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【及川徹の話】




だいぶ沈んでいたらしい俺に、マッキーとまっつんは爆笑しながら牛乳パンを奢ってくれた。ありがとう、牛乳パン嬉しいけど取り敢えず爆笑止めようか。「及川妹、及川兄への初メールしょぼん。しかも間違いメール」とずっと笑い続ける2人。明日顔面サーブ御見舞してやる。俺は心にそう誓った。
とぼとぼ歩いていると、ブレザーとポケットにしまったスマホが音を鳴らした。んー…何か身構えてしまう。画面を見るとまたあかりの名前…なまえ、が……ん?電話?またメールだろうか、なんてぽけーっと見てたらまさかの電話だった。慌てて俺は出る。「なに及川、妹ちゃんから電話?スピーカースピーカー!」と笑うマッキーに「うるさいよ!」と怒鳴った。


「も、もしもし!」
『…つうちうざい』
「!?」

通知うざいってなに!?吃驚していると『…あ、繋がってる…?徹?』と控えめな声が聞こえた。あかりの声だ。この時の為に俺は電話に出る練習をしていたのだ。「うん、おにーちゃんだよー!」と言うと後ろから「きめぇ…」と声が聞こえた。岩ちゃん五月蠅いよ。あとそこの2人いい加減爆笑止めろ。


『え、と…ごめん。メール』
「あ、ああ…あのメールね。なに、誰に送ろうとしてたの』
『…徹だけど。なんか顔文字出てきちゃったから消そうと思ったら送信ボタン押してた』

ああ、成る程納得。そんな間違い絶対起こさないけどあかりならなんか納得。あかり変に抜けてるしね。うんうんと俺は頷く。



『で、ちゃんとメール送ろうと思ったら今度は途中まで打ったの全部消しちゃって、黒尾先輩にヘルプ求めたら電話すればいいんじゃない?って言われて電話した』

グッジョブ黒尾。でも仲良く話するのムカつくからやっぱり潰す。ヘルプ求めたら…って、一緒にいるわけじゃないよね?この時間にアイツと一緒にいるわけじゃないよね??よし潰す黒尾潰す絶対潰す。ミシッとスマホが音を立てた。

「で、どうしたの?」
『……徹来週の土日大丈夫?』
「部活あるけど」
『別にいい。家帰るから』

…ん?なんて言った?今あかりはなんて言った?


「…え、なにお前家帰ってくるの?」
『嫌?』
「い、やじゃないけど…」

急過ぎて困る。だって土日本当にガッツリ部活だし。殆ど家居ないし!で、出かけたり遊びに行ったり…したかったし…。した、かったし…。かといって部活をサボるわけにもいかないし。


「なんで次の土日…」
『…ごめん、ずらす』
「エ、いい!全然!いいよ今度の土日で!!」

なになにー?及川妹宮城帰ってくんのー?とまっつんが俺に肩を組んできた。ちょっとあかりとの電話邪魔すんな!『じゃあ金曜の夜に帰るから…』と聞いたところでマッキーにスマホを奪われた。

「ちょ!マッキー返して!」
「いやだねー。あーもしもしー妹ちゃん?はじめまして、お兄ちゃんのチームメイトの花巻でーす。フレンドリーにマッキーでいいからネ」
「かーえーせー!!」

どうどう、とまっつんにがっちりと身体をホールドされた。ちょ、岩ちゃんヘルプ!と目線をずらすと

「岩ちゃんは!?」
「もうとっくに帰ったけど」

だいぶ静かだなぁ、なんて思ってたらまさか居なかったとは!くっそう!じたばたと暴れるが離してくれる気配は全くなかった。何を話しているのだろうか。マッキーがにこにこと話をしている。ずるいずるい!俺ももっとあかりと話したい!

「うんうん、全然気にしないからおいで。はーい、じゃあまたネ。あ、今度アドレス交換しようね」

なに勝手な約束してるのマッキー!俺は許さないからね!「はいはーい、じゃあねあかりちゃん」とマッキーは画面をタップして俺に渡した。名前呼び!名前呼びゆるさない!!…って、え?

「ちょ、マッキー!なんで電話切った!?」
「だって会話終わったし」
「終わったし、じゃないよ!なに勝手に電話切っちゃってるのさ!俺まだ喋ってた途中だったのに!」
「あー及川、あかりちゃん土曜の部活、見に来るってサ」

応援してくれるってさ、よかったね。とマッキーがにやにやと言う。…あかりが…練習見に来る…だと…。

「マジ?」
「おう、マジマジ。確か土曜はどっかの高校と練習試合だったよな」

ははっ、練習試合で本気だすかもな及川。とまっつんも笑う。え、そりゃあ本気出すでしょ。当然。

「おにーちゃんのかっこいいところ全部見せてやる」


女子にキャーキャー言われて妹ちゃんに白い目で見られるに一票ぉー。俺もー。なんて言う2人を取り敢えず殴っておいた。
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