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【及川徹の話】



「い、岩ちゃん…」
「どうしたグズ川」

普通にグズって言わないでよ。体育館、俺は床に座りじーっとコートを見つめていた。「国見サボるなー!ボゲェ!!」と溝口君の声が響く。いつもの変わらない練習風景。先日の出来事が嘘のように普通。あのセット終わったら俺らの番かな、床から立ち上がり、少しストレッチをした。…集中できない。ほんと、みんなには悪いが色々頭の中で考えてしまい、バレーに集中できないでいた。

…恨めしい、宮城から東京の果てしなく長い距離が恨めしい。黒尾め、『今日東京帰るぜ。あかりちゃんに会うの超楽しみ』なんてライン送ってきやがって…ほんとムカつく。ブロックしてやろうか…いや、でも…


「何唸ってんだよお前」
「…仲直りしてから、俺あかりに連絡してない…」
「お前…前まで嫌がらせレベルでメールやらなんやら送りつけてたくせに」
「だってぇー…」
「キモイ声出すな」

ゴッと頭を殴られた、理不尽だ。「ほれ、お前の番だ行け」と背中を殴られる。まったくもう、岩ちゃん腕力ゴリラなんだからちょっと手加減してよ。

ボールを掴む。あー、調子悪いなぁ…なんてすぐわかってしまった。邪念を振り払う、そうそう邪念を振り払おう。



『――私は徹の事すきです』


バァン!
気づいたら凄い音がした。向こう側に居たマッキーとまっつんが引き攣った表情を浮かべる。あと、隅で休憩中のメンバーたちも顔を引き攣らせていて。

「…あれ、俺今何した?」

あんなの受けたら腕もげる…誰かがそう呟いた。失礼な、及川さん岩ちゃんより腕力ないし、岩ちゃんの方がゴリラだし。そう思ってたら岩ちゃんに思いっ切り殴られた。口に出してないのになんでわかったし。



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部活が終わって部室でスマホの電源を入れるとメールが1件…母さんかな、なんてメールボックスを見て…止まった。力が抜けて、危うくスマホを落とすところだった。危ない危ない。じーっと食い入るように差出人の名前を見る。そこには間違いようもなく、あかりの名前が表示されていた。

「岩ちゃん!」
「うるせぇウザ川」
「酷い!それより見てみて!あかりから初メール!」

え…、と部室に居た数人の動きが止まった。え、なになに?みんなあかりのメール気になっちゃう感じ?

「…初メールって…」
「及川どんだけ連絡取れてなかったんだよ」

何故か憐みの目を向けられた。…うん、一度も返信されたこと無かったよ…。あかりのアドレスだって、あかり本人にではなく、父さんに頼み込んで入手したし…。なんか悲しくなってきた。けど、初!あかりからのメール!保護確定。わくわくとメールを開く。



『(´・ω・`)』



「…俺、このメールにどう返したらいい?あと初メール顔文字とか可愛すぎなんだけど」
「しょぼんってどうなの?これオンリーってどうなの?及川やっぱり嫌われてんじゃね?」
「うける」
「ちょっとぉおお!どう返信するか真剣に考えてぇえええ!」
「これ、及川じゃなくて違う奴に送ろうとしたんじゃね?」
「初メールが間違いメール」
「事実そうだったら笑って転げまわるわ俺」

マッキーもまっつんも酷過ぎる。あと岩ちゃん、ちょっとは興味持って。お願いだから。じーっとスマホを見ているとまたメール。あかりからだ。なになにー?と面白そうに覗き込むマッキーとまっつん。俺はメールを開く。



『ごめん徹、間違えた』

「ぎゃはははははは!!!」
「ぶっ…くくく、お前返信にしょぼん送れよ」
「死ぬ…っ!笑い死にする…っ」


どうやら俺のチームメイトに仲間は存在しないらしい。「てめーら遊んでないで早く部室から出ろ。鍵閉めんぞ」という岩ちゃんの言葉に大爆笑しながら2人は部室を出て言った。一人残される俺。じっと、スマホの画面を見つめる。

「俺号泣顔文字送る」
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