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【及川徹の話】



『というわけで悪いな徹、あかりちゃんは音駒バレー部がいただきました』
「死んでしまえ」
『お兄ちゃん嫉妬深いよーあかりちゃんに嫌われるよー。あ、ごめーん。既に嫌われてたなお兄ちゃん』
「苦しんでしね…!」

電話の向こうで笑う黒尾をぶん殴りたい。本気で殺意がわいた。こいつ人を苛々させる天才なのではないだろうか、口調と言い煽り方といいほんと完璧だよねお前!「俺有能だから」という黒尾に「ばっかじゃねーの!」と怒鳴ってやった。
なんでも、あのあかりが今日マネージャーとしてバレー部に入部したらしい。なんで、あいつマネージャーなんかやるのさ…絶対そんなのやるタイプの人間ではないのに。『お前の知らないところであかりちゃんは成長してるぜ?』という黒尾の言葉に唇を噛む。どうせ俺は、成長していないさ!


『でさー、あかりちゃんに対して恋心が芽生えちゃった奴がいるんだけどさ』
「は?」
『で、そいつがちょっと気になってる事があってさ。お前に聞きたいんだけど』
「その前に俺が聞きたいんだけど!は、なに?恋ご」
『あかりちゃんって彼氏居た事ある?』
「………は?」

俺の言葉を遮って言った黒尾の言葉にすごい間抜けな声が漏れた。何言ってんだこいつ、あかりにそんなのいるわけないだろ。『じゃあ徹が知らないだけかもな』と言う言葉にスマホがミシッと音を立てた。俺は、結構あかりを見ていたつもりだ。そりゃあまぁ、知らない事もあるだろうけど、彼氏なんか絶対居なかった。というか彼氏とか許さないし。


『なんか手慣れてたって』
「手慣れてたって何!?何したの!?」
『ちゅーされそうになったってさ』
「ハァ!?」
『あともう一個』
「次の話題進む前にその話を詳しくしろよ!」
『あかりちゃんって運動神経いいよな。体力もあるし。バレーしてた事ある?』
「なにいってんのお前…」

あかりが運動神経良いっていう時点で可笑しいよ。バレー?してるわけないじゃん。してたら俺が手取り足取り…じゃなくて。うん。あかりのどんくささは折り紙つきだ。何にもないところでよく転ぶし、ぼーっとしてるから壁にはよくぶつかるし。つーかあかりの運動神経の話はどうだっていいんだよ!グズでのろまでぽけーっとしてる天然なんだから!それより誰だよあかりの事好きになった奴って!!

『バレーの上手い奴であかりちゃんと仲良かった男とかいないのー?』
「もうその話いいからさ!敢えて言うなら岩ちゃんくらいじゃないっ!?」
『敢えて岩ちゃんの名前を出すのな、お前』

だって岩ちゃんくらいしかあかりに構ってるヤツ居なかったし。岩ちゃん以外の男で関わりがあるヤツなん…て…?あ、れ?





「及川、そういえばあかりは元気か?」




そういえば、去年あたりのインターハイ予選、擦れ違い様にそんな事を言われた。そうだ、なんで今まで忘れてた?あんな重要な事。なんでお前が、あかりの事をしっているんだ。なんであかりの事を名前で呼んでいるんだ。とその時俺は半ギレ状態で、岩ちゃんに羽交い締めされて。


「…は?」
『…ん?どうした』
「…は、ははは」
『お、おい?徹?』
「あんのウシワカァ…!どこであかり引っ掛けやがった…っ」
『え、ウシワカってあれ?宮城で有名な世界ユースの?え、マジ?』
「ちょっと白鳥沢殴り込み行ってくる」
『お前今夜の11時だから。落ちつけよシスコン』
「シスコンじゃないし」
『お前もういい加減にしろ』

「でもそっかー、世界ユースの牛島若利かー、なんか納得」そんな事を言う黒尾に俺はイライラが募っていく。何がどう納得なんだ。あかりの彼氏が、いや元彼?は、もしかして遠距離恋愛?あ?なんなんだよあいつ

「あかりのなんなんだよ…っ!」
『あ、俺が納得って言うのは運動神経つーか反射神経の話でな?取り敢えず落ちつけ。ほら、彼氏って決まったわけじゃないだろ』
「彼氏なわけないじゃん何言ってんのばっかじゃないの」
『…おまえさ、ほんとあかりちゃん好きだよな…』
「うるさいな当たり前だろあんな妹!大好きだよ!!」
『ツンギレはねーわ…お前あかりに彼氏出来ても死ぬなよ』
「心配御無用だけど?彼氏とか絶対許さないし」
『…前途多難だなぁ…』
「ていうかあかり好きなヤツって誰だよ!バレー部!?」
『お前に殺されそうだからぜってー言わねーわ』
「呪う」
『こえーよ』

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拗らせシスコン及川、そろそろ危ない
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