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眩しすぎて
目が眩む




放課後「あかりまた明日っ!」とリエーフ君は走り去った。今日もリエーフ君は部活を頑張るようだ。部活に入っていない私はゆっくりと帰る準備をする。図書室に寄って本を数冊借りでから、私は玄関を出る。部室棟の後ろに寮がある。少し遅い時間だ、部室棟は静まり返っていた。が、かすかな物音と共にひとつ部室のドアが開いた。そちらに視線を向けると、部室から出てきたのは黒尾先輩で。「お、あかりちゃんじゃん」そういう黒尾先輩にお辞儀をした。


「あかりちゃん暇ならちーっとバレー部覗いていかね?」
「え」
「はい、ゴー!」

するりと私の手を取り、そのまま私を引き摺る様に体育館へと向かう。「とお…あかり兄はバレー部だったよな、ルールわかる?」という言葉に私は首を横に振った。ちょっとだけなら、分からなくもないけど。とある人が、なんだかんだで私に構っていたから。
あっという間に体育館へとたどり着いてしまった。「ほれほれ、上がれ」と黒尾先輩は靴を履きかえる。私上履きないのに。靴を脱ぎ、ソックスだとちょっと滑る床に足を踏み出す。ふと、練習中であろう夜久先輩と目が合う。

「黒尾遅い、あとあかり引き摺ってくるな」
「わりぃわりぃ、あかりちゃん暇そうだったからよ」

勝手に暇そうとか、言わないでいただきたい。…まぁ暇なんだけれど。「あかり−!」と手を振るリエーフ君に小さく手を振り返した。他の部員さんからの視線が向けられて少し居心地が悪い。それに気づいた夜久先輩が私の頭を撫でた。

「…ま、ちょっとでいいから見てけよあかり。嫌になったら帰っていいし。あ、でも暗くなる前には帰れよ?」
「いや、寮同じ敷地内じゃん」
「部員でもない人間遅くまで付き合わせられねーだろ。つか黒尾はさっさとアップしろよ」
「へーい。じゃああかりちゃん好きなときに帰っていいからな。

じゃあ今帰ってもいいですか。なんて言えるわけも無く、邪魔にならないように体育館の隅っこで小さくなって正座をした。ちらちらと向けられる視線がちょっと痛い。
「よーし、ミニゲーム始めんぞー!」という黒尾先輩の一声でその視線は四散した。




じっと、練習を見つめては徹を思い出していた。徹は、私と話す時いつも嫌そうな顔をしていたけれど、それでもバレーの事を話す時だけは楽しそうな顔をした。岩泉さんと一緒に居る時も、バレー部で集まっている時も、全部全部楽しそうだった。

…楽しそう、だなぁ…

考えなくてもわかる。私は多分、ここに居ちゃいけない。とんでもなく場違いな私は、練習に集中しているバレー部員にばれないようにそっと出口へと向かった。今日は、帰ったらすぐに寝てしまおう。あまり、考え事をしたくなかった。

靴を履き、歩き出そうとしたとき「ねぇ」と声を掛けられた。人がいるとは思っていなかった私の身体は大げさに揺れる。視線をずらすとスマホを弄るプリン頭の人がいた。あれ、この人確か。何となく見覚えのある人。「……なんで、しょうか」そう言うとべしべしと彼が座っている階段の横を叩いた。…隣に座れ、という事なのだろうか。取り敢えず無言で隣に座ってみた。

「………」
「………」
「………」

なんなのこの人。なんで私を呼び止めたのだろうか。真剣にスマホを弄るその人に控え目に「…なにしてるんですか」と聞く。「…アプリ、今ボス倒してるから」と返された。この人多分バレー部員だよね?おサボり中なのかな。なんだか帰るに帰れなくなり、先ほど図書室で借りた本をバッグから取り出し開いた。

まさかバレー部の部活終了時間まで待たされることになるとは、誰が予想できたことか。




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「…あかりちゃんと…研磨、お前何やってんだ」
「…あれ、クロ。もう部活終わる時間?」
「あれ、じゃねーよ。いつの間にかいなくなってたと思ったら…お前ずっとゲームしてたんじゃねーだろうな」
「今日イベント最終日だったからポイント取らないと」
「しらねーよ…まったく…。で、あかりちゃんはなんで研磨と?」
「この人に呼び止められたんですけど…」
「集中してすっかり忘れてた」

お前は…と黒尾先輩が溜息を吐いた。私も本読むのに集中してましたし、別にいいんですけどね。と、時計を見ると割といい時間だった…あれ、思っていたより時間が過ぎてる。「あー腹減ったー」とバレー部員がぞろぞろと体育館から出てきた。

「あ、あかり!」
「リエーフ君、お疲れ様」

いえーい、と何故かハイタッチを決めた。「リエーフ君元気だね」そういうと「いや鬼が…夜久さんが…」暗い表情になった。夜久先輩は厳しいのかそうなのか。そんなことを思っていると夜久先輩も出てきた。

「夜久先輩、お疲れ様です」
「おー…というかなんでまだここに。帰ったかと思ってたんだけど」
「なんか、捕まっちゃいまして…」

ちらり、視線をずらす。「研磨?」と声を漏らすとプリン頭の人が顔を上げる。

「ちょっと言いたいことがあった気がしたんだけど」
「研磨が自分から話しかけようとするだなんて珍しいこともあるな」
「……忘れた」
「おい」

ほれ、いいからお前ら部室行って着替えてくんぞ、黒尾先輩が声を掛けぞろぞろとみんなが部室の方へと向かう。私、帰っていいのかな…なんて思っていたらプリン頭の人に腕を掴まれた。黒尾先輩も夜久先輩もリエーフ君ももう行ってしまった。体育館の明かりが、私とその人を照らす。

「…え、っと」
「……」
「俺、孤爪研磨」
「…及川、あかりです」
「知ってる、クロがよく話す。あとお兄さんも」
「…え?」

あ、これ言っちゃ駄目なやつだったっけ。と孤爪…先輩?は声を漏らした。徹の事を知っている?私、そんなに詳しく話したっけ。首を傾げていると「いや、お兄さんの話じゃなくて…その…」と続ける。

「俺、そんなにバレー好きじゃないんだ」
「…え、と……?」
「嫌いじゃないけど、クロが居なかったら絶対やらなかった」
「……」
「簡単な理由でいいと思うんだ」
「あ、あの…孤爪先輩…?」
「クロも、夜久さんもリエーフもあかりの事気に入ってるから」
「………」
「だから、近づいていいと思う」
「でも、私は」
「俺が言いたかったのは多分これ。あとは忘れちゃったけど。じゃあ俺も帰るから」

言いたい事だけ言って、孤爪先輩…多分先輩、孤爪先輩は行ってしまった。体育館の電気つけっぱなしでいいのかな。…そもそも私帰っていいのかな。なんて思っていたら携帯電話が震えた。

<あかりちゃんこれからバレー部とご飯どう?>

黒尾先輩からだった。みんなで食べるご飯、すきだけど今の私は。
<ごめんなさい、今日はもう帰ります>
そう返して私は歩き出した。電気、消し方わからないのでそのままにする。スイッチ何処だかわからないし。とぼとぼと、寮へ続く道を歩く。簡単な理由で、いい…かぁ。

「そもそも、私はどうしたい?」

中途半端に、ボールを触ったからいけないのだ。私はある人物を思い浮かべて悪態をついた。まったくバレーに関わらなければ、ただ私を嫌っている兄がやっているスポーツ、ただそれだけだったら良かったのに。なんであの人は私にバレーを教えようとしたんだ。


「………、わたしは」
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