20解き放たれた力
―――――――・・・・
金属と金属が激しくぶつかる音が響く。
辺りで爆音と、鉄の焼けるような匂いに不快感を覚え閉じていた目蓋を薄く開いた。
(……あ、れ……私…どうしたんだっけ……)
ぼぅっとする頭を必死に回転させ、今置かれている状況を整理した。
(…そうだ、触れてないのに"コエ"が聴こえて…)
頭がソレらでいっぱいになって、気持ち悪くなって気を失ったんだ。
先程の"コエ"達は聴こえなくなり、少しだけ気持ちも落ち着いた為ゆっくり体を起こす。
そして周りを見た瞬間、その異様な光景に息を呑んだ。
観客達は皆意識を失っており、その場で動かなくなっていた。
そして会場は土煙が立ち込める中、忍の人達が四方八方に飛び激しくぶつかり合い、混戦状態にあった。
ドサッと音を立てて私の近くで1人の忍が倒れ込む。
その人は血に濡れピクリとも動かなくなった。…そして、生きているのなら見えるはずの"気"も彼からは感じない。
―――瞬間、恐怖で体が震える。
(……怖い…!こわい…こんなの知らない…!)
こんな、映画の中でしか見たことがないような、こんな殺し合いの世界、私は知らない。
恐怖に身が竦み、その場で動けなくなっていると
「……っ名前!!!」
離れた場所から私の名を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げるとカカシさんがこちらに向かって来るのが見えた。
いつも額当てで隠している左目が露わになっている。
『カカシさん……っ!!』
彼が私の元へ辿り着くと、そのまま後頭部を引き寄せられ抱きしめられる。
「大丈夫…大丈夫だから。ゆっくり深呼吸して。それで身を屈めてじっとしてろ。俺が絶対守るから。……できるな?」
その言葉に、温もりに、彼が纏う"気"に涙が溢れる。
それらがちゃんと、彼が"生きている"という事を教えてくれる。
『……はい、わかりました。』
彼に言われた通りゆっくり深呼吸をし言葉を返すと、カカシさんは抱きしめていた腕を解く。
「ん、いい子。…本当は安全な場所に連れてってやりたいけど、今はそんな場所どこにもないからな。」
―「幻術が効いてなかったのか?
何故名前だけ…」―
―――――……あぁ、やっぱり。
触れていなくても、聴こえてしまう。
(なんで…急に……)
その瞬間、カカシさんが目を見開く。
「……名前、今"コエ"が……」
その言葉に、カカシさんが何を言いたいのかすぐに理解できた。
…私の"コエ"も、触れずに伝わってしまうという事に。
その事実に打ちのめされ、呆然としていた時。
「……!!」
それは、一瞬のことだった。
フッと目の前に2人の男性が姿を現す。
…手にクナイという、鋭いナイフのようなものを持って。
その1人をカカシさんが同じようにクナイで応戦しそのまま弾くと、相手の脇腹を思い切り蹴り上げた。
そしてもう1人は、いつの間にか現れたガイさんが拳を振り上げなぎ倒していた。
「名前さん!!お怪我はありませんか!?」
言いながらいつもの明るい笑顔をこちらに向ける彼を見て、安堵の涙が溢れ出す。
『…っガイさん!!ガイさんもご無事だったんですね…っ!』
「俺はそう簡単にはやられませんよ!!そして名前さん!!貴女の事は俺が必ず守ってみ「あーはいはい。そんなこと言ってる暇あるなら手を動かして手を。」
「カカシィィイイイ!!お前はいつもいつも俺の邪魔ばっかりしおって!!!少しは名前さんに格好いいところを見せたいのだ!!邪魔をするな!!」
「かっこいいところね、そうだねじゃあ頑張って見せてあげなよ。ほら、あそこに3人いるよ〜いってらっしゃい。」
棒読みでそう言いながら手をしっしと振るカカシさんに、再度ガイさんは大きな声で抗議をする。
そんな2人を見て、こんな戦いの中なのに少しだけ笑みが溢れてしまった。
…でも、そんな気持ちもすぐに消えて無くなる。
カカシさんとガイさんを見ると、2人とも服や顔が血で汚れていた。
それは相手のものだと思うけれど、これからまだ戦いが続くのであればそれが本人達の血になりうる事だってある。
そう思った瞬間、再度恐怖で体が震える。
(いやだ…これ以上、私から奪わないで…)
もう失いたくないの。
私の大切な人を。
「…っ名前!見るんじゃない伏せてろ!!」
私が未だ顔を上げカカシさんの方を見ていたので、それに気付き再度駆け寄ってくる。
…その後ろに、クナイを持った1人の男性の姿が見えた。
それを見て自身の鼓動が早くなる。
そして…喉が熱くなるのを感じた。
(……やめて。)
私から、彼を奪わないで。
やめて、やめてよ。
カカシさんを傷付けるような、
そんな人…そんな人なんて――――
――『この世から消えて』――
―― 『この世から消えて』 ――
「……ッガハ!!」
それは、ほぼ同時だった。
近づいて来る男性に気付き、カカシさんが振り向き応戦しようとしたのと。
――その男性が、胸を押さえ倒れこんだのは。
"気"は微かに感じ取れるが、男性はそのままピクリとも動かなくなった。
「……は、何が……」
カカシさんは戸惑いの表情を浮かべ、倒れて動かなくなった男性を見る。
(……今のは、なに?)
自身の喉が熱くなり、声が二重に響いた。
そして、私が発した言葉が、"コエ"が
現実となって―――――
『……っかは……!』
途端、喉が先程とは比べ物にならないほど熱く、鋭い痛みを伴って襲ってきた。
「……!?名前!?」
『……っ……!』
(息が……できない……っ)
「名前!!しっかりし…っ!……!!」
意識が薄れていく。
カカシさんの声が遠くなる。
そして目の前が真っ暗になり、私は意識を手放した。