09小さな違和感

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あれから、数日が過ぎた。
波の国から帰ってきたあと休暇があったカカシさんは、今では任務に復帰している。

私たちの間にあったギスギスした空気も徐々になくなり、以前と変わりない関係に戻っていた。でも1つだけ変わった事がある。

それは――――――………


「じゃあ、行ってくるね。」

『はい、いってらっしゃい。』


いつものように任務に出るカカシさんを見送る。
前までならここで頭を撫でられていたが今はそれがない。

…あの日以降、カカシさんは私に触れなくなった。


バタン、と扉の閉まる音。
彼を見送った後のこの静けさが、余計に寂しさを増幅させる。


(……寂しいなんて、思ったらいけない。それを私が望んだ事なんだから。)


触れられない事が寂しいだなんて……
本当、私はなんて自分勝手なんだろう。


『……さ、今日は用事もあるし早く掃除を終わらせなきゃ。』


自己嫌悪に陥りそうになる気持ちを振り払い、
この後の予定を考え準備を始めた。





コンコン、と大きな扉をノックする。
中から「どうぞ。」と言う言葉が聞こえたのを確認し、ゆっくり扉を開いた。


『……火影様、お時間頂いてしまってすみません。』


そこには、椅子に腰掛けこちらに笑顔を向けている三代目火影様の姿。


「いやいや、こうして名前さんとまた話せて嬉しいぞ。…して、話というのは何かな?」

『はい、あの…以前話して頂いた住み込みで働くという件…有難いお話なんですがお断りさせて頂こうと思いまして…折角火影様が提案して下さったのに…ごめんなさい。』

「おぉ、それは残念じゃな…。しかし、そうか……カカシの元でそのまま生活すると、そういう事じゃな?」

『……はい。カカシさんが居てもいいと言ってくれてる間は……私はあの場所に居たいんです。』

「そうか……うむ、実はワシもその方がいいと思っておった。名前さん、カカシを宜しく頼む。」


そう言って頭を下げる火影様を慌てて止めた。


『や、やめてください…っ!そんな頭を下げるなんて!それに、私がお世話になってる身なんですから……!』

「住む場所を提供する、という意味ではそうかもしれん。しかし、前にも言ったようにカカシは名前さんを必要としておる。それは確かじゃ。…そうじゃ、住む場所は良いとして、働く場所はどうする?」


火影様が言ったことは、私も今悩んでいる事だった。
ここに私の戸籍がない以上、私は普通に働く事ができない。


『実は、その事もご相談したくて今日ここに来たんです。私はこの里…この世界の者ではないですから、どこか働けそうな場所はないかと思いまして。』

カカシさんにお世話になるとはいえ、家賃も払わず置いてもらうほど図々しくはない。だからきちんと働いて多少の自立はしたかった。


「そうか、…それなら、元々住み込みで働く予定だった場所で働くのはどうじゃ?」

『……え?いいんですか?』

「いいも何も、先方も名前さんが働いてくれるのを楽しみにしておったしの。それに名前さんにとってもいい環境だと思うが…」


一度断った話がまた戻ってきて困惑するも、確かに願ってもない話だ。何故なら私が頂いていたお話は歌を歌うお仕事だったから。
知り合いの方が経営しているというレストラン…そこにはステージがあり、ピアノが置いてあるのだという。
そこでウェイターの仕事もしつつ、決まった時間になったら演奏者としてステージに立つ。


『あの、本当に私なんかでよろしければ……そのお話お受けしたいです。』


歌を歌えるのなら、こんなに幸せな事はない。
私には…歌しかないのだから。


「それはよかった、先方も喜ぶ。また詳細が決まり次第連絡をするから、それまで待っていてくれるかの。」

『はい、よろしくお願いします。』


そう言って、再度火影様に頭を下げた。



──────・・・・



『………今日は、遅いな。』


火影様との話を終え、家路に着く。その後夕飯の支度も終えカカシさんの帰りを待っていたが、今日はどうやら遅い日らしい。


(……大丈夫かな……)


こうやって待つ時間は好きじゃない。
こないだみたいに何かあったんじゃないかと不安になるから。


『……先お風呂入ってこよう。』


何かしてないと気持ちが沈むばかりだからと、お風呂場へ足を進めた。





『ふぅ…』

湯船に浸かりながら、これからの事を考える。
ここに居れる間はここに居たい…その気持ちが本心であり、カカシさんも望んでくれていること。

…でもこの気持ちだけは知られちゃいけない。

カカシさんに惹かれている自分がいることだけは…絶対に。きっと伝わってしまったら、もう後戻りできない。

そうなると…心の中にいる蓮が消えてしまう。

彼との"約束"が、消えてしまう。
それだけは絶対にだめだ。

『………ちょっと浸かりすぎたかも。』

そんな事をぐるぐる考えていたら、少しのぼせてしまったみたいだ。

ぼーっとする頭を必死に動かしお風呂場から出て脱衣所に掛けてあるタオルを取る為手を伸ばした時。


視界がぐらりと揺れた―――――


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