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再会は
いつでしょうか




「今週から平日放課後は都内の学校で練習試合、土日で県外行って練習試合地獄だから心するように。あ、県外の練習試合に関してはベンチ入りメンバーだけだから」
「えっ!俺行けないんですか!?」
「リエーフ留守番」
「えー!!?」
「で、あかりちゃんなんだけど」

黒尾先輩の視線が向けられる。「ほんとは手伝い要員で連れていきたいんだけど、今回はなるべく人数押さえたいんだわ。悪いけどリエーフと留守番頼む」その言葉に私は頷く。正直私はホッとしていた。視線を、配られたプリントに落とす。練習試合一覧に「宮城 青葉城西高校」という文字を見つめる。くしゃり、プリントに皺が出来る。


「お、最後烏野だ」
「おー、久しぶりにゴミ捨て場の決戦実現だ。猫又監督も機嫌いいし」

…ゴミ捨て場の決戦とは。思わず耳に入って来た言葉に顔を上げる。隣で研磨さんが「ゴミ漁るネコとカラスでゴミ捨て場の決戦」なんて言った。意味がわからない…。そして研磨さん以外がノリノリなんだけど、何なんだろうかこのテンションは。


「俺も留守番がいい」
「駄目に決まってんだろ。お前は音駒の背骨で脳で心臓なんだから」
「やめてほんとやめて」

研磨さんは本当に嫌そうな顔をした。背骨で脳で心臓…?「気にしないで、本当に。全部聞かなかった事にして」と本気で言われたので今のすべて聞かなかったことにした。宮城は、青葉城西と烏野…だけ、かぁ。そっか。



「白鳥沢、」
「ああ、白鳥沢なー。流石にアポ取れなかったわ。世界ユースの牛島若利、会ってみたかったんだけどな」

小さく呟いた言葉を、黒尾先輩に拾われた。若さんってば有名人。全然会ってないなぁ…最後に会ったのはいつだろう。中学2年、とか?


「あかりちゃん、地元宮城だったよな。牛島若利知ってる?」
「一応…」
「ふぅん」
「?なんです?」
「いやいや、こっちの話」
「そうですか?…あ、黒尾先輩。私の兄が、この青葉城西高校の主将です」
「知って」
「え?」
「いやなんでもない。へーそうなのかーへー」

…なんか、へんなの。
駄々をこねるリエーフ君をなんとか宥め、昼のミーティングが終了した。




▼△▼



「いいなーいいなー練習試合いいなー」
「県内は行けるんだから諦めてよリエーフ君」
「だって県外だよ!あかりも行きたいだろ?」
「いきたくない」
「…なんで?」
「兄に、会いたくない…」
「…そっか…でも俺は行きたい」
「先輩達居ない間、一緒にご飯食べに行こう?」
「行く!」
「じゃあ諦めて」
「………」
「じゃあご飯一緒に行かない」
「……ぅ、」

なんかさぁ、あかりちゃんリエーフの扱い上手だよな。獅子っていうより、お預けされてる犬みたい。わかるわかる。
先輩達、ばっちり聞こえてますよ。でも確かに、こうじーっとリエーフ君を見ていると、垂れた耳としっぽが見えてき始めた。目を擦る。私も末期かもしれない。


「あかりー!!」
「な、う…ぃ」

ガシッと抱きしめられる。「俺も練習試合行きたいぃいいい!」と声を上げる傍で「リエーフてめぇええええ!」という夜久先輩の怒号…じゃ、ない?あれ、いつもと声が

「女子マネと同じクラスだからってべたべたするとか羨ましいぞこの野郎ォオオオオ!」

モヒカン先輩もと言い山本先輩だった。未だに直接放した事は無い、近付くとフリーズするんだもんあの人。「山本うるせぇ!」と言われてちょっと不憫だ。


「ちょ、夜久さんアレ良いんですか!?羨ましい!」
「お前本音漏れてんぞ。あと俺はあれが飼い主にじゃれついてる大型犬にしか見えないから。許容範囲だ」
「って言いながら蹴ってるじゃないですか夜久さん!やめてください!!」

