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毎日が
きらきらしています




「あの、夜久先輩」
「ん?」
「黒尾先輩、誘わなくても良かったん、です?」
「いいのいいの。あいつ今くだらねーことしてるから」
「?」
「それとも、あかりは黒尾来た方が良かったか?」
「べつにいいです」
「ばっさり言うようになったよなお前…」


なんだか、変な方向に成長しているような…?夜久先輩がそう呟いた。私、ここ数日で黒尾先輩に本音言えるくらいには成長した。…確かに、変な方向に成長している。「まぁいいんだけどさ、アイツそういう扱いが丁度いいから」夜久先輩が遠い目をした。…なにも、言うまい。
やくさーん!あかりはやくー!!と100mほど先に居るリエーフ君が大声を上げた。行くか…今日は何処が良い?という夜久先輩に何処でも着いて行きますと答える。


「じゃあまたあのファミレスでいっか。あそこバレー部連中で良く行くんだ」
「御用達なんですね」
「おう、気が楽でいいからなあそこ。そろそろリエーフが暴れ出しそうだな」

私達は足を進める。リエーフ君の目の前まで来ると「おそいおそい!早く行きましょう!」と私と夜久先輩の手を取って走り出した。「おいちょっと待て!走りづらい!つーかどこ行くかわかってんのか!?」「え?どこっすか」「しらねーんなら走り出すな馬鹿!」縺れそうになる足、言い合う夜久先輩とリエーフ君が面白くて、すこし笑ってしまった。


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「夜久さん、さっきから何やってるんスか?」
「あー…ちょっとな。関わらないって言いながらも少し…」
「?」
「気にすんな。で、何食う?」
「焼肉定食っ!」
「…………」
「あかりめちゃくちゃ悩んでるな。また激辛シリーズ挑戦か?」
「今日は、普通の気分です」
「前は普通じゃなかったのか…」

この前は、辛いモノの気分だったんです。それにしてもこのファミレスなんでもあるなぁ…。麺類全般中華和食その他諸々…東京はみんなそうなのだろうか。田舎ファミレスこんなに種類無かった。…いや待て、そもそも私ファミレス滅多に行った事なかったから普通がわからない。


「あ、白玉」
「ん?白玉善哉?あかり甘いモノ嫌いじゃなかったか?白玉は好きなのか」
「白玉、おいしいです」
「へぇー……ん?いや待て」
「?」
「白玉好きなのか?」
「はい」
「白玉、オンリー?」
「もちろん」
「美味しくねーだろ!」
「なんでですか」
「味ねーじゃん」
「もちもちがおいしいです」
「え、食感…?」

「え?あかり白玉善哉好きなの?」
「やめろリエーフ、ループする」

何がいけないというのだろうか。白玉、おいしいのに。「ていうかもうボタン押しちゃいますね?」なんてリエーフ君が呼び出しボタンを押してしまったので慌ててメニューを見つめる。


「ご注文は」
「焼肉定食!」
「野菜炒め定食で。あかりは?」
「えっと、地獄坦々麺で」
「…普通の気分って一体…あとドリンクバー3つで」
「畏まりました。…あの、大丈夫ですか?地獄坦々ウチのメニューで一番辛いモノなんですけれど」
「あ、すいません気にしないでください多分大丈夫なんで」

店員さんの背中を見送ってから、「確認されるほどのメニューってなんなんだよ、何度もここ来てるけどあんなん聞いたの初めてだぞ」とぼやく夜久先輩。俺、ドリンクバー持ってきまーす!とリエーフ君は席を立った。




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「なぁあかり、毎日楽しいか?」

夜久先輩が、そんな事を聞いてきた。楽しい、です。今までじゃ考えられないくらいに私は今楽しいと思えている。だって、あそこに居た時より全然息がしやすくて暖かい。
酷く優しかったお父さんとお母さん。心配だったのか、それとも及川徹の妹だからだったのか理由はわからないけど、昔から良く私を気に掛けてくれた及川さん。贅沢者かもしれないけれど、私は、私に向けられる優しさが堪らなく痛かった。どうせなら、徹の様に嫌ってくれた方がよっぽど息がしやすかったのに。そう考えてしまう自分が居て、ひどく悲しい。だめ、そんなこと考えちゃ駄目なのに。


