今日も、彼らは私と一緒に居てくれるらしい。袖の下で巻きつくアイビーを時折千切りながらも、やはり嬉しさが止まらなかった。むぅ、アイビーを抜くの今日で何回目だろうか…。こんなんじゃすぐばれちゃうよ、なんて思いながらぷつんと蔓を掴み取る。

「あ、影山君?」
「…あ?えーっと…天城?」

あ、影山君私の事憶えてるんだ。ボールを持つ影山君に「昼練?」と聞くとなんだか言い淀む感じで「…ああ」なんて答えられた。どうしたのかな。


「昼練は昼練だけどな…そういえばお前、青城じゃないんだな」
「…うん、志望校変えたの」
「なんでまた」
「…なんとなく?」
「国見は、どうした」
「んー…」

きっと今の私は情けない表情をしているんだろうな。国見君の名前が出ると、私はとことん弱くなってしまうのだ。ふと、開けずにいるメールを思い出す。彼は、私の事を今ではどう思ってるんだろうか。嫌われて、しまっただろうか。

「花」
「え」
「なんか、花が」

影山君の手が、顔に向かって伸びる。一歩、後ずさるが前に影山君は私の髪に触れた。花、ってまさか。はらり、視界に青い花が映る。まずい、私の身体は硬直した。

「…えーっと、髪飾りか?」
「か、影山君…」

どうしよう、ボケなのかな?それとも本音で言ってるのかな?「なんか取れそうになってたから取っちまったけど、横につければ良いか?」なんて聞く影山君に、あ、この人ド天然なんだなと思った。

「…何かこの花、生っぽい」
「生っぽいって言い方…。朝寝ぼけて本物の花頭につけてきちゃったみたいだね」
「すげー寝ぼけ方だな」

どうしよう、これでほんとに気づいてないの?寝ぼけて生花付けて来ちゃう女の子ってなんなの?「ふーん」なんて花をくるくると回す影山君に、色々不安を覚えた。この人大丈夫なのかな…。


「国見と、喧嘩したのか?」
「え?」
「同じ学校じゃないとか。お前らいつも一緒だっただろ」
「…そうかな」
「俺だって気づく。夏休みの後から、お前らおかしかっただろ」

影山君、そういうのちゃんと気づく人なんだ。「中学の部活引退して、周りを良く見る様にしたら気付いた」なんて影山君が言う。

「喧嘩、じゃないと思う」
「…そう、か」
「影山君も、喧嘩ではないでしょう?」
「そうだな…」


「影山ぁー!何してんだよ!!」と声が響いた。「悪い、俺行くわ」という影山君にうん、と頷く。ぽんっと先程掠め取られた花を投げられる。

「その花、まぁ…綺麗だとは思うけど、天城はもっと明るい色の花が似合うと思う」
「え?」
「じゃあな」

そう言って影山君は走って行ってしまった。もっと、明るい花が似合う…かぁ。なんか、影山君らしからぬ言葉だなぁ。私はくすくすと笑う。







「なに王様と仲良く会話してるの。人を待たせておいて」
「ひゃ!?…つ、月島君…」
「次移動教室だから早く行かないと。あ、これ天城さんの教科書とノート。勝手に持ってきちゃった」
「ありがとう!山口君」

月島君は影山君の背中を見ていた。「月島君?」そう声を掛けると何?と無表情な顔をこちらに向けてきた。…?私は月島君をじっと見つめる。


「…何」
「影山君が、どうかした?」
「別に。ただ、まぁ…」

中学の時アレだけ酷い目に合っといて良くバレー続けてられるなって思って。
酷い目、とはあの事だろうか。国見君も、前に顔を歪めて言っていた。王様と言われる所以。

「すきだから」
「え?」
「好きだから、どんな事が有っても好きでいられるんだよ」
「…ふぅん」

僕には、わからないね。そう月島君は言った。

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