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おかえりを探すの



徹に貰った時計を見る、あともう少しで東京に着く。あ、そうだ。黒尾先輩のブロック解除しておこう。宮城に戻ってるときは夜久先輩とリエーフ君が何度かメッセージをくれたくらいで、凄く平和だった。どうしよう、もうこのままブロックしたままにしておこうかななんて考えが思い浮かんだけど、逆に面倒なことになりそうだと思った。うん、泣き付かれたらやだしブロック解除しておこう。
多分まだ部活している時間に帰れるけど、どうしようかな。邪魔になるからそのまま寮に戻ってしまおうか、ちょっと顔を出していこうか。寧ろ部活に参加するのも…。
なんて考えて居たら手元のケータイが震えた。メッセージが1件、夜久先輩からだ。休憩中かな、なんてメッセージを開く。


<もし時間が合えば、ちょっと体育館寄ってけよあかり。2日見ないだけでリエーフは五月蠅いし、あ、黒尾は沈んですげー静か。後はあんまりいつもと変わんないけど>

「…ふふ、」

<やっぱ俺も寂しいって思った>


ぎゅーっと心が温かくなるのは、嬉しいからなのかな。「是非顔を出します」と返信して窓の外の流れる風景を眺めた。こういうのを、愛おしいというのだろうか。みんなが居る日常が、愛おしい。帰って、話す時間が有ったら全部話そう、宮城での出来事を。徹が変だった事とか、知り合いが増えた事だとか、友達に会えただとか、全部全部話そう。【間もなく東京駅ー東京駅ー】というアナウンスに私は立ち上がる。もう少しで帰ります、私は「ただいま」というから、どうか。

私の帰る場所






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「………」
「あ、あかりー!!お帰り!!!」
「…、ただいま……で、なに、してるの?」
「バスケ!」
「…………うん」


見ればわかる。私が聞きたいのはなんでバレー部員がバスケ部員とバレーではなくバスケをしているのかという話で。ていうか夜久せんぱーい、貴方もなにしてるんですか。「夜久さんそれレシーブ!ボールレシーブしちゃ駄目ッスから!」「あー…うっかり」うっかりじゃないですよ何やってるんですかバレー部の良心。バスケットボールなんてレシーブしたら絶対腕痛いですよってそうじゃない違う。
壁際でとんでもなく暗い表情をしている東月君を捕まえる。とても苦しそうな笑みを浮かべて…何とも痛々しい。東月君が一言「メシ争奪戦」と言った。意味が分からない。


「バレー部が飯を奢るか、バスケ部が飯を奢るかのバトル」
「意味が分からない」
「俺も分からない。なんかこっちの部長とあっちの部長?」
「黒尾先輩?」
「そうそう黒尾先輩っていう人が言い合い始めたと思ったら既に勃発してた」
「うちのアホ主将が申し訳ない」
「いやいや、うちの馬鹿どもがほんと申し訳ない」

ところでバレー部とバスケ部、バスケは流石にバスケ部が有利じゃ?
あ、この後バレーもやるみたいだよ。
そっか…部活しろ。
ほんとソレな。

私たち二人、体育座りをしながら白い目で試合を傍観する。というかバレー部突き指したらどうするんだ。なんで夜久先輩止めなかったの…あとは、海先輩…は?


「あれ、良心その2の人が居ない」
「良心その2って」
「すごく良い人が居るの。菩薩みたいな」
「菩薩って。…あ、バレー部の副主将?なんか用が有るって部活休みって聞いたけど」

良心その2が居ないのでは仕方ない。「帰ってきたら顔出せよ、なんて言いながら何してるんだろ夜久先輩…」そんな事を呟く。

「どうしよっか…」
「どうも出来ないなぁ…」
「そっか…」

一旦部屋戻って良いかな?おう行ってらっしゃい。そんな会話を東月君として私は一人体育館を出た。もうこのまま部屋に閉じこもってしまおうか。
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