青城の全員が呆気にとられていたけど、青城監督さんの声に全員が我に帰り整列をする。整列、礼!ありあとうございましたー!そしてすぐさま片づけを開始する。慌てる青城グループ。あ、私も片付け片付け。

「孤爪さん」
「なぁに赤葦君」
「あれはどうかと思います」
「……てへぺろっ!」
「……」

無言でチョップされた、痛い!私先輩だぞ、違う学校の!そのあとイエーイ!と木兎とハイタッチをかます。お気楽でいいな、という赤葦君の視線が痛かった。あと青城グループの視線も。
あ、ボトル回収しなきゃ。私は籠を手に持つ。


「すいませーん、ボトル回収しますのでもう飲まない方はカゴにお願いしまーす」
「結ちゃん」
「みなさん新幹線まで時間がないようなので、はい!キビキビ動いてくださーい!」
「結ちゃん無視しないでよ!」
「うっさい及川さっさと片付けろ」
「そうだぞクソ川」
「岩ちゃあん!?いやいやいやいや、俺たち言いたい事いっぱいあるでしょ!?国見ちゃんだって、ねぇ!」
「新幹線の時間」
「ぐ…っ」

押し黙る及川に「さっさとしろクズ」と岩泉がとどめを刺した。「せめて川はつけてよ岩ちゃーん…」と泣きながら及川は岩泉に引き摺られていった。あばよ及川。
よいっしょ、カゴを手に持つと赤葦君が「流石にそこまでお世話になるわけにはいかないので片付け俺がやります」なんて言ってきた。赤葦君…できた子。でも大丈夫、コートの片づけしてな?と私は水道に向かう。後ろから着いてくる気配には、もちろん気づきながら。



◇◆◇


「立花、先輩」
「…国見君、久しぶりだね」

ついてきたのは、思った通り国見君だった。手伝います、なんて国見君は私の隣でボトルを洗い始める。新幹線は大丈夫なのかな。まぁ危なくなったらきっと及川が呼びに来るだろう。及川、気付いてたみたいだし。しばらくの沈黙、国見は口を開いた。

「立花先輩は」
「あ、ごめんね。私もう、立花じゃないの」
「え?」
「孤爪結が今の私の名前。お母さん、再婚したの」
「…そうなんですか。だから、東京に?」
「うん、ごめんね国見君」
「…中学卒業して、漸く立花…孤爪先輩は居ないし。誰も居場所を知らないっていうし…俺、」
「ん?及川と岩泉は私が東京行った事知ってるはずだよ?学校までは教えてないけど。連絡先も不本意ながら教えちゃったし」
「え?」
「うん?まぁ、及川だからね。あいつ、引っ越し前に唯一連絡先教えた飛雄の携帯電話使って私に電話かけてきたから」
「…影山も、しってたんですか」
「飛雄は連絡先だけ。多分引っ越しも気付いてなかったし、飛雄から連絡なんてまず来ないし」
「…ふぅん、そうですか…」
「…ごめんね」
「っ、謝るくらいなら最初から全部言ってくださいよ…!」

今にも泣き出しそうな国見君を、私は抱きしめた。手、ちょっと濡れてるけどごめんね。俺、汗まみれなんで離れてください。気にしなーい。


「ねぇ、私再婚嫌だったんだよ。知らない人が父親になるなんて嫌だった。あの家は私とお母さんと、死んだお父さんの家だったのに、引っ越しすることになって。自分の家から離れるのが、すごく嫌だった。ずっとあそこに居たかった」
「…せんぱ、」
「本当だったらね、青城受けるつもりだったんだよ、国見君が居て、金田一が居て岩泉もいて…及川はほんとどうでもいいけど。飛雄が青城行かなかったのはびっくりしたなぁ…」
「せんぱい」
「国見君が高校入学してきたら、再開祝いにどんだけ嫌がれようがぐりぐり撫でまわそうって決めてたのになぁ。きっと、楽しいだろうなぁ。国見君、意外と照れ屋だから顔真っ赤にして」
「孤爪先輩!」
「…楽し、そうだなぁ…」
「…ごめんなさい」
「国見君が謝ることなんて、何一つないんだよ」

ぶんぶんと国見君が頭を振る。「俺、自分の事ばっかりで孤爪先輩の考えてること、何一つ知らないで勝手な事思って」国見君は、相変わらず優しい子だ。私の為に、泣いてくれて。


「国見君、もうそろそろ戻らないとマズイと思うよ」
「…先輩、連絡先教えてください」
「いいよ、特別。電話もメールも好きなだけしてよ」
「…せんぱい」
「ん?」
「俺、先輩に頭撫でられるのも、抱きつかれるのも結構好きでした」



「…知ってる!」

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