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2016/02/07
00:21

【電波少女】
安心院昴(あじむ すばる)
青城1年、金田一と同じクラス
頭は良いし普段は秀才の女の子
素が超電波



◇◆◇



もうすぐ、インターハイ予選だ。部活の練習でもいつも以上に熱が入る。いつもより遅い時間、オーバーワーク気味の及川を殴り、部室へと向かった。

「まだ練習したりないんだけどなぁ…」
「オーバーワークだっつーの」

着替えている間もぶつぶつと文句を言う及川をどうやって黙らせようか。もう一発殴れば黙るだろうか、俺は拳を握ると及川が「あ、そういえばさ」と口を開いた。


「知ってる?このくらいの時間になるとさ、屋上に女の子が現れるんだって」
「は?」
「専ら幽霊じゃないかって噂。岩ちゃんちょっと見に行かない?」
「ばっかじゃねーの…つーかマジ早く帰んぞ…」

時間を見ると、流石にヤバい時間だった。及川も時計を見て「げっ!かーちゃんに怒られる!」と声を上げた。さっさと帰る準備をし、部室の鍵を掛ける。さて、と…俺と及川は拳をお握り

「…じゃーんけーん!」









「くっそ…」

「俺の勝ちー!岩ちゃん鍵職員室までよろしくー!あ、俺お腹すいちゃったから先にコンビニ行ってるね!」ウィンクして走り去る及川に殺意が芽生えた。いつも変な駆け引きをしては及川が自滅していたが、今日はストレートに負けた…。鍵を手に、俺は職員室へと向かった。あ、そういや課題でてたな…あのプリントどこやった?俺は鞄の中を漁る…が、無い。


「すんません、鍵返しに来ました」
「おー、今日は一段と遅いな」
「すんません、あと教室に忘れ物したんで取り入ってもいいですか?」
「おーいいぞー」
「あざっす」

及川を待たせているが、まぁ良いだろう。どうせ一人で肉まんでも食ってんだろうし。俺も腹減った、なんて思いながら教室へと向かった。なんだか、廊下の電気をつけるのは申し訳ないと思った。別に宿直の先生には言っているし、電気くらいつけても良かっただろう。でも、月明かりが廊下を照らして、電気が必要ないくらいに明るかった。

「なんつーか、夜の学校って不気味ってイメージだけど」

幻想的だよな、この光景。なんて、
俺の独り言は空気に溶けた。あと、何回この廊下を歩けるのだろう。数えれば、とんでもない回数だろうけど、俺たちはもう3年で。そんな数字にはきっと意味なんてないんだろう。…なんで俺はノスタルジックになってんだ。首をぶんぶんと振り、俺はいつの間にかたどり着いていた自分の教室のドアを開けた。

教室も、明るいな。

窓側、前から3番目の席。俺は机の中を漁る。あったあった、俺は目当てのプリントを掴み、バッグに突っ込んだ。よし、帰るか。ふと、俺を照らす月を見上げた。見上げて、停止した。隣の校舎の屋上、月明かりのおかげで視界がクリアで。俺の視界のど真ん中に在る人影。制服姿の、女子。



――知ってる?このくらいの時間になるとさ、屋上に女の子が現れるんだって




及川の言葉を信用したわけではなかった。幽霊なんて非科学的なものが居る、だなんて思っていないし、ありえっこないと断固たるものがあったからだ。

俺は走る、隣の校舎へ続く渡り廊下を駆ける。階段を駆けのぼる、部活並みに息が上がる。駆ける駆ける。俺は、そう、怒鳴ってやらないと気が済まなかったのだ。幽霊なんてものは信じない。男子生徒だったら、俺はこんだけ怒りに震えていないだろう。そう、こんな時間に一人でいるであろう女子生徒が許せなかった。
屋上のドアの前で息を吐く。ドアノブに手を伸ばし握りしめた。ゆっくりと、捻る。鍵は掛かっていないようだ。当然だろう、だってこの先には人がいる筈なのだから。ガチャッと冷たい音が響いた。ドアを押し出す。

月が、綺麗だった。
遮るものは何もない、月明かりがタイルを照らし、その光が微かに反射していた。そして、居た。教室で見た人間がそこに居た。髪の長い女子生徒だ。背を向けている為、顔は見えない。表情なんてわかりっこないが、きっとのんびりとしたやつなのだろう。こんな時間にこんなところで一人でいるのだから。俺は口を開いた。

「おいっ!」

反応は、ない。ガン無視かコイツ。俺は一歩、足を進める。近づいてみると、上を見上げているのに気付いた。空には月と星が在るだけだ。「おい」俺は再び声を掛けるがやはり反応は無かった。手が届く距離まで近づく。俺はそいつの肩を掴んで自分の方へと無理やり向かせた。

「おいお前、こんな時間まで女子一人で何してる!」

さらり、腕に女子生徒の髪が触れた。目が合う、闇。いや、満天の星空を瞳に写し、夜空のような瞳だった。俺の思考が停止する、しかし一瞬だ。俺の意識は一瞬で戻り、その女子の手を掴んだ。ひどく冷たい、こいついつからここに居る?彼女がゆっくりと口を開いた。鈴のような声だった。

