04すれ違い
翌朝、いつも通りカカシさんと一緒に朝食をとっていた。
昨日あの後どんな顔をしてカカシさんと接すればいいかわからなかったが、お風呂から上がってリビングに行くとそこにはソファでいつもの(如何わしい)本を読んで寛いでいる彼がいて。
その姿を見て拍子抜けしてしまった。
(………私ばっかり気にしてるみたい)
朝食を黙々と食べるカカシさんをちら、と盗み見る。既に部屋着から忍服に着替え終えている為、いつも通り口布をしながら食事をしている。
カカシさんの纏うソレもいつもと変わりない事に少しだけショックを受けていると。
「……なぁに、昨日からそんな見てきて」
見ている事がバレていたのか、カカシさんは視線を私に合わせてきた。
『…!いえ、あの、何でもな「ああ、もしかして…」
私の言葉を遮るように言うと、徐に人差し指を口布に掛ける。
「昨日、見足りなかった?」
瞬間、またしても顔に熱が集まる。
『っも!もう充分です!ありがとうございましたっ!あのっ、今後もソレつけたままで結構ですのでっ!』
「え〜?でも一度見せたし家にいる時くらい外してもいいよね?」
『だっだめです!つけててくださいっ!』
必死でお願いする私を見てカカシさんはクク、と笑う。
「…ま、そこまで言うなら隠しとくか。それに…」
ニコリと笑顔を向けながら話を続ける。
「たまに不意打ちで晒して名前の反応見るのも面白そうだしね?」
『……っまたそうやって人をからかって!』
結局朝から散々からかわれた私は、昨日の事は考えるだけ無駄だと思う事にした。
「あ、そういえば名前。今日から1人でも外出していい事になったけど、あんまり遠くに行ったらダメだからね?」
玄関で靴を履きながらカカシさんはこちらに顔を向ける。
『はい、基本的には買い物と、少し辺りを散歩するくらいにしようと思ってるので大丈夫です』
「あぁ、初日だしそうしてくれ…あ、あと変な人についてっちゃ『もう!子どