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2016/03/08
09:35

あーあ、今日も居るよ。俺は眠い目を擦りながら其れを無視して道を歩く。今日も飽きずに御苦労さま。それじゃあ――ばいばい。もう一生俺の前に姿を現すなよ。それに手を伸ばす。

「――ん?」
「どうした及川」
「いや、今」

握りつぶした其れを地面に落とし踏みつけた。振り向いた及川さんがきょとんとしている。俺は無表情で言った。

「虫が居たので潰しました」

ぶちっ。潰れる音がした。青い血が地面を染めたが気にはしない。「あ、ありがとう国見ちゃん。国見ちゃん虫とか触りたがらなそうだから吃驚」ああ、そうですか。俺はぐりぐりと地面に靴を押し付ける。


「国見、お前どんだけ虫に恨みあるんだよ」
「すりつぶし状態…」
「俺虫大嫌いなんで」
「よくそれで虫掴んだね!?」

まぁ、一瞬触るくらいなら。それだけ言って俺は及川さんを追い抜いた。朝から憂鬱だ、毎朝憂鬱なんだけど。劈く悲鳴のような泣き声に、俺は頭を痛めた。あー…家帰って塩撒いて布団にもぐりたい。そのまま布団と結婚して布団と死にたい。そんな事を思っていたら「何言ってんだ国見」といつの間にか背後に居た金田一に頭を殴られた。いきなり何すんだお前。


「布団と結婚ってどういう事だよ」
「だめ?じゃあ布団に永久就職でもいいや」
「よくねぇよ。つーか意味同じじゃねーかよ!」
「布団の専業主婦」
「主婦で良いのか…ってツッコミはそっちじゃない…」
「文句ばっかり何なんだよ。じゃあなんなら良いんだよ」
「動け」

はいはい、俺は地面にあった其れを蹴飛ばす。ないしゅーと、やる気の無い声で言う。「ナイシュート…って何蹴ったんだ?」アレだよ、石的な何か。吹っ飛んだ其れを見る。バレーボールくらいの大きさのそれ、金田一には見えていない。視えていなくていいと思う。あんなもん、見たら絶句物だ。
俺が蹴ったのはボールくらいの大きさの頭部、ころころ転がって俺の元に戻って来た其れを、今度は思いっ切り踏みつぶす。悲鳴のようなものは聞こえないふりをする。そんなもんいちいち気にしていたら俺は今の時点で自殺してるし。
ぐしゃり、虫を潰した時より大きな音が響いた。掃除掃除、っと。不可思議な行動をしているように見えるだろう、金田一は「何ふらふらしてるんだ?」なんて聞いてきた。眠いだけだよ。まぁ眠気なんてこいつ等の悲鳴でとっくに覚めちゃったけど。


「朝練行くんだろ、行くぞ」
「お、おう」

さて、また憂鬱な1日が始まると俺は嘆く。嘆いたところで意味は無い、だから俺はなるべく世界に蓋をするのだ。






◇◆◇



昔から視えていた其れは、俺にとってよく無いものだとは理解していた。あちらこちらに、気味の悪いやつらがいる。そんな世界で、俺に安心など無かった。安らげるのは、自分の家と、特定の場所だけだ。
小さい頃の俺の遊び場は、昔から家の近くにある神社だった。神主さんが良く俺におやつをくれていた事を憶えている。お守りをくれた、自然と気持ち悪い奴が近付いてこなかった。「うちの神社の神様が、英君を守ってくれているんだよ」そうやって神主さんはよく俺の頭を撫でてくれた。


「さて、うちの神社のミケだ。仲良くしてやってくれ」

三毛猫のミケ、安易なネーミングセンスだと今の俺だったら苦笑しているだろう。当時の俺は二又に分かれた猫をめいいっぱい抱きしめていた。おれのともだち!人と馴染めない俺の唯一の友達だった。高校生になった今でも、ミケとは良く会っている。金田一には悪いが、一番の友は昔馴染みのミケなのだ。膝に乗せたミケの頭を撫でる。がぶり、手を甘噛みされた。おっと今日もか、俺は臨戦態勢のミケをだっこする。



「さてクニミ、私にか鰹節を献上するのだ!」
「何言ってるのミケ、さっきおやつあげたでしょ?」
「鰹節は別だ」
「別じゃない」

ふぎゃー!クニミのくせに生意気だぞ!膝の上のミケが俺の顔目掛けパンチを繰り出す。首根っこを掴んで少し距離を取る。猫の手じゃ、俺の顔まで届かないよ。威嚇して飛びかかろうとするミケの動きに笑いながら、なんだかんだで友人に甘い俺は今日もカバンから鰹節の小袋を取り出すのだった。



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ここまで書いてコレジャナイって打ち切りました

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