「ちょっと話をしようよ、さくら」

なんで国見君が、烏野に居るんだろうか。当然のように校門前で待ち構えていた国見君に私の手は囚われた。そのまま私は国見君に手を引かれ歩き出す。足を前へ前へ、足以外はまるで石のように固まっている。掴まれている手を、握り返すことすらできない。どう、しよう。逃げ道は当然の如く無くて、そもそもそんな生易しい選択肢はなかった。
しばらく歩いてたどり着いたのは小さな公園だった。すでに薄暗い公園には、子供どころか人一人いなかった。

「この公園じゃないけどさ、よく二人でブランコに乗ったよね」

そう言いながら、今となっては低すぎるブランコに国見君は座る。私も、隣のブランコに腰掛けた。ゆらゆらと、振り子のように揺れる。

「久しぶりだねさくら」
「うん…ひさしぶり、だね。国見君」
「色々、話したい事があるんだ」

じっと、私を見つめる国見君に、思わず目を伏せてしまう。怒られるかな、嫌われる…ううん、もう嫌われちゃったかもしれない。ああ、でも国見君は変わらず私に優しい目を向けてくれて。それが逆に、私の胸を締め付ける。


「ねぇ、どうして俺から離れてったの?」

私は答えない。


「なんで烏野に行ったの。ずっと言ってたじゃん、俺と一緒に青城に行くって」

私は、答えることが出来ない。

「俺、なにかした?さくらが離れていってしまうくらい嫌な事した?」
「してない。国見君は何も悪くない」

違うんだよ、国見君は何も悪くない。悪いのは全部私。勇気がなくて、何も言えない弱虫で、気持ちの悪い自分のせい。


「じゃあ、病気のせい?」

…え?
私は声を漏らした。私は、呆然と国見君を見る。なんで、国見君がそのことを知ってる、の?


「ごめん、偶然さくらが病院に行くところ見て」
「…先生、話したの?」
「ううん、病気の内容は一切。でも、俺から離れて行った原因はそれなんだろ」

先生は、おしゃべりだ。きっと病気の内容については本当に話していないんだろう。でもきっと、私の事を話したんだ。あそこで咲いた花の意味。私は、ずっと


「ねぇ、なんで言ってくれなかったの」
「言えるわけ、ない」
「俺、そんなに頼りなかった?」
「ちがうよ、そうじゃない。ちがうの。だってこんなの、気持ち悪いもん。こんな病気、知られたら絶対、嫌われる」
「なぁさくら、俺が今までお前を嫌ったことあった?小さいころからずっと一緒で、なのに一度も喧嘩なんてしたことなくてさ、ずっとずっと二人で一緒に生きてきたじゃん。俺の事、信じられない?」
「そんなこと、ないよ…でも、自分が気持ち悪いって思ってるこれを、国見君に言えない」

腕のあたりが、ぞわりとした。だめ、咲いちゃ駄目。本当に嫌われちゃう。ぐっと、腕を押さえた。少しだけ、痛みが走る。こんな痛み、どうだっていい。

「…月島と山口が、さくらは元気がないって言ってた」
「…え?」
「話さないで良いっていうんなら、いいんだそれでも。でも結局言えないことが重荷で、さくらが弱るんなら意味がない。なぁ」

国見君が私の前に立つ。しゃがみこんで、私と目を合わせる。そっと、大きくて暖かい手が私の頬を撫でた。

「俺が嫌わないって言ってるんだ。だから信じろよ。俺がさくらに嘘を吐いた事、今まであった?」

無いよ、一度も無い。国見君はいつだって優しくて、でもちょっぴり意地悪で。でも私を傷つけたことは一度も無くて。大切な幼馴染で、私の大好きなひと。私は国見君の手を握る。ごめんなさい、私は小さくつぶやいた。堰き止めていた感情が、溢れ出す。

「…さくら?」

花が咲いた。一度にこんなにいろんな種類の花が咲いたのは初めてだなぁ。色とりどりの花が、私を包む。国見君が、私の姿を見て目を見開いた。そして、薄く口を開く。

「…きれい、」
「ぅ、あ…国見くん、くに…みくんっ!」

私は、国見君に飛び込む。国見君は両手を広げて私を受け止めた。ふわり、花が舞う。ぐすぐすと泣く私を、国見君は抱きしめて、ずっと頭を撫でてくれた。

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