れ様!」というメールが送られてくる。そんなにまめにメールしなくても良いのに、なんて思いつつ僕は顔を緩める。


「って、なに嬉しそうな顔してんだ月島ぁー!幸せかこの野郎!!」
「別にいつも通りですけど」
「いつも通り幸せってことかー!?」
「五月蠅いんですけど」


同じ部員の連中に彼女居るのバレた。なんてメールすると「そっかー…でもいいんじゃないかな」なんて返信が来た。

だって月島君の彼女だもん。

ペットの間違いじゃないのか?なんて笑う。これ言ったら流石に怒るだろう。


「月島の彼女ってどんな子!?」
「山口ィ!!」
「俺は何も言いませんっ!!」


「僕の彼女、山羊みたいなヤツです」

は?と全員が声を合わせて言った。


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とある日の部活後の風景
山羊がペットとは

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