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【及川徹の話】



「やーやー、はじめまして!音駒高校バレー部主将、黒尾鉄朗デス」

今日は練習試合よろしくお願いします。と、そりゃあもう爽やかな笑みを浮かべ差し出される手に俺もめいいっぱいの笑顔で応える。がしっと握り締めた手、互いの骨が軋む。ここ最近で完全に聞き慣れてしまった声が、とんでもなくイライラする。

「ハジメマシテ!青葉城西高校バレー部主将の及川徹です…っ!くっそ可愛くない妹がいつも迷惑かけてますざまぁ!」
「いやいや、あかりちゃん音駒バレー部の天使だからね。別に同意しなくてもいいんだけどさー」
「お前ほんとに…っ」

思わず黒尾に掴みかかろうとした時「何やってんだ及川」と岩ちゃんに思いっ切り後頭部殴られた痛い!俺じゃなくて俺を煽ってる黒尾殴ってよまったく!
ふと、目線を泳がせる。先日マネージャーになったたらしいあかりの姿は無かった。「残念、あかりちゃん今回はお留守番なんだわ」そう言う黒尾にあっそう!とだけ返した。別に来てなくてもいいし、どうでも良いもん。…バッグの中に入れた箱を思い出す。別に、ただのゴミだから、関係ない。


「…お前ら、いつまで握手してるんだ」
「夜久、こいつあかりちゃんのおにーちゃん」
「おにーちゃん言うな気色悪い」

ちらり、夜久と呼ばれた小さめの男子を見る。聞き覚えがある、ラインのやくもり君か。「えーっと…夜久衛輔です」おずおずと手を差し出してきた。まぁ、黒尾よりは好感度は良いかな、よくわかんないけど。いやでも待て、前そういえばあかりとデートとか、そんなライン送ってなかったっけ?俺は夜久君とやらを見下ろす。

「可愛い妹がお世話になってます!妹大好き及川徹です」
「俺の声真似のつもり?全然似てないんだけど。あと何その内容。黒尾ぶっ潰す」
「やってみろよおにーちゃん」



…ウチの馬鹿主将が申し訳ない。
…いや、俺のところのアホ主将も悪い。ただのグズだから気にすんな。

後ろで何やら岩ちゃんと…夜久ちゃんでいいや。が喋っていた。グズって言うの止めて岩ちゃん、俺色々余裕ないの大目に見て。そんな事を思っていたら首根っこを掴まれた。


「おいグズ、さっさとアップして練習試合すんぞ」
「岩ちゃん、ただのグズはやめて。せめて川つけて」
「未だに妹と仲直りできないグズはグズで十分」

ほら行くぞ、とそのまま引き摺られる。ちょっと待ってよ岩ちゃん!俺まだあいつに聞きたい事がぁあああああ。にこやかに手を振る黒尾が遠ざかっていく。あいつこの後憶えておけよ。

「取り敢えずしょっぱなから本気出す」
「あんまり羽目外し過ぎんなよドクズ」



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「及川さん、あっちの主将と知り合いなんですか?」

アップが終わって少しの時間、多分みんなが疑問に思っているであろう事を金田一が口にした。俺は不機嫌を隠さずに口を開く。

「俺の妹が通ってる学校音駒なんだよね」
「え、あかりって東京行ったんですか」
「ちょっと国見ちゃん、なんであかりを名前でしかも呼び捨て?」
「心狭すぎんだろ及川」

国見ちゃんの肩を掴み、ゆらゆらと揺らす。国見ちゃんはめんどくさそうな顔で「中学の時同じクラスだっただけです。名前呼びは…なんか及川って呼ばれるの嫌って言われて…ていうか揺らすの止めてください及川さん」…お、及川って呼ばれるのが嫌って…そんな…。俺は国見ちゃんの肩から手を離した。ショックを受ける俺にまっつんとマッキーが追い討ちを掛ける。

「及川の妹ちゃん、このまま及川家に帰ってこない勢いだよね」
「及川が事ある毎に妹ちゃん虐めるからだよなー」
「うぐ…っ」

だってさぁ…自分でもわかるくらいに情けない声が出た。今更、どうしろって言うんだよ。関係修繕だなんて、もう無理なところまで来てしまったのではないだろうか。俺だって、素直になりたいよ。でも、あかりを目の前にするとさ…。

「おいかわさーん!がんばってくださーい!」と女の子の声がしたので顔を上げて、俺は笑顔で手を振った。そこに居る全員が引く。なにさ、みんなして。


「お前今ので速攻笑顔作れるくせに、妹の前では出来ないのかよ」
「逆によく知らない女子にそう笑顔作れるよね、って感心する」
「えー女の子は大事にしないとでしょ?」
「妹も大事にしてやれよアホ川」
「おまえそんだけツンツンして、妹大好きとか需要ねーからな。つーか及川がシスコンって知った時ドン引きしたわ」
「それな。本音聞くまで及川妹の事大嫌いだとばかり思ってたし。本音聞いたとのあの衝撃。拗らせ過ぎマジドン引き」

マッキーもまっつんもさっきからうるさいよ!
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