01君のいない世界で

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歌を唄うの。

貴方を忘れたこの世界で

貴方との"約束"を胸に秘めて。

それが私の生きる理由―――………









いつも通りバイトをして、いつも通り路上で歌を歌い家路に着く。駅にたどり着き改札を通ると、ホームには金曜日の夜ということもあり遅い時間にも関わらず飲み会帰りだろうサラリーマンや学生が目立っていた。

(人、いつもより多い…今日タクシーで帰ればよかった...)

生まれつき喜怒哀楽などの感情が"気"として目に見え、また人に触れるとその人の"心のコエ"が聴こえたり自分の"心のコエ"を相手に伝える事ができた。

そのせいで小さい頃酷い虐めも受けてきたが、今では"コエ"を聴かないように力をコントロールできるようになり、最低限人との関わりも持てるようになった。

まぁ、人混みの中だと色んな人の"気"が混ざって気分が悪くなってしまうのだけど……。


"気"の多さに深いため息をつき、ポケットからパスケースを取り出した。その中には1枚の写真が入っており、自分と愛しい人が笑顔でこちらを見つめている。


『....蓮、...』


私、約束守れてるかな―――



と、その時。何の前触れもなく背中に衝撃が走った。

『きゃぁっ!!』

誰かに押されたと理解するも、なす術なく重力に従い線路に落ちる。落ちた衝撃で痛みが走り思わず顔を歪めていると、ホームにアナウンスが流れた。


――通過列車です、ご注意ください


そのアナウンスに顔を上げると、もうすぐそこに電車が迫っていて。…それは自分の死が迫っているということ。
でも不思議と恐怖心はなく、あるのはただ安堵の気持ち。


(…ああ、ここで死ぬんだ。そしたらやっと───)


電車の大きな音が鳴り、白い光が視界を覆う。身体が眩い光に包まれたと同時に意識を手放した。



     





さわさわと、木の葉が掠れる音が聞こえる。頬に触れる温かい風が心地いい。

ふと、誰かの声が聴こえた。


「……い、……ぶ……」


もう少しこの心地よさを味わっていたかったけど、徐々に頭が冴えてきて今の状況に違和感を覚える。

確かホームから落ちて、電車がもうすぐ側まで来ていたところまでは憶えている。そのあとは───


『………ん』

「あ、起きた?」


目覚めて、最初に目に入ったのは夜空に輝く満点の星空。そしてその夜空を背景に、しゃがんでこちらを覗き込む銀髪の男性の姿。
顔の殆どを黒い布で覆い、唯一露になっている目は一見穏やかに見えるが、彼の纏っているソレはとても温厚とは言い難いものだった。

(何この人…"気"が重い…悪意を向けられてる?)


「きみ、何者?どこから来たの?」

『え…と、ここはどこですか…?私、電車に轢かれそうになったところまでは覚えているんですが…もしかして、天国?』

「電車って…何、それ?とりあえず、ここは木の葉の里だよ。天国じゃない」


電車を知らないなんて…それに木の葉の里?そんなところ、日本にあっただろうかと疑問を抱く。


『あの、ここは日本ですよね?私家に帰りたいんですけど…』


そう言って自分の家の住所を伝えたが、男性は更に訳が分からないとでも言うかのように首を傾げた。


「そんな地名、聞いたことがないな。うーん…ちょっと俺では手に負えなそうだし、一緒に火影様のところに来てもらえる?」

『火影様って…?』


男性は唯一でている右目を見開くと


「この里の長だよ。まぁ、1番偉い人かな。とりあえずここで話してても埒があかないし、行こうか。立てる?」


そう言って右手を差し伸べてきた。未だ自分の置かれてる状況が把握できていないが、ここはこの男性について行くしかなさそうだ。

ありがとうございます、とお礼を述べその手を取り立ち上がると同時に、ふと1つの思いが心をよぎった。



――― 『ああ、私死ねなかったんだ』―――



「ん?何か言った?」


手を握ったまま男性に問われ、ドキッとした。急いでその手を離し『いえ、何も』と誤魔化す。

(危ない、気が動転してて閉ざすのを忘れてた…気をつけないと…)


「…ま、いいや。ところで名前は?」

『苗字名前って言います』

「名前ちゃんね。俺ははたけカカシ。あと、その後ろにある物は名前ちゃんの?」


後ろと言われ振り返ると、そこには自分が先ほどまで持っていたギターとバックが落ちていた。

『あ…っ!私のです!』

急いで駆け寄り、ギターとバックを手に取る。ホームから落ちた時どこかぶつけてないか心配になったが、幸いどこも壊れてなさそうでほっと息をついた。


「それ、何?けっこう大きいね」

『これはギターです。少し音楽をやってまして…』


ふーんと、あまり興味がないように言うカカシさん。そして次にはひょい、とギターとバックを取り上げられてしまった。


『っえ!あの…!』

「とりあえず、火影様のところに行くまでコレ俺が持っとくね」


有無を言わさないその言葉に内心戸惑ったが、今はこの人に従っている方がいいと思い『お願いします』と頭を下げた。


   

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