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【黒尾鉄朗の話】



「…お前は本当に楽しそうだな」
「めっちゃ楽しい」

しっかし、さっきの握手マジで痛ェわ。俺は手首を回す。つーかなにあのイケメン君、あれが残念シスコン徹?イメージ違ったわ…。「リエーフとあかりセットで連れてこなくて本気でよかったと思うわ」そう言う夜久のセリフに同意した。普段の2人のコミュニケーションを見たら徹多分発狂するわ。あそこに恋愛感情は皆無だけど。飼い主と大型犬だし。それよりこっちだよこっち。俺は夜久を見る。

「お前徹に宣戦布告してこいよ」
「俺に死ねって言うのかお前は」

「眼力だけで人が殺せそうなレベルだぞあれ」という夜久の言葉に俺は大爆笑した。まぁあかりちゃんに手を出したら物理が飛んでくると思うけどな。暫く雑談をしているとジャージの袖を引っ張られた、「ねぇクロ」研磨が俺を見る。

「どうした?」
「あれが、あかりのお兄さん?」
「そうだけど」
「…ふーん」

なんだ、研磨もあかりちゃん気になる感じか?なんて茶化すと「クロうざ」と返された。ただの冗談じゃねーか。じーっと徹を見る研磨に俺は首を傾げる。何かを、探る様な目だ。俺は押し黙る。暫くして研磨の視線が徹から外れた。

「どうした研磨」
「なんかさ」

あまりにも、似てなさすぎじゃない?という研磨の言葉。徹とあかりちゃんが似てない?俺は首を捻る。まぁ、確かに似てはいないが。でも男女の違いだ、例え兄妹だったとしても、それほど気に掛ける事か?

「外面的にも、内面的にも全然似てない」

研磨が眉を顰めた。その様子に俺と、夜久も首を傾げた。「俺の気にしすぎかもしれないけどさ」研磨がそう零す。なんだ?その実は兄妹じゃないみたいな、そんな話か?流石にそれはねーだろ。俺徹から小さい頃のあかりちゃんの話めっちゃ聞かされてるし。この前なんかあかりちゃんの超ちっちゃい時の写真送りつけられたし。

ちらり、俺は徹の方を見る。「おいかわさーん!がんばってくださーい!」という女子の応援にめちゃくちゃ良い笑顔で手を振る徹。…まぁ、似てないわな。正直イラっとした。アイドルか何かかあのイケメンは。お前女の子にあんな笑顔向けられるなら妹にもちょっとは優しくしてやれよ、ばっかじゃねーの。ハァ…俺は溜息を吐いた。


「なんか、ちょっとだけ徹を懲らしめてやりたくなったわ」
「練習試合で目に物みせてやれ」
「夜久はあかりちゃん徹から奪って目に物みせてやれよ」
「おい」
「あと気になるのはウシワカこと牛島若利だよなー」

?牛島若利がどうしたって?と夜久の問いかけ…と距離が離れているにも関わらず徹からの鋭い視線が突き刺さる。あいつ、ウシワカが大嫌いらしい。地獄耳かよアイツ…冷や汗が出た。



「ま、取り敢えずあかりちゃんのおにーちゃんにぎゃふんと言わせてやろうか」




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「くっそつえーな…おい」

腕で零れ落ちる汗を拭い取る。「は、当然」爽やか笑みは何処へやら、徹が余裕そうな笑みを浮かべる。くっそ、世界ユースのウシワカと言いこいつといい、宮城もレベルたっけーな。


「ねぇ黒尾、俺らが勝ったらあっちでのあかりの様子教えてよ」

大体の事はお前に教えてるっつーの。「あとあかりの友人関係とかさ、あかりを好きになったどっかの誰かさんの事とかも、ね?」まさに氷点下の笑みに俺は顔を引き攣らせた。やべぇ、しぬ。
遠ざかった徹。俺は夜久の肩を叩いた。


「夜久、お前マジで死ぬかもしれない」
「洒落にならねーよ…」

1セット目は取られてしまった。次取られたらストレート負けだぞ。ははははと零れた笑いに覇気は無い。「気持ちで負けてどうすんだよオラっ!」と夜久に背中を叩かれる。夜久だってちょっと疲れてんじゃねーか。汗が落ちるばかりだ。

「クロ」
「どうした研磨」
「…いつものやる気は何処に行ったの。まだ終わってない」
「どうした研磨、お前随分やる気じゃねーか珍しい」
「俺、ちょっと聞きたい事出来た」
「あ?」

研磨が、少し大きな声で言う。こいつには珍しい事だ。目立つのが苦手なくせに。


「クロもこっちが勝ったら条件だしなよ。そう言うの好きでしょ?どうせ俺らが勝つんだから」
「はッ、言うねネコのセッター君。こっから取り返そうって?言っとくけど、そんなに甘くないよ?」
「もう"慣れた"よ。次のセット取り返すよ」
「上等」

け、研磨がやる気出してるだと…っ。感動する夜久を横に俺は呆然とする。この後のセットを宣言通りに取り返した。悔しそうに研磨を睨む徹、それを見て怯えもせずに見つめる研磨。今までにない光景だ。チームの士気も戻る。まさか研磨に救われるとは…研磨の中に別の誰かが入ってるんじゃねーの…研磨に視線を送ると「クロ視線がウザい」と言われた。どうやら研磨は研磨だったようだ。
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