3年5組出席番号17番さんの話
こんにちは、音駒高校3年5組出席番号17番の通行人Cです。さて、今日も学校が始まります。朝からとてもうるさいです。このクラスの名物です。黒尾鉄朗と巳知代による夜久衛輔いじりです。ほんとうるさいです。あ、数人教室から出て行きました。堪えられなかったようです。
「夜久とつぐみはーらぶらぶー」
「おい馬鹿止めろ」
「そうだぜ巳、これは葛城が居る前で言わなきゃ面白くねーだろ」
小学生かよ。全員がそう思っているはずです。夜久衛輔君は結構大人です。怒鳴り散らす事も無く、怒りに震えるのみです。胃に穴が開きそうで心配です。いっそぶん殴ってしまえばいいと思います。スカッとします。むしろ夜久衛輔君の代わりに殴ってやりたいくらいです。頑張れ、園児のお守り。あ、いつの間にか自分の中で小学生から幼稚園児にランクダウンしましたおめでとうございます黒尾鉄朗、巳知代。
ヒートアップする2人の会話、もう少し声のトーンを落としなさい。廊下まで響いていますうるさい。ハァ…と溜息を吐き席を立ちます。目を合わせないように廊下に出ます。案の定廊下に響いて…
「あ、葛城さん」
「は、ははは…」
さて、犠牲者その2の葛城つぐみさんが廊下の、教室のドアに寄りかかっていました。普通であったら気まずいのですが…ええ、お察しの通りいつもの事です。
「いつも大変ですね」
「…あれ、いつ終わるかなぁ…終わらないと気まずくて教室は入れないよ」
なんともまぁ、可哀想な人です。ぎゃははは!と笑い声が響きました。うるさい。ずるずると葛城つぐみさんは廊下に腰をおろします。「うーあー…」と言葉にならない声をあげます。心中お察しします。
「そういえば、お付き合い始めたそうで。おめでとうございます」
「もうクラス全員知ってるよね。ありがとう」
「あと、頑張ってください」
「……ははは」
「ファイトです」
項垂れる葛城つぐみさんを見て本気で可哀想に思えてきました。朝のHRまであと10分ほど…ふむ。ちょっと待っててください、と教室へと戻ります。
「夜久君、先生がお呼びです」
「え、ああわかった。ありがとう」
「お急ぎのようでしたから、はやく」
がしり、と夜久衛輔君の腕を掴みます。察してください早くしろ。「は、なに?」とうろたえる夜久衛輔君と「浮気は駄目だぞー」と笑う黒尾鉄朗。思いっ切り睨んでやります。ぴしり、黒尾鉄朗と巳知代の動きが石のように動かなくなりました。
教室から連れ出したところでべしっと夜久衛輔君を葛城つぐみさんの方へ投げ捨てました。
「あと10分ほど2人でふらふらしてるといいですよ」
呆然とする2人を余所に、歩き始めます。今日は朝から良いことしましたね。つーか黒尾鉄朗「浮気は駄目だぞー」って…
「俺男なんですけど」
後で蹴りを御見舞してやろうと心に誓いました。
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