▼△▼


【夜久衛輔の話】



ガンッ!とドアらしからぬ音をたてたが無視だ。爆笑する黒尾の胸ぐらを掴む。片手にはスマホ。おい、お前何を撮ろうとしてた?怒りで震える俺の声。笑い過ぎたらしい黒尾の目は若干濡れていた、どんだけ笑ってんだこいつ。「いやー最近面白い事ありすぎて笑い死ぬわ」と腹を抱える黒尾。そのまま死んでしまえこの野郎。

「このすやすや寝てるあかりちゃんの写真を送りつけようと思ってたら、目の前にまさかのスキャンダルが転がって」
「ねーよ!か、勘違いすんな!」
「えー?だってめっちゃ顔近かったよな?何しようとした?なぁなぁ」

にやにやとする黒尾を思いっきり蹴ってやった。むかつくからそのにやにや顔やめろ!つーかお前早く部活行けよ主将だろ!


「つーか顔マジで赤いぞ」
「…るせーよ」
「やべぇ超ウケる」
「やべー超ムカつく」

あー…もう、マジむかつくお前…。俺はしゃがみ込んだ。情けない息だけが零れる。不意打ちだ。いやあかりは何もしてないけど、俺が勝手に自爆しただけで。ほんと、無意識だったんだよ。ああああ!と頭を掻き毟った。

「夜久がそうなるってかなりレアだよな。どうしたよ?」
「…なんか、きた」
「なにがだよ、そこが聞きてーんだけど」

だから、あーもー…
ずっと寝てた割には、まだ隈がくっきりと残っていて、若干顔色が悪そうに見えて。だからちょと心配になって手を伸ばして。指先で触れたあかりの肌が柔らかくて、思っていた通り冷たくて。なんか、こう…

「だぁあああああ!」
「おーい夜久ー、戻ってこーい」
「あああ!もう部活行くぞコラぁ!」
「なんで切れてんの」
「うるせぇ!」

その日の部活はひたすら黒尾がにやにやしていた。



◇◆◇


ひたすら黒尾がにやにやする部活が終わり、俺は深い溜息をついて着替えを始める。と、肩を掴まれた。あー…もう誰だかわかるわ。「んだよ黒尾」というと「この後ファミレスでも行こうか、なぁ夜久?」と、もう表情筋可笑しくなってんじゃーかと思う黒尾が肩を組んできた。俺は諦めて「1食おごりな」なんて言うと「背に腹は代えられないよな」なんて言った。どんだけ食いつき良いんだよコイツ。俺らも飯行きたいです!と山本が名乗り出たが「わりーな、今日は作戦会議なんだよ」と黒尾が断った。なんだよ作戦会議って。

「あ、研磨」
「いかない」
「…あ、そう」
「あんまり引っ掻き回すのやめなよ…まぁ、俺が言えた義理じゃないんだけど」
「?どういうことだ」
「あの子の寝不足の原因、俺のせいかも…って話」

は?と研磨を止める前に研磨は部室を出て行ってしまった。黒尾と顔を見合わせ、互いに首を傾げた。「まぁ、いいか…ほれ夜久行くぞ」引き摺られるように部室を出た。









「で、何がどうした?」
「なんか、無意識に手が出て」
「おう」
「あかりって女の子なんだな、って自覚した」
「いやいや、あかりちゃん最初から女の子だろ」
「そーじゃなくて」

はいはい、あ、おねーさーん!注文いいっすかー。と適当に注文する。ま、奢りだから遠慮するな。と笑う黒尾に容赦なく注文を叩きつけた。引き攣った笑みを浮かべたが無視だ。注文を終えると、俺はぽつりぽつりと言葉を吐きだした。


「最初はほんと、妹みたいな感覚だったんだよ」
「え、まじ?」
「おー。…なんかさ、アイツ俺に言いかけたんだよ。それは多分俺に対してって話じゃないと思うんだけどさ。あいつ、なんか決心したらしい。でも、言いづらそうで。口開くまで待ってようかと思ったんだ。でもじっと顔見てたら、なんか顔色悪いし隈も気になるし。で、手を伸ばしてあかりの顔触ったら、あかりはくすぐったそうに目細めるし、柔らかいし、なんかひんやりしてるし」
「夜久、変態くさい」
「お前にだけは言われたくない。で、なんか自覚した」
「可愛かったあかりちゃんがさらに可愛く見えた!と」
「お前キモイよ」
「なんで俺が暴言吐かれるの?」

自分の胸に聞いてみろ、なんて言うと黒尾が自分の胸に手を当て「俺は友達と後輩思いのすげぇ良い奴、って俺の胸が言ってる」なんて真顔で言った。今この場所にボールが有ったら黒尾の顔面に叩きつけているところだ。ほんとこいつは…。

「まぁ夜久の恋も前途多難だよな。リエーフは兎も角、鉄壁シスコン番長徹がいるからな。まぁ頑張れ。俺は応援してやる」
「はぁ?そういうんじゃ」

だれも、恋心だなん、て………?
<< | >>