青い炎を狩りにゆく


生まれる前からずっと一緒だった。生まれてからも、ずっと。だからね、ずっとずっと一緒に居るんだよ。ずっとずーっと、一緒に居ようね。ねぇ、



      やくそく



それは、呪い。
私たちが生まれる前からの、約束
呪い





▼▲▼


「おはよう、影山飛雄君」
「…神影、ちゃんと居たな」
「居なかったらそれはそれで面倒事になってたでしょ?面倒事は素早く終わらせたいの」

朝の屋上、私は壁に寄りかかる。むすっとした表情の影山飛雄。なに、そんな顔するくらいなら呼び出しとかしないでほしいんだけど。で、君の話はなに?私は口を開いた。

「お前の、その妹って」
「お察しの通り妹はしんだの。交通事故で。一緒に居たのに私は生死に別条は無い怪我、あの子は即死」
「そ、うか…」

小学生か、その前か随分昔で覚えていない。仲の良かった私たち姉妹は手を繋いで、確かに青が付いた信号機を渡っていた。それなのに、信号無視の車がまっすぐ私達に突っ込んできて、何故か私は怪我を負っただけ。あの子は即死。手を繋いで、二人並んで歩いていた筈なのに、なんで私たちは結果が違ったのだろう。


「妹が死んだ時は途方に暮れて、ただ息をしているだけだった。でもね、そうだな…中学に上がる時くらいにね、あの子の聲が突然聞こえたの。お姉ちゃんお姉ちゃんって。姿は視えないのに聲だけ聞こえるの」
「……」
「それからずっと、あの子は私の側に居るの。【お姉ちゃん、どうして】って。私は、どうすればいい?私はあの子に何をしてあげたらいい?」

口にする気もなかった言葉が口からあふれ出した。やだなぁ、私こんなこと話そうと思ってたわけじゃないのに。なんでこんな昨日初めて存在を認識したような人間に話しているのだろう。


――ずっと、一緒


いつの日か交わした約束。それは、私と、あの子を蝕んでいた。最早それは呪いだ。私たちを縛り付ける、呪い。


「コイツは、お前の妹はお前を恨んでない」
「知ってる。そんなの声を聞けばわかる。いっそ恨みの言葉でも吐いてくれたらいいのに!」

姿かたちは見えない。その聲だけが私に問いかける。
ある意味、その声に私は呪われていると思った。ごめんね、でももう聞きたくないんだ。どうして、だなんて。そんなの、私がお姉ちゃんだからに決まってるじゃない。


「あの子が、死んでって言ってくれたら、私はすぐにでも死ぬのにね。それすら【言ってくれない】んだもの」
「おい、お前あまり過去に捕われると」
「そこらへんのゴミに付け入られるヘマはしないわ。ねぇ、君は私に何をしてくれる?」
「なにって…」
「なにもしてくれないなら本当に関わらないで。鬱陶しい」
「は」
「視えるから、変な正義感が湧いてくるの?でもきっと君には何も出来ないよ」

それじゃ。と私は影山飛雄の隣を通り過ぎた。彼は私を呼び留めなかった。やっぱり、そんな程度よね。彼の興味を引いただけで、特に何かする訳でもない。



「イライラする…」





▼▲▼


アイツの威圧やべぇな、なんて神影を見送る。手には、あんまり触りたくないが仕方ないと掴んだ小さな腕。アイツの妹。

「なぁ、お前」

小さな少女は、喋らない。ぽたりぽたり、地面を赤黒く染めるだけだ。あっちもこっちも会話が出来ない。ハァ、と俺は溜息を吐いた。





おねえちゃん
 

    おねえちゃん




「俺はお前のおねえちゃんじゃねーぞ」

俺はそれと向き合う。悪意は無い。悪意は無いのに呪い塗れ。なんだ、これ。こんなもん初めてみるぞ。どす黒く爛れた文字が小さな身体に纏わりつく。触ったら、呪い殺されるか…?ピンッと文字を突く。それはゆっくりと、体温で雪が融ける様に消える。


【ずっといっしょ】


「――あ?」



【おねーちゃん】
【ずーっと、いっしょだよ】


呪いの言葉にしては、ひどく優しいもので。いや、これはある意味一種の呪いなのか。周りからあふれる文字にはそれしか無かった。ずっと一緒に居る、そんな言霊
呪い



「コイツ自体には害はなさそうなんだよな」

しゃがみ込んで、それと目を合わせる。「なぁ、お前はあいつに何がしたいんだ?」そう問うと、その時初めてそれと目が合った。血まみれの顔、ぼさぼさの髪の毛の隙間から目が覗き込む。



たすけて


それは、確かにそう言った。