「してやられた」

やはり、アイツの方が何枚も上手だったらしい。あれこれ計画していたトラップを悉く回避されてしまった。くっそ、なんとか結を遠方練習試合に連れて行きたかった。くっそ、東京に帰って来た時、どうしてやろうか…朝から電話を掛け続けているがどうやら電源を切っているらしい。自宅に掛けたら孤爪夫妻に迷惑だし、お手上げだ。

「クロ、あんまり結にちょっかい出さないでよ」
「いや、だってアイツめちゃくちゃ仕事出来るじゃん。バレーのルールも大方分かってるみたいだし。昔バレーでもしてたんじゃねーか?もしくはマネ」
「今やってないんだから関係ないでしょ」
「…研磨、体育館に結が居たら良いと思わないか?」
「リエーフあたりに絡まれそうだからヤダ」

この姉弟を落とすのは、至難の業のようだ。家でべたべたひっついてるから、部活まで一緒に居なくてもいいってか?羨ましい奴め。ちなみに研磨は結母と、結は研磨父とあまり仲が良くなってないらしい。この前研磨父に泣き付かれた。結ちゃんが俺に懐いてくれない、と。ご愁傷様です。あいつ年下にしか興味無いっすから。実の息子を羨ましがる研磨父を少し不憫に思う。



『ちがうよ、私の守備範囲は可愛い子だよ。勿論女の子も含めて』
「今新幹線乗ってるから電話してくんなよ!」


慌ててデッキへ向かう。こいつ、電車に乗ってる時刻を狙って電話してきやがったな…。というかなんで考えてる事ばれてんだよ。エスパーかよ。こえーよこいつ。


「お前なぁ…」
『最近は夜久君もすき』
「最近夜久に冷たい目で見られてるの気づいてるか?」
『気のせいだよ気のせい。もしくは照れ隠し!』
「ポジティブも考えモンだよな…」


まぁ頑張れよ、夜久。


「つーか帰ってきたら覚えてろよお前」
『今日秋刀魚焼こうと思ってたんだけどなー。しかも割と良い秋刀魚。しかも黒尾家今日誰も居ない』
「……」
『そうだな、次ある合同合宿では手伝ってやらない事もない。私の機嫌が良ければ』
「…今回は見逃してやる」

こいつに勝てる日は来るのだろうか。



◇◆◇


「結なんだって?」
「今日の晩御飯、秋刀魚焼いてくれるって」

クロ、結に良い包められてる。まぁ、クロが結に勝てるわけがなんだけどね。スマホアプリで暇をつぶしながら、そんな事を思った。


「でも合同合宿では手伝ってやらない事もないだってよ」
「やらないやつだよ」
「いいや、今度は絶対引き摺ってでも連れていく」

不毛な攻防戦はいつまで続くのだろうか。「お前からも結に頼んでくれよ。お前の言う事だったらアイツ多少聞くんだから」というクロに「考えとく」と返しておいた。俺が入学したての頃は、結はよく良くバレー部に顔を出してたのに、最近ではめっきに来なくなってしまった。それを考えると、確かにちょっとさびしい。でも、来たら来たで一部の部員が五月蠅くなるから嫌だ」

「研磨君はシスコンだな」
「うるさいよクロ」
「結の口からよく聞く「飛雄」君に会ったら研磨どうするんだろうな」
「別に、普通」
「へぇ?」
「俺は、姉で家族な結がすきなの」


抱きつきはするけど、いや俺からはしないけど。別に、キスしたいとか押し倒したいとかそんな感情は湧いてこない。一緒に居て楽しいし、それを邪魔されるのは嫌い。結の好きなものが好き――ふと、頭をよぎる。


「やっくくーん!かぁいいよ夜久君!ふへへへ」
「おま、抱きつくの止めろマジ止めろ!!」


…。

「別に結が好きなものが俺の好きなものだとは限らない」
「なんの話だ?」

嫌いではないけど夜久さんのことそんな好きじゃない。サボると怒るし。うん、普通。

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