カップいっぱいのあいを


蛍君の作ったスープと、パスタは不思議な味がした。多分、味は普通なんだと思う。不思議と感じるのはここ10年くらいまともにご飯を食べられなかったせいだ。
棚にあった食パンは、いつもと同じでなんだか気持が悪い味がした。治ったわけでは、ない?コトン、と置かれたカップにスプーンを沈める。じっと、蛍君が見守る。


「、あったかい」

スプーンを口に運ぶ。あたたかい味がした。ぽろぽろと涙が出てきた。「泣かないの」蛍君の大きな手が私の涙を拭う。

「パスタも食べたいぃいい…」
「駄目だよ、胃がびっくりするでしょ」
「うううう」
「…今度作ってあげるから」

残念だけど、今日はスープだけで我慢する。ぽろぽろと泣きながら私はカップに口を付けた。



◇◆◇


「デザート用にプリン買っておいたんだけど、食べる?」
「ひとくち…」

そういうと蛍君はスプーンにプリンを掬って私に差し出した。ぱくり、私はプリンを食べる。変な味がした。

「まずい」
「…普通だけど」
「気持ち悪…」
「え、ちょっと水飲んで」

慌てる蛍君が水を差し出す。私はゆっくりと気持ち悪い味を流し込んだ。「食べられるものの基準が全く分かんない」そういう蛍君に私は首を傾げた。


「蛍君が作った物なら、食べられるんだよ」
「……は?」
「スープとパスタが食べられて、買ってきた食パンとプリンが食べられない。ほら、私蛍君が作った物なら食べられる」

でも、うん。いいや。私がそう言うと蛍君は怪訝そうな顔をした。私は紙に手を伸ばして千切る。ぱくり、食べる。…うん、普通。

「紙食べる」
「なんで」
「食費節約?」
「馬鹿じゃないの?」
「紙の方が安上がりだよ」
「馬っ鹿じゃないの」

蛍君が怒った。その表情に私はキョトンとする。なんで?私がまた紙に手を伸ばすとそれは取り上げられた。


「なんで普通の食べ物が食べられるのに、紙食べるのさ」
「だって」
「だってじゃないよ。僕の作るものが食べられるのならなんでも作ってやるよ。病院行って何の問題も無かったら紙食べるの禁止だから」

むっとする蛍君。「でもそれだと毎日蛍君がご飯作らないとだよ」そう言うと「もともと僕が作る予定だったんだから量がちょっと増えるだけで変わらないだろ」とデコピンされた。痛い!



「今日の夜は消化の良いモノを作ろう」
「…いいの?」
「いいもなにもないだろ」

「これから毎日、僕のご飯食べさせるから」そういう蛍君に私はなんだかむずむずした。「…蛍君居ないと私生きられなくなっちゃうね!」そう笑ってみせると蛍君がきょとんとした表情をする。


「当然でしょ?芽衣子はずっと僕と居るんだから」
「……は、はい…」

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