「お月様と交信中です」


……
………、俺は思考を停止せざるを得なかった。こいつ、今平然と何を言った?お月様と、なんだって?「は?」と間抜けな声を上げてしまった俺は何も悪くないはずだ。


お月様
アルテミス
と交信中です」

おい、なんかさっきと変わったぞ。俺は女子生徒から手を放してしまった。ゆらり、女子生徒の髪が揺れる。女子生徒が首を傾げた。小さく「アルテミスを…知らない…?」とつぶやいたのが聞こえた。知るかそんなもん。それから「アルテミスというのは」彼女が口を開く。それは、俺が理解しかねる内容だった。月の女神がどうだとか、ギリシア神話がどうだとか…まるで意味が分からん。というかコイツヤバい、そう思ってしまった。俺は一歩後ずさる。先ほどの「こんな時間まで女子一人で何してる!」なんて怒りは月の光に溶かされたようだ。よし



見なかったことにしよう



俺は背中を向ける。すると背中に軽い衝撃。顔だけそちらに向けると、制服の裾を女子生徒に握られていた。おい、待て。

「まだお月様
アルテミス
狩人
オリオン
の話の途中です」
「悪いがさっぱり話についていけない」

ぎゅっと俺の制服を放そうとしない女子生徒をどうしようかと考え、まぁ最初考えていたこととは違うがいいか、と女子生徒の手を再び取った。そうだ、コイツを置いて帰るわけにはいかない。引きずるように俺はその女子生徒の手を引く。「え、ちょ…まだ今日のノルマを達成していません」と何か言っているが全部無視だ。見知らぬ女子生徒を家まで送ってやるという気は更々無い、かといってほっとくわけにもいかない。このまま職員室まで引き摺る。屋上の鍵?知るか。俺は早足で職員室まで向かった。ガッと職員室の扉を開く。思いの外勢いよくあいてしまった扉に、中に居た先生が驚く。

「い、岩泉?どうし…って、安心院?」
「すいません、こいつ屋上に居たんですけど」
「岩泉が回収してきたのか。安心院、今日は天文部の活動は無かったと思うが…」

俺の背中に隠れていた女子生徒…安心院というらしい女子を前へと押しやる。伏せていた顔をあげた。

「先生、すいません。今日は月も星も綺麗だったもので、どうしても天体観測がしたくて…あ、部長には許可を頂いておりました。天体望遠鏡も部長からお借りしていましたし」

…?天体望遠鏡?そんなものは屋上に無かったはずだ。屋上にあったのは、コイツの姿のみで。「そうだったか、でも夜の活動中心の部活動だ、ちゃんと申請は出せよ」と先生は笑った。「ごめんなさい、でも色んな星座が見れて勉強になりました」おいこいつは誰だ。さっきのお月様と交信とか言ってた女子生徒はどこへ消えた。当たりの良い笑顔を浮かべる安心院に俺は顔を引き攣らせた。

「まぁ天体観測もいいが、そろそろ帰らんと両親が心配するだろ?帰った帰った!」
「はい、すいませんでした。今度はちゃんと申請出しますので」
「おう、岩泉も、安心院の回収ありがとうな」
「……い、え…」








職員玄関から外へと出る。相変わらず月は明るかった。隣の安心院を見る。

「どうしましたか、岩泉一先輩」
「…いや…」
「そうですか?」

不思議そうに首を傾げる安心院、俺が首を傾げたい。はぁ、と溜息を吐く。とんとん、とリズムよく安心院が駆け出した。「おい」俺は声を掛ける。


「送る」
「結構です」
「こんな時間に女子高生一人、あぶねぇだろ」
「大丈夫ですよ、ちゃーんと人がだれ一人いない道を通りますから」

お月様が、教えてくださいますし。指を唇に当て、楽しそうに言った。お、おう…俺は今どんな表情をしているのか。取り敢えずあまり関わり合いたくないとは思った。

「さて、岩泉一先輩。及川徹先輩は大丈夫ですか?」
「大丈夫ってなん……あ」

やっべ、及川のこと忘れてた。俺はバッグからスマホを取り出す。予想通りメッセージの嵐だった。そりゃあそうだ、あれから軽く30分経過している。俺は通話ボタンを押す。「それじゃあ私は失礼いたします。さようなら岩泉一先輩」そう背中を向ける…あ?俺は違和感を覚えた。電話が繋がる。「岩ちゃんなにしてんのさ!!もう!!」と及川の声が耳を通り抜けた。

「おい、安心院」
「はい?」
「なんで俺と、及川の名前を知っている?」
「金星の彼に聞きました」
「は」
「それじゃあ、星の導きがありましたら、またお会いいたしましょう」

