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【及川徹の話】



最近、可愛げの無い大嫌いな妹の学校の先輩…俺と同じ学年の男と電話する事が日常となってきた。一番最初はラインだったのに、その日のうちに電話しようぜという流れで…今に至る。どうしてこうなった。電話の向こうに居る男は、一体どんなムカつく面をしているのだろうか。取り敢えず俺は黒尾を敵として認識している。というかなんであいつ俺の事徹って呼んでるの?岩ちゃんだって俺のこと及川って呼ぶのに。仲良しとかまったくそんなことは無い。
敵と言えば、よく話題に出てくるロシアのハーフ、身長が2メートルとは羨ましい(実は2メートルじゃなくて194pだという事は後で聞いた。6cmのサバ読みって結構大きいって思うんだけど)。聞くところによるとあかりのクラスメイトでかなりべたべたしてるらしい。なんと羨…なんて物好きな奴なのか、むかつく。最初(勝手に)作られたグループに居たやくもり…えーっと夜久だっけ?そいつについてはよくわからない。あれ以降俺は夜久というやつとやりとりはしていない。


『でさー、あかりちゃんマネにしたいんだけどどう思うよおにーちゃん』
「おにーちゃんって呼ぶな気色悪い。あとあかりマネージャーとか使えないと思うよ?あいつどんくさいし気が利かないし」

電話の向こうの男、黒尾鉄朗は笑う。何がそんなに可笑しいのか。毎日毎日飽きずにメッセージや電話であかりの近況報告をしてくる。暇人かよ。それに毎回出てしまう俺はすごく優しいと思うんだ。普通なら無視してる、あかりの近況報告とかDVD見る時間減らしてまで聞くようなもんじゃないし。

『そういや、兄が大好きなバレーが怖いって言ってたんだけどお前何したの?』
「…岩ちゃんが、あかりにバレー教えてた」
『え、なに。お前自分の親友に嫉妬したの?であかりちゃんに』
「お前何言ってんの?なにが嫉妬?…あー、そうそう嫉妬だよ!俺の岩ちゃんあかりにとられて嫉妬したの!」
『寝言は寝て言え。で、本当は?』
「…あの鈍くさ妹がボールなんか触って突き指でもしたらどうするのさ。岩ちゃんが気にしちゃうでしょ!」
『お前岩ちゃん大好きな。で、あかりちゃん睨んじゃったわけだ?』
「俺の顔見て物凄いスピードで逃げてった」
『大爆笑していい?』
「しね」

俺が悪いだなんて、分かってる。でも仕方ないじゃん、アイツが鈍くさいのは本当の話だし!怪我でもしたらどうするんだ。あいつはよく何もない所で転んでは流血騒ぎを起こしてたから、本当に危なっかしい。つーかバレーに興味あるんだったら岩ちゃんじゃなくて俺に…いや。

『徹は本当にあかりちゃん大好きだよな』
「はぁ?大嫌いだよあんな妹!」
『じゃああかりちゃん俺らにちょーだい?』
「死んでも御免だね」
『お前ほんとに素直になっちまえよ』

っだー!うるさいなわかってるよ!そんなことできてたら俺は苦労してないっつーの!バタバタと足をバタつかせると下の階から「徹五月蠅いわよ!」と母さんの声が響いた。あーもー!このムカつきを一体誰にぶつければいいんだ!


『間違ってもあかりちゃんにぶつけるんじゃねーぞ』
「しっらなーい」
『あ、そうだ。近々本当に「妹を俺にください」って言いに行くわ』
「誰が嫁に出すか」
『そこまで言ってねーよ。でも彼氏候補は何人かいるぜ。聞きたいか?俺調査のあかりちゃん彼氏候補』
「しね100回死ね」
『はははははは』
「まじでムカつく」

あかりに彼氏とか全く想像つかないし。「あかりちゃんクラスに割と仲のいい子ができたらしいぜ?」という黒尾の言葉ですら想像ができない。あいつ、友達なんて居たことあったっけ…?気付いたら岩ちゃんがあかりを構ってて……あ、岩ちゃんに対してちょっとだけイラっとしちゃった。ごめんね岩ちゃん。

「ずるいじゃん、実の兄より仲のいい男とかできたら」
『おま…。あ、ちなみに俺はお前よりあかりちゃんと仲良い自信があるわ』
「しんじまえ。俺が普通に会話できるようになるまで彼氏なんか作らせないから」
『自己中すぎてひくわ。あとお前に普通は無理だと思う。お前ツンツンかデレデレデレの2択だろ?』
「え、意味わかんない」
『お前動物可愛がり過ぎて逃げられるタイプの人間だろ』
「……」

なんか近所の犬をすごい甘やかしたら、次の日犬小屋から出てきてくれなかったことを思い出したけど…いや、関係ない話でしょ?
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