「夜久どうした」
「面白い事が起こりそうだにゃー?夜久ー?」
「…お前ら本当にウザいな…」

にやにや笑う二人。なにやらお察しのようで本気でムカつく。「まぁ今日くらいはそっとしといてやりましょーぜ黒尾さん」「そーだな巳さん」おーおー是非そうしてくれついでにそのにやにや顔も引っ込ませてくれ。

「覗き見したらぶっ殺す」
「はははそんなことするわけないよなー」
「そーだにゃー」

ははははははは、と笑い声が響く。不気味だ。あと覗く気満々じゃねーか。いやでもまぁ、こいつ等には沢山助けられたし…助け、られた…し?…助けられた事あったか?100歩譲って巳はファミレスの事とかで手を貸してはくれたけど…

「結局引っかきまわしてるだけだよなお前ら」
「えー?俺らは夜久の事を思ってだな」
「迷惑極まりねーよ」

なーなーどこで告白すんだー?と俺の腕を揺らすうるさい2人組。「誰が教えるか」というと「じゃあつぐみに聞いちゃおう」なんていうもんだからもう諦めた。




▽△▽


「葛城ー」
「なにともちゃん」
「放課後夜久と約束してるんでしょ?どこで会うの?」

…目がきらっきらしているともちゃん。ハァ…と私は溜息を吐く。そう言えば今朝も教室で騒いでたみたいだなぁ。…実はともちゃん鋭いようで鈍いから、私が廊下で聞いてたのなんて知る由もないんだろうな。

「ともちゃん」
「にゃんじゃい」
「なんで?」
「うん?」
「なんでともちゃんに言わなきゃいけないのかな?」
「……お、おう」
「私と夜久君の約束だよ」
「……ソウデスネ」

ともちゃんは何やら顔を引き攣らせ、逃げるように黒尾君の元へ行ってしまった。…そんなに強く言ったつもり、無いんだけどなぁ。まぁいいやと私は机の中から次の授業の教科書とノートを取り出した。ちらりと夜久君の席に視線を這わせると夜久君と目が会った。…えへへへ、と笑顔を浮かべた。なんか、むずかゆい。
放課後、校舎裏の花壇かぁ。



そう言えばあの時のリベロ君はヘタクソ先輩にぎゃふんと言わせられたのでしょうか。













水道の蛇口を捻ると手に持ったシャワーホースから水が出る。若干上向きに花壇に向け雨のように水を降らせる。あ、虹。小学生の頃こんな虹でもワクワクしたなぁ、なんて思いだした。
夜久君はまだ来ていないようなので暇つぶしがてら花に水を上げる。本当は委員会の人がやってくれるんだけど、たまにこうして私が水を上げるのだ。水やり表のチェックは忘れずに。

「葛城」
「あ、夜久君。ごめんなさい、もうちょっとで終わるからー」
「ん、ゆっくりで大丈夫」

一通り水やりが終わり「水止めてくるね」というと「捻る蛇口、間違えんなよ」と言われた。…変なの。笑いが出てきてしまう。

「大丈夫だよー。あの時よりはドジ踏まなくなりましたから!」

きょとんとした表情、でもすぐに夜久君は「そっか!」と笑いました。…あれから…成長したんだなぁ。しみじみと思いながら水道へ向かう。足取りは軽かった。




▽△▽


「…何が「あの時よりはドジ踏まなくなりましたから!」なのか…」
「…あの、ほんと申し訳ない…」

何かしら、やらかすんじゃないだろうかなんて思っていたら案の定葛城はやらかした。蛇口を捻る方向を間違え、暴発。ずぶ濡れの葛城を見て慌てて教室に戻りタオルを持つ。部活は無いのにいつもの癖で部活に使うタオルをかばんに入れてきてしまったが丁度良かった。校舎裏に戻り、頭にタオルを被せわしゃわしゃと拭く。

「自分で拭きます…!」
「良いから黙って拭かせろ」

偶に腕に触れる髪。思わず触るとさらさらと指の間を通る。あー…今俺絶対顔赤い。葛城がこっち見れなくてよかった。

「あの、さ。葛城」
「はい?」
「お前憶えてる?」
「……さぁ、何をでしょう」

声は、明るい。これ絶対憶えてるだろ。葛城が俺の腕を掴み、顔を上げた。じっと、俺の目を見つめる。

「さて、あの時のリベロ君は、ヘタクソ先輩をぎゃふんと言わせられたのでしょうか」

葛城が笑った。思わず俺も笑ってしまう。

「おぅ、黒尾とあと海っていう同級生、あんとき良くしてくれた2年生で完膚なきまでにぶっ潰したぞ。でもぎゃふんとは言わないよな」
「それは残念。ぎゃふん、って聞いてみたいですよね」
「そんなの言う奴いねーって」
「そっかぁ…」

「俺さ、葛城の言葉で救われたんだ。あのままだったら、先輩にびびってそのまま自信喪失してただろうなって」
「そんなこと無いと思うけどな、夜久君は」
「いいや、葛城のお陰だよ。あれからさ、何度もちゃんとお礼言おうと思ったんだ。でもクラス違うし、なかなか会えないし」
「3年で初めて同じクラスだもんね」
「そう。で、喋ってみるとやっぱり見てるだけの時と違うな、って」
「がっかり?」
「避けられてる事にちょっとがっかりしたけどな」
「……も、申し訳ない」
「今ちゃんと話せるし、別に良い」

こつん、自分の額を葛城の額にくっつける。逃げる様子は、ない。すぅっと息を吸う。優しい風が吹いた。

「俺さ、ずっとまえから葛城の事が好きだったよ」

葛城が俺の手を握り締めた。

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