あれから、山口と天城と一緒に居る事が多くなった。それは昼休みだけではなく、授業の合間の休み時間もだ。何故か意図的に一人でいようとする天城を、山口は良く気に掛ける。断じて僕が気にしているのではない。

授業中、斜め前に居る天城の顔を盗み見る。真剣にノートに目を落としていた。そういえば、塾に通ってた時はよく笑っていたのに、高校に入ってからあの表情を見た事が無いな、なんて思った。あの時、天城はなんの話をしながらにこにこと笑っていたんだっけ?たしか、そう


「山口さ、天城の彼氏の話憶えてる?」
「…ツッキー、俺の記憶が正しければそれは天城さんの彼氏じゃなくて幼馴染じゃなかった?」
「あれ幼馴染の話だった?」
「……お付き合いしている人たちの話でした」

いやまぁ、天城の口から付き合ってるなんて言葉を聞いたことは一切ないが、話を聞くだけで胸焼けするような話だった事を覚えている。天城の事だから、自覚は無いだろう。男女の付き合いという概念が果たして天城の中にあるのか、怪しいところでもある。


「そういえば、幼馴染君の話聞く事なくなったね。塾ではあんなに話してたのに」
「そもそも人付合いしなくなったよね、天城」
「あー…そうだね。なんか元気ないっていうか」

そう、元気がない。ぼーっとしてる事が多い気がする。天城は、中学の頃第一志望は青城と決めていた筈だ。話も聞いていた。幼馴染が青城だから私も青城に行くんだと言う不純な動機。だけど天城は、青城に行かずに烏野に来た。その理由は?



「確かその幼馴染君ってバレー部って話だったよね」
「そうそう!結構上手なんだって天城さん言ってたよね」
「なら高校でもバレーやってそうだね。王様とかその幼馴染君わかるかな」
「…ツッキー」
「なに?」
「優しいね」
「……うるさいよ山口」

そういえば明日青城と練習試合だったっけ。なんだかお膳立てが出来過ぎてる気がする。あーあ、僕なんでお人好しみたいなことしようとしてるんだろ。
目の前を通る王様に、俺は口を開いた。



◇◆◇


「天城さん、今日はツッキーと2人で作戦会議だからごめんね、一緒にご飯食べられない」と山口君が申し訳なさそうに声を掛けてきた。作戦会議…バレーの事かな?「大丈夫だよ」そう返した。申し訳なさそうに謝る山口君は本当に優しいな、なんて思った。
そんなわけで久しぶりの一人お昼。日当たりの良いベンチに座り日向ぼっこをしていた。…なんか、光合成している気分になってしまう。

「あったかいなぁ…」
「んー、そうだなぁ…」

…ん?私は視線を横に向ける。一人だと思っていた空間に一人、男の人がいた。しかも私の隣に座っていた。不意打ち過ぎて吃驚してしまう。そんな私の様子に「あ、ごめんな?驚かせちゃって」とその人は笑った。柔らかい笑みで、私は警戒心を緩める。

「あまりにも気持ちよさそうに日向ぼっこしてたもんだからつい。俺、3年の菅原孝支。君は?」
「い、一年の天城さくらです」
「ん、さくらちゃんな」

今日は一人?と聞いてくる菅原先輩に私は頷く。菅原先輩はにこにこと笑いながら「月島と山口と仲がいい子だべ?」と問いかけてきた。

「俺、バレー部なんだ」
「あ、そうでしたか。いつも月島君と山口君にはお世話になってます」
「堅苦しい!」
「ええ?」
「もっとフレンドリーに」
「月島君と山口君とお友達です」
「よし、それそれ」

なにが満足したのか、ぐりぐりと私の頭を撫でる菅原先輩。どう反応していいのかわからず私はされるがままだった。


「さくらちゃんさ」
「はい」
「入学して1週間一人でここ居たべ?」
「えっ」
「ははは、ここ俺のお気に入りスポットの一つだったからさ。昼休みにふと見てみたらさくらちゃんが一人でご飯食べてたからさ。いつか声掛けようと思ってたんだけど」

いつの間にか月島と山口も一緒になって、あそこに居るようになって安心したよ。と菅原さんが笑う。み、みられていたのか…と少し恥ずかしい気持ちになった。


「さくらちゃん学校楽しい?」
「…どう、でしょうか。月島君と山口君と居る時は楽しいです」
「物足りない?」
「…しいていえば、そうです」
「そっかぁ…」

菅原先輩がベンチから立ち上がる。太陽の日を浴びて背伸び。んー、天気いいよなぁ。空を仰ぎ見ると晴天だ。くるり、菅原先輩が私の方へ振り向く。

「さくらちゃん、友達になろうか」
「…へ?」
「友達計画。さくらちゃんは友達100人作る事」
「友達沢山居ても、浅く広い関係ですよ?」
「えらい現実的な事いうねさくらちゃん…」

まぁその通りだけどさぁ…と菅原先輩は肩を落とした。友達、友達かぁ…。そういえば元から友達は少なかった気がする。ずっと、国見君が一緒で、それ以外はいらないと思っていたから。そう考えると、私の世界は国見君で、国見君しかいなかったんだなぁと思った。

「友達、」
「じゃあ100人作るのは別にいいから、俺と友達になろ?」
「……先輩と?」
「年の差なんて関係ないベ?しかもたったの2歳差」
「高校生の2歳差は結構」
「揚げ足取り禁止!」

ぺちんっ!とデコピンされた。手加減無しのデコピンは痛い…!デコピンされたおでこを撫でる。

「ううっ。なにやら脅迫されている気分です」
「いじっぱりなさくらちゃんが悪い」
「…むぅ、いいですよ。菅原先輩、今日から先輩とはお友達です」

頬を膨らまし、仕方ないという口調で言ったのに「ん!友達な!」と満面の笑みを浮かべる菅原先輩にすっかり私は毒気を抜かれてしまった。…私は、いじっぱりらしい。


「じゃあお友達に悩み事を打ちあけてみようか」
「…それは…友達じゃなくて先輩面です」
「気にすんな気にすんな!ほら、悩み事あるベ?」
「今日出来たばっかりのお友達に打ちあける悩みなんてありません」
「手ごわいなぁ…」

なんだろう、この先輩。ゆるゆると私の髪を取り梳かす。「んー…確かに月島が言った通り…」と困った顔をした。

「月島君?」
「あ、やべ。口に出てた?」
「え、っと…?月島君がどうしました」
「……」
「先輩」
「んー…友達付き合いが苦手な月島が俺を頼って来たんだよ。なんだか元気ない友達をどうにかするにはどうすればいいですかって」

え、月島君が?私はきょとんとする。「前より元気ないって心配してたぞ、月島も山口も」そういう菅原先輩に私は目を伏せた。

「やっぱり、元気ない様に見えるの…かな」
「月島たちから見て、そう見えるんだろうね」
「…そう、ですか」
「なんかこう…大雑把でいいから話してみない?」
「大雑把?」
「例えばなしでもさ、なんでもいいから。話すと楽になる事って、あるだろ?」
「でも」
「友達と喧嘩した、とかほんと大雑把でいいんだから、先輩に話してみなさい」
「お友達じゃないんですか?」
「意地っ張りなさくらちゃんは俺の事友達のしてみてくれそうにないから」
「…孝支君」
「!?」

あ、そこまで行っちゃう!?と先輩は笑う。そのまま頭をぐっしゃぐしゃに撫でるものだから、なんだか私も笑ってしまった。

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