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【及川徹の話】


さて、俺にはクソ可愛くない2つ下の妹が居る。名前はあかり。口数も少なく無愛想、見た目も地味で空気を読まない、本当に可愛くない妹だ。いつからそうなったのかは分からない。いや、昔はそうでもなかった気がする、昔はそう――、…ふん、つまるところあかりは気付いた時には「そう」だった。
暗い性格、コミュ障。あいつの相手をしていたのは岩ちゃんくらいだった。岩ちゃんも別に面倒見てやらなくても良かったのに、と俺は思う。
しっかしアレは本当に俺の妹なのだろうか。全く持って似てない似ている要素が皆無だ。俺の妹だったらもっと…こうきゃぴきゃぴとした人気者になってる筈だ。いや、別に顔が可愛くないわけじゃない、むしろ可愛い部類…じゃなくて。兎に角俺とあかりは正反対だった。


「あーあ、くっそ可愛くない妹に高校入学おめでとうくらいは言ってやるかな」
「お前なぁ…もうちょっとあかりに優しくしてやれよ」

岩ちゃんに咎められる。
ハァ?俺ジューブン優しくしてやってるつもりだけど?というと「お前あかりにツンデレすぎんだよ。つーか端から見てると虐めてるようにしか見えない」と言われた。ふーん、岩ちゃんってば随分あかりを気に掛けてるじゃん。及川さん、岩ちゃんをあかりに取られてショック。と言うと殴られた。痛い。



「つーかあかり高校どこ?」
「しっらなーい!あいつ全然話ししないんだもん。青城じゃないと思うよ」
「お前あかりに確実に嫌われてるもんな」
「うるさいよ。俺だってあいつ大嫌いだ」
「思ってもない事言うなっつーの」
「本音だし!全然本音だし!」
「ハイハイ。じゃあ今日は練習終わったらさっさと帰って大嫌いな妹に高校入学おめでとうって言ってやれ」
「明日だけどね!」


腕時計くらい、プレゼントしてやろうかな。なんて数ヶ月前の俺は考えて、彼女と一緒に選んでもらい(その彼女とはもう別れた、別にショックとかそんなの無い)ずっと俺の机の引き出しに仕舞ってある。ほんと邪魔で仕方ないから早く渡したいんだよね。…明日の入学式にあかりは着けてくれるだろうか。そんな事を考えながら家に帰宅。母さんは晩御飯の準備をしていた。父さんは…何故か携帯電話を握り締め、しょんぼりとしていた。


「あれ、あかりは?」
「もう出てったわよー」
「…は?」

キッチンから顔を出す母さん。ちょっと、手に持ってる包丁怖いから下ろして。というか出てったってなんだ出てったって。


「結局徹には言わずに行っちゃったのねぇ。あの子東京の高校に通うのよ。寮生で」
「はぁああ?!何それ!母さんそれ認めたの!?」
「最初は反対したんだけどねー」
「東京なんて超危ないじゃん!あんなぽけーっとした奴が東京とか危なすぎるでしょ!」
「だって青城はやだっていうんだもの。どっかの誰かさんが虐めるから」
「……別に、いじめてない、し」
「一方的に虐めて、部屋に戻って言い過ぎたって頭抱えてるだものねぇ。分かりづらいお兄ちゃんだこと」
「…母さん」

「ところでお父さん、いい加減にしてくださいな」と母さんが声を掛ける。何どうしたの父さん。と聞くと「明日、仕事休めなかった…」と沈んでいた。


「入学式か…母さん行くの?」
「残念なことに行かないのよ。あの子、東京までは遠いから入学式来ないで!って言われちゃって」
「あいつが言いそうな事…まったく」

文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。俺は携帯電話を取り出すと「そんなの後にして着替えてきなさい!ご飯出来るわよ」と言われてしまったので仕方なく携帯電話を仕舞い部屋へ向かう。
…あかりの部屋、ドアを開け電気をつける。少し、物が減っていた。本当に、アイツ出て行ったの。くそむかつく。

自分の部屋に向かい、机の引き出しを開ける。可愛らしいラッピングの箱。ハァ…と溜息が零れる。東京行くなら一言くらいなんか言ってから行けよ馬鹿あかり。どうせまた俺が怒鳴り散らしてしまうだろうけど。
箱を手に、再びあかりの部屋へ。あいつの机の上に、ど真ん中に置いてやった。今度戻って来た時、感動で泣けばいいさ。あいつそんなキャラじゃないけど。「徹ーはやく下りてきなさーい!」と言う母さんの言葉に返事をする。
…帰ってきたら、たまには甘やかしてやろうなんて思いながら電気を消し扉を閉めた。
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