「へー…練習試合ねぇー…」
「そうそう、お前が前住んでた宮城でよ。と言うわけで」
「あ、研磨モンスターそっち行った。倒して」
「ん」
「聞けよ」

そもそも、私たちがゲームしてる所に割って入って来たのはクロじゃない。後にしてよ。目線を画面に戻すとぷつん、とテレビの電源を切られた。

「クロ最低」
「サイテー」

研磨と一緒になってクロに冷たい視線を向ける。あーあ、これもうテレビつけたら全滅パターンじゃん。仕方なくゲームの電源を落とした。

「で、なに?お手伝いに来いって話?」
「お前マネージャーだろ?」
「違うよ何言ってんの?」
「研磨からの何か言ってやれ」
「無理強い、良くない」
「研磨ァ!」

クロよ、研磨は私の味方なのだよフフフフ。しかし研磨が「でも結が部活に居たら、いいな、とは少し思うかも…」なんて爆弾を投下して行きました。くっそう、研磨可愛いなちくしょう!にやにやするクロの脛に蹴りを食らわす。


「いっ!?お、おま」
「研磨、夜ごはん何が良い?」
「クロの嫌いなもの」
「だってさ。クロ、嫌いなものなぁに?」
「俺遠まわしに夕飯誘われてるの?なんなのお前ら」

で、結局何が食べたい?
秋刀魚
焼き魚片づけ面倒だから全面的に却下
じゃあアップルパイ
アップルパイはご飯ではありません。もういいや、カレーで
レトルトヤダ
ちゃんと作るよ
そんな会話をして私はキッチンへと向かう。カレーと言えば、飛雄カレーの温玉乗せ好きだったよなぁ…卵はある。久しぶりに作ろうかな。さて、と。私は腕をまくった。


「でさ、練習試合の話だけど」
「び…っくりした。まだ続いてたのそれ」
「お前あっちで会いたいヤツとかいねーの?」
「……まぁ、会いたい人沢山いるけど。でも会いたくないっていうか会えないっていうか…」

連絡先も、行き先も殆ど誰にも伝えていない。会ったらかなり気まずい。うっかり及川なんかに出会ってしまったら…もう見るに堪えない結末になる事間違えない。あー、飛雄に会って抱きしめたいし、あと国見君。あの子にはちゃんと謝らないと。…もう、私の事なんて忘れてしまってる可能性もあるけど。


「…なぁ、一つ聞いていいか?」
「ん、なに?」
「お前なんでりんご持ってんの?カレーの隠し味?」
「え、アップルパイ作るんだけど」
「カレーはどこ行った」





◇◆◇


2年前、幼馴染の孤爪研磨に母が出来た。それと同時に姉も。研磨んちのおじさんの再婚。相手は仕事で知り合って、宮城から越してくるらしい。そんな環境の変化に研磨がげんなりとしていた。そりゃあそうだ、研磨は人付き合いが苦手だから。いきなり母と姉が出来ても、ストレスになるだけだろう。

「クロ、今日家に泊めて」

普段なら絶対に言わない言葉。「流石に初日に息子が居ないのはまずいだろ。どうしても堪えられなかったら電話しろ。迎え行ってやるから」そういうと、研磨は渋々頷いた。ただ姉に会う時は一緒に居て、という研磨に俺も仕方なく頷いた。


「はじめまして、立花…じゃないや。孤爪結です」

よろしくお願いします。と頭を下げる立花結改め孤爪結。あっちもあっちで複雑な面持ちをしていた。


「孤爪…研磨」
「俺は研磨の幼馴染の黒尾鉄朗だ。よろしくな」

頭が凄くいい位置に合ってお、思わず頭を撫でてしまった。はぁ、よろしくお願いします黒尾さん。とバシッと手を払い除けられる。若干、俺を見る目が据わっている。ん?なんか、コイツ…?俺への興味は更々無いらしい。結はじーっと研磨を見つめていた。

「…」
「……」
「…」
「………っ」
「…お前ら、なんか喋れよ」

無言で研磨を見つめ続ける結と、必死に目を逸らす研磨に思わず口が出る。ふむ、俺は少し離れた所から結を手招きする。「…なんですか」とやはりちょっと警戒しつつも、俺の方へやって来た」


「研磨、アップルパイが好物なんだ」
「へー…じゃあ作ろうかな」
「俺が好きなのは秋刀魚の」
「あ、聞いてないんで大丈夫です」
「おい」
「でも、ありがと、ございます」
「…お前何年?」
「今度高校入学…です」
「お、同い年じゃん。敬語無しな」
「分かった黒尾」
「…はえーな」
「あんまりしゃべりかけないで黒尾」
「おい」

冗談だよ黒尾、と結は笑った。あー、悪い研磨。お前より先に仲良くなっちまった。次の日、俺の家に来た研磨が爛々と話す。

「結にアップルパイ作ってもらった。これ、すごくおいしい」
「よかったな、仲良くなれたみたいでよ」
「……うん」

嬉しそうな表情を浮かべる研磨をみて俺は笑う。
それから、2人はどんどん仲良くなった。結のゲーム好きと料理上手が功を奏し、あの研磨が珍しく他人に懐いているのだ。それから、結のデレも酷くなった。こっちが素らしいのだが、なんともまぁ…人は見かけによらないものだ。

「ふへへへへー、研磨かわいいー」

一人用ゲームをする研磨の腰に抱きつく結。あれは誰だと言いたくなるような普段とのギャップの違い。「けんまけんまぁー」とすりすり頬を擦りつける。あれを全く諸共せずゲームに集中する研磨も凄い。

「なァ結ちゃん。俺にも抱きついていいんだぜ?」
「しねクロ」
「クロ結に近づかないで」

…前から、結からの風当たりはよろしく無かったが、研磨までこんな…。こうしてバカップル…ではなくバカ姉弟が完成したのだった。

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