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【及川徹の話】




「あ、あかりみっけ」

ちょこんと、2階ギャラリーで座って体育館を見下ろすあかりを見つけた。別に、下で見てもいいのにね。ちょっとだけ不満。ちらっと視線を部員に向けると国見ちゃんが変な動きをしていた。?まぁいいか。試合前のミーティング、俺は手をあげる。

「サーブ打ちたい。初手で」

これは、誰にも譲らない。そんな事を言うとマッキーとまっつんが大爆笑した。呆れ顔の岩ちゃんと…国見ちゃん。なにさ、みんなして。

「お前どんだけ妹ちゃんに良いところ見せたいんだよ」

そりゃあ見せたいでしょ!多分、あかりが俺のバレーをちゃんと見るのはこれが初めてだ。俺はあかりにカッコいいところ見せたいの!俺が俺である姿の一番が、バレーをしている時だろうから。べしべしと、みんなから頭を叩かれる。何これリンチ。

「盛大にホームランしたら爆笑してやる」
「ミスったらラーメン奢りで」
「後頭部サーブ決められたヤツ死ぬな」
「それな」

し、失敗しないし!「どーだかな!」と笑う全員にむすっとした。くっそう、すっごいの決めてやる。

ピピーッとホイッスルの音が響く。
ちらっとあかりの方へ視線を向ける。目が、合った。あかりが小さく俺に手を振った。あー…やばい。俺は顔を綻ばせる。息を吸う。うん、イイ感じ。

ボールをあげる
スローモーション

ゆったりと、時間が流れる。
おとが、きえる。

ああ、これだ。と俺は思った。










ダンッ!とボールが叩きつけられる音だけが響いた。手が、じんわりと熱を持つ。静寂。誰も、何も言わない。自分のチームメンバーも、相手チームも、声援も何もかもが消える。「な、ナイッサー!」と岩ちゃんが声をあげた。瞬間、緩やか時が流れ始めた。

「もう1本」
「うん」
「練習試合でそんなサーブするんじゃねーって怒るところなんだろうな」
「いや、怒らないでよ!」
「なんだよ今のサーブ」
「なんか、めちゃくちゃ調子よかった」

ちらり、視線をあかりに向けて、俺はぴしりと身体を固まらせた。あかりは、目を見開いて俺を見ていた。息を飲む。…ああ、と俺は笑った。嬉しいと思った。

「あーあ、一人で25点取っちゃおうかなぁ」
「やってみろクソ川」
「はっはっは!やだなぁ、バレーはチームプレイでしょ?」
「今日お前チームプレイする気皆無だろ。いいよ、お前の好きにしろ。全員でフォローしてやる」
「ある意味チームプレイ、だね」
「言ってろクズ。これが最初で最後だからな」

わかってるよー!俺はボールをあげた。サーブだけで25点取れたらいいよね。ああ、でもそれじゃあつまらないか。もっと、もっとあかりに魅せてあげなくちゃ。





あかりがバレーに魅せられた瞬間を見た



「ふふふーん!このままあかりが俺に惚れちゃったらどうしよう」
「しねクソ川」
「及川をころせー」
「寝言は寝て言えー」
「妹にドン引きされてしまえー」
「そのまま嫌われろー」

ちょっと、なんなのみんな。なんなのさ!
「及川さんかっけーっす!」と金田一が言う。唯一の癒しが金田一とか悲しい…。あー…青城のマネージャーにあかり欲しい…。俺は再びボールを上げた。
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