結局蹴られるリエーフ君の腕から逃げ出す。「あかり、色々お疲れ様」なんて言う研磨さんの隣に座る。なんというか、研磨さんの隣は平和なのだ。あと安心する。ぽけーっと騒ぐ部員を見ていると「ははは、ここは幼稚園かなにかか」と笑う黒尾先輩が近付いてきた。私と研磨さんは黒尾さんに視線を送る。

「…なに、お二人さん」
「いえ、幼稚園児の筆頭は」
「クロだと思って」
「おい」







▼△▼



そして週末、金曜日。部員は既に県外へと向かってしまった。そして放課後の体育館。


「……」
「……」

元々部員は少なめだな、なんて思っていたけれど


「俺以外全員居ないじゃん…!」

見事に私達しかいなかった。これは酷い。


「別に連れて行ってもよかったんじゃないかと思う」
「だよね!先輩全員で俺虐めて…犬岡も芝山も居ないし!」
「どうする?」
「うー…」

体育館のど真ん中で寝そべるリエーフ君。その隣で体育座りする私。すると「おーい、何してんだお前らー」とクラスメイトの東月君が体育館の扉から顔を出し声を掛けた。


「人が、いない」
「…みりゃわかる。どうした?」
「みんな練習試合ででてっちゃった」
「あー…リエーフと及川は留守番ってわけだ」
「そう。私は別に平気なんだけど…」

リエーフか。
うん、リエーフ君。
もう宥めようがないよ。どうしよう。すると東月君は「うーん…」と唸り


「バスケやってかないか?」

こっちもさ、生憎と部員も少ないしマネも居ないもんでね。そう肩を落とす東月君の言葉にリエーフ君が立ちあがった。

「やる!!」

先輩達帰ってきたら説教コースかな。ま、いいか。リエーフ君一人じゃ練習だって出来っこないし。くしゃり、夜久先輩に渡されたメモを握りつぶした。ごめんなさい夜久先輩、でもこんなロードワークばっかりのメニューじゃ流石に可哀想。仕方がないからリエーフ君と一緒に怒られてあげよう。運命共同体だよ。


「及川、バスケは?」
「出来るとお思いか」
「…実は隠れた才能とか」
「あかり運動神経良」

べちんっ。と身体が床に叩きつけられた。


「…」
「……」
「…転びました」
「うん、見ればわかる。大丈夫か?で、リエーフ…及川の運動神経が何だって?」
「なんでもない」

どうせ私は運動神経なんて持ち合わせてないですよ。無駄な体力と、ボール追いかけるのが得意なだけだ。血は出てない。ごめんね、足を止めちゃって。そう言って歩きだした。2分後に壁に激突し、その更に3分後に東月君の背中に頭から突っ込んだ。









「おー!リエーフと及川のバカップル!」
「おっと手が滑った」

二枝君の顔面に、東月君のボールがめり込んだ。手が、滑ったとは。思いっ切り構えて投げつけたように見えたけど。バスケットボールってバレーボールより遥かに痛いよね?「あ、これいつもの事だから気にしなくていいよ及川」なんて言う東月君。後ろで二枝君がのた打ち回ってるけど本当に大丈夫?

「こっちも人少ないなー」
「バレー部より緩いし、3年勢はなんか呼び出し食らってるし」
「そうそう!奇数でチーム組みづらいし!なに、お前らバスケやんの?」
「やる!」

「二枝君復活早いね」
「阿呆だからな」
「そうなの?」
「阿呆だけが取り柄だから」
「取り柄なの?」
「阿呆を取り柄としなきゃ良いとこなんもねーから二枝」
「…人間一つは取り柄あるもんだよ。私は無いけど」
「微妙なフォローとネカティブ…及川何する?」
「得点」
「ん、地味に得点付ける人居なくて面倒だったんだ助かる」

つーわけで集合!二枝君が声を上げる。わらわらとバスケ部員が集まって来た。2年生も、居るわけで。


「1年が仕切るなこんにゃろ」
「すげー!デケー!1年君バスケ部はいらね?」
「おっ、こっちの女の子も1年?可愛いね、よかったら先輩にメアド」
「おっとまた手が」

東月君のボールが鋭く飛んでゆく。


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日常
バスケ部はみんなノリが良い。仲良し組はだいぶわちゃわちゃしてきました。どうでも良いですが管理人は東月君がお気に入りです。
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