そう言って安心院は闇の中へと消えた。「おーい、いわちゃーん?」と及川の声が静寂に響いた。


「及川」
『なに、岩ちゃん』
「幽霊より怖いもんに会った」
『…は?』

一番恐ろしいのは人間だ、と誰かが言っていたが全くその通りだと思った。





◇◆◇



「で、昨日は何が合ったのさ」
「俺が聞きたい」

昼休み、俺は及川達と飯を食っていた。「昨日がどうしたのさー?」と花巻が少し興味を見せる。パンを一口齧り、俺は口を開く。

「よっぽど幽霊のがマシだと思った」
「昨日の帰りからコレだよ。岩ちゃんほんとにどうしたのさ。頭打った?頭大丈夫?」
「お前に心配されるんだから多分駄目なんだろうな」
「どういう意味だこら」

俺は昨日の事を思い出す。本当に意味の分からない奴だ。「アル…アルテミスと…んだっけ…?」とぼそりつぶやくと「アルテミス?」と及川が反応を見せた。なんだお前、知ってんのか。俺は視線を向ける。


「アルテミスって月の女神だよね?」
「もう一匹いなかったか?」
「もう一匹ってなに。…アルテミスだったら、オリオンじゃない?」
「あ、それだそれだ」
「なんで岩ちゃんがそんなの知ってんの?」

それはこっちのセリフだ。「だってー女の子が好きそうな話なんだもん!」ウィンクする及川に俺たち全員が引いた。

「アルテミスって、オリオン殺しちゃったんだよね。ついうっかり」
「なんだその恐ろしい話」
「騙されたってのもあるんだけどねー」

と、昨日安心院の口から出る予定だったであろうアルテミスとやらとオリオンとやらの話を及川がつらつらと口にした。ほんとなんでそんなもん知ってるんだ。「結構星とかにまつわる話すると女の子が惹かれるんだよ!?」なんて言う及川に「引かれるのまちがいじゃねーか?」と松川がツッコミを入れた。


「で、なんで突然そんな話?」
「月と交信してた奴にそんな話をされた」
「…大丈夫?」
「それは俺にじゃなくて安心院に言ってくれ…」

俺は顔を覆った。俺は、アイツと会話できる自信がない。はぁー…と思い溜息を吐く俺に「なぁに岩ちゃん、恋煩い?」となんでそこに行きついたのかわからない阿呆なことを及川が言う。「いっそ恋煩いで悩みたかった…」俺は机に額を置いた。

「岩泉かなりキてるね?珍しい」
「その安心院って子に精神力ガッツリ削られたわけだ」
「世に言う、あれだ…電波ってやつだ…俺はもうあいつと会話しない」
「岩泉がそこまで言うとは…なんか気になってきたぞ…」

俺の精神力はすでにボロボロだ。「何故か俺と、及川のフルネームを知ってたんだよな」そうつぶやくと「なにそれ、知り合いなんじゃないの?」と聞かれた。知らん、あんな奴俺は知らない。もし知ってたら、絶対に忘れられない部類の人間だろ。俺は顔をあげる。

「なんか、金星に聞いたって言ってた」
「…よし、岩泉。そのこと忘れようか」
「なんか危ない奴に思えてきた」
「最初からあぶねー奴だって言ったろ」
「及川さんその安心院ちゃん超気になるー」
「じゃあ話でもしてみろ。頭狂ったって俺は何もしないからな」
「どんだけ危険人物なのその子…」

ていうか金星に聞いたってなんだよ…。











「え、安心院?安心院昴だったら俺のクラスですけど」
「金星ってお前か金田一」
「は?金星…?」

部活中、及川が「俺たちの事先輩って呼んでたんなら2年か1年だよねー。ねー金田一!」と丁度目の前に居た金田一に問うと、驚くほどあっけなくその人物を特定できた。


「安心院昴、天文部。俺と同じ1年5組で…すっげー頭いい奴です。人当たりも良くて、誰とでも仲良くできるやつですよ」
「違う奴だ」
「岩ちゃん言い切らないでよ。安心院なんて苗字、滅多にいないよ?」
「誰とでも仲良くなれる性格じゃねーよアレは」

月と交信…月と交信…頭の中でその言葉がぐるぐると回る。呪いかこれは。誰とでも仲良く、できねーよ!しかし金田一が口にする特徴は、昨日の夜俺が屋上で出逢った安心院という人間の特徴と合っていて…。そんなのと仲良くなれるクラス、いかん後輩のクラスを変に考えては失礼だ。…いや、でもあの電波と、仲良し…


「だから…らっきょなのか…」
「岩泉さん!?」
「い、岩ちゃん本当に大丈夫…?」

及川に本気で心配されるとか、屈辱で仕方ない。が、俺の精神不安は治りそうになかった。



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つ、つかれた…!まだまだ続きは頭の中にあるんですけど、いったん切ります。気が向いたら続きを書こうかな…なんて。


天文部
昴以外の部員は部を掛け持ち。全員オカルト研究会。つまり部全員が電波ということです…。

この後昴に会いに行った及川は昴に気に入られます。「アルテミスとオリオンの話が分かる人なんですね及川さん。あの、もしよかったら天文部に入りませんか?」なんて誘われる。それを横で聞いていた岩泉が「やべぇ…及川が電波に毒される…」と必死になる話とか…誰か、書いてくれていいんですよ…?

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