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【夜久衛輔の話】




今年バレー部に入部してきた灰羽リエーフという馬鹿でかいヤツの友人で、及川あかりという子がいる。それは、後輩の孤爪研磨という人間に似ていて、見た目ではなく中身の話だ。人見知りで、おどおどとした小動物感が研磨にそっくりだった。そんな研磨の扱いに慣れている黒尾はよく及川を構っていた。それこそ必要以上に。どうしてそこまで構うのか…行きすぎると嫌われるぞ、と俺は溜息を吐く。


「お前さ、及川…じゃなくてあかりの事本当に気に入ってんな」
「夜久だって気に入ってるだろ?」
「否定はしないがお前ほどじゃねーよ」
「どーだか」

なにか引っかかる物言いだが特に気にしないでおこう。黒尾の言う事は8割方意味の無い事だし。で、お前あかりの兄貴のアドレス抜き取ってどうする気だよ?そう問うと黒尾はにやりと笑った。あーあー、悪人面だこと。俺は頬杖をつき黒尾を見る。

「さて、お前はどっちが良いと思う?及川兄妹を仲直りさせるか、一切の縁を断ち切るか」
「後者は無理だろいくらなんでも」
「俺としては後者を選びたいんだけどな」

だってムカつくじゃん。さっきとは打って変わって黒尾は不機嫌を露わにした。「あかりちゃん絶対お兄ちゃん大好きっ子だぜ?」まぁ確かにな。俺もそれは思った。だってあかりは、兄の話をする時とある言葉を一度も言っていないのだから。

「及川兄はなんでそんなにあかりちゃんの事嫌うのかねぇ…」
「あかりもなんか、変だしな」
「変って?」
「いやわかんないけど」

及川と呼ばれるのが苦手な事とか、あと兄の事も含めて家族の話を一切しないだとか。きっと色々あるのだろう、家庭環境の問題が。それに深く足を踏み入れるのに、俺らの関係はまだ浅い。

「あんまり首突っ込むなよ」
「それじゃあいつになったってあかりちゃんマネにできねーじゃん」
「お前なぁ…」

ちなみに、と黒尾が真剣な表情をする。なんだよ、俺はジュースのストローに口を付ける。

「俺は及川兄を超ツンデレ妹大好き人間だと予想する」
「お前大丈夫か?」
「いやいや、聞けよ夜久。さっきあかりにケータイ借りた時にさ、アイコンに未読の数出るじゃん?」
「おう」
「未読メールが3ケタ超えてた」
「こえーよ嫌がらせじゃねーか」
「でもただの嫌がらせでそんなにメール送るか?ちなみに3ケタって100件じゃないからな。350件くらいだったからな」

…えっと、入学式から今日まで1週間と少し。一日何件の計算だ?30は行ってるな…なんつーか、恐ろしい。
「いくら嫌がらせでも、そこまでしないだろ?」そんな事を言う黒尾になんとなく納得はする。納得はするが…シスコンは…ないだろ。


「いいや、シスコンだよ絶対シスコンだ。俺はこのアドレスに突撃して鎌掛ける」
「楽しそうだなお前」

呆れてものが言えねーよ。「良いじゃん、あかりちゃん本気で可哀想だし。ちょーっとくらい痛い目見てもらっても」悪代官顔負けの笑みを浮かべる黒尾にドン引きする。まぁ、ちょっとくらい痛い目見ても確かに。俺は心の中で同意した。


「流石にバレたらあかりちゃんに嫌われそうなので」
「だまっときゃ良いんだろ。同罪御免だから一人でやれよ」
「で、俺と夜久と及川兄…多分【徹君だよ☆】だな。痛いなこいつ」
「痛いな」
「でこの3人でラインのグループ作るから」
「俺の話聞いてた?一人でやれって」
「もう作った」

おい人の話聞けよお前。「ちなみにグループ名は【あかりちゃん大好き人間の集い】だから」楽しそうにほざく黒尾の脛を机の下で蹴ってやった。



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(注)管理人はLINEの使い方わかりません
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