「はは、グッドタイミングなのかバッドタイミングなのかわかんねぇな。なぁ研磨」

俺を見て、音駒の主将は笑った。研磨と呼ばれたプリン頭は「知らない」とそっけなく返事をする。が、視線は俺に向けられていた。俺は首を傾げる。「お前、飛雄だろ?」という主将に俺はただ頷くだけだった。


「えーっと、苗字なんだっけ?」
「立花」
「あーそうだそうだ。お前立花結って知ってるだろ?」

2年くらい前に、「東京バナナ買いに行ってきます!遠出だから飛雄補給ー!」と抱きついてきて、その後失踪したどっかの誰かさんだ。久しぶりにその名前を聞いて、少しだけ吃驚する。そういえば全然連絡取って無いな。なんて考えてると「あれ?結び知り合いの飛雄君じゃねーの?」と首を傾げられたので「あ、多分その飛雄ッス」と答えた。


「お、合ってたか。しっかし…あいつの可愛いの基準がまるでわかんねーな。噂の飛雄君、研磨、夜久」
「…え、やっぱそれ、俺も入ってんの?」
「良いじゃん夜久。結見た目は可愛いんだしよ、中身はアレだけど。俺なんか抱きついて良いんだぜ?って言うと死ねって返されるから。あと研磨にも死ねって言われる」
「俺死ねまで言ってない。ただ結に近づかないでって」
「シスコンめ…」

…?よく話が見えない。音駒主将が俺の様子に気づいたようでああ、悪い。と声をかけた。


「どうせあいつのことだから、話してないんだろ。宮城の連中には連絡先殆ど教えなかったって聞いたし。コイツ、うちのセッターの孤爪研磨。立花結改め孤爪結の弟な」
「…ん?」

結って弟居たのか。そもそも苗字が孤爪?と首を傾げていると、菅原さんが「多分再婚な。立花さん?の両親と孤爪さんの両親が結婚したんだべ」と耳打ちをしてくれて理解する。ああ、それで東京行ってきます。だったのか。じーっと音駒のセッター見る。そっと目を逸らされた。


「苦労してそうっスね」
「…え」

だって結の守備範囲なんだろう。抱きつかれるは撫でまわされるは…蘇るあの日の記憶。


「べつに…なんで?」
「え、だって結抱きついてきたり…え、しないんですか」
「抱きつかれるけど。苦労なんて…ない」
「あのスキンシップにに耐えられるのは研磨くらいってことだな」

孤爪研磨と呼ばれる結の弟は首を傾げた。



◇◆◇


「なぁ、結って昔からああなのか?可愛い可愛いって言って抱きついたり、頭撫でまわしたり」
「まぁ」

長引いてしまった練習試合が終わり、コートの片づけをする。丁度飛雄君が居たので捕まえた。アイツの話色々聞きたいしな。研磨にも聞かせようと思ったら、あっちのチビちゃんに研磨を取られてしまった。あのチビちゃんもなんか結の守備範囲っぽいな…ってなんで俺アイツの守備範囲理解してんだ。恐ろしい。

「他に犠牲者居なかったのか?」
「犠牲…そこまでいってねーけど、国見にもよく可愛い可愛いって頭撫でてたな…。国見が嫌がってたんで、抱きつきはしなかったですけど」
「まぁそれが普通の反応だよな」
「俺が止めろって言っても全然聞かなかったくせになんで国見の言葉は聞くんだ…」
「だいぶ結に好かれてんじゃん。飛雄君?」

え、マジナイワーって表情をされた。なんだ、飛雄君は脈なしか。つまらん。何処かで修羅場は起きないだろうか。国見君とやらはどうだろうか…って俺暇人か。でも楽しいから仕方ないよな。


「クロ」
「お、研磨」
「あんまり結で遊ばないで」

それだけ言うと研磨は走り去ってしまった。


「あいつも結にべったべただな」
「結のアレに付き合える人間がいるなんてマジで信じられねぇ…」

どんだけだよ

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