「たまに、怯えた顔をするよな」
「…そう、ですか」
「でも、笑う回数が増えてきた」
「私、笑えてます?」
「おう、無表情より全然そっちのがいいぞ」
「…無自覚、です」
「ははは、そっか」


俺もちょっと飲み物取ってくるわ。あかり何が良い?えっと、烏龍茶で。ん、わかった。夜久先輩が席を立った。そういえばリエーフ君戻ってこないな。一人、窓の外を眺める。随分と暗くなってきた。携帯電話を見る。徹からのメールは400件を超えていた。こわい。どんな文句が書かれているんだろうか。私は画面をスリープモードにした。私は、返信どころかメールを見る事すらできないでいる。よわい、なぁ。



「あかりおまたせー!」
「おいあかり…この阿呆のグラス見てみろ」
「……リエーフ君、なにそれ」
「カルピスのコーラ割り!」
「小学生がやるそれだよね」
「ぶっはっ!ナイスあかり」
「え、あかりと夜久さんの方がよっぽど小学生に…って痛っ!」

蹴りを入れられるリエーフ君が体制を崩す。その後ろには、少し困り顔の店員さん。「2人とも、着席」というと「あ、すいません」と大人しく席に座った。すいません、ぺこりと頭を下げると「いいんですよ、いつものことなので」と笑みを返された。…バレー部の御用達と言っていたけど…ああ、黒尾先輩とか煩いんだろうなぁ、なんてちょっと失礼な事を考えてしまった。
落ちついたところで、夜久先輩が口を開いた。


「あかりさ」
「はい?」
「お兄さんの事教えてくれないか?」
「あ!俺も知りたい!」

眉間に皺が寄ったのが自分でもわかった。とおるのこと。自分で口に出すと、ざわざわとする。変。どうしよう、何話せばいいのかな。


「えっと…兄の名前は徹。バレー部で主将やってるはずです」
「へー!主将、じゃあ上手いんだ」
「そう、みたいです。結構学校も強いって有名で。徹、私と違って努力家で人気も痛っ」

夜久先輩にデコピンされた。ついでにリエーフ君に髪をぐしゃぐしゃにされた。「私と違って、とかネガティブ発言禁止な。言う毎にデコピン」という夜久先輩に私はそっとおでこを隠した。


「でも私、愚図でのろまで、徹に空気読めないっていつも怒られて、嫌われてて」
「デコピン何回だ?」
「とりあえず4回っすかね」
「えっ」
「なんで、そう思う?」

だって、と私は続ける。徹の罵声と、物が壊れる音。徹を叱る母の声。ぐるぐると頭を巡る。


「いつも、私怒らせちゃって。徹に怒鳴られて、壁とかドアとか蹴られて、無視されて」
「それはお前、怒っていいんじゃないの?」
「それはあかり兄が悪い」
「でも、怒らせてるのは紛れもなく私で」
「…ネガティブなあかりにも問題あるけど…それより…」


「で、でもわたしは。私は徹の嫌いな私を変える為に一人で…東京に……きま、して」

逃げる為ではなく変わる為に。ごにょごにょと最後は聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言う。そう、変わる為に。…まだ、全然駄目だけど。目を伏せる。影が近付いてきた。それが夜久先輩の腕だとわかる。あ、デコピンされる。ぎゅっと目を瞑ると暖かく優しい手が私の頭を撫でた。

「あんまりさ、気を負うなよ。俺は別に、今のあかりのままでいいと思うし」
「そうそう!今のあかり、俺は好きだよ!」
「すらっと告るなリエーフ」
「夜久さんだってあかりの事好きでしょ?」
「……お、おー…」
「何照れてんですか夜久さん」
「うるせぇ黙れ」

どうしよう、身体が熱い。言い様の無い感覚が私を襲う。なんで、なんでこんなにもここの人たちは優しいのだろう。どう、して?


「…ちょ、あかり」
「え、あかり泣かないで!なんか嫌な事言った?」

首を振る。ちがうんだ、こんなにも優しいのが心地よくて。ぼろぼろと落ちる涙を、ぐしゃぐしゃと拭う。私も、わたしも

「わたしも、みんながだいすきです!」

とうとう決壊してしまった涙腺。さっきよりもぼろぼろと涙が溢れ落ちる。どうして、こうも







「…お待たせしました…えっと、焼肉定食の、お客様……」
「アッ!違うんですこれは虐めてるとかそういうんじゃなくてですね!」
「…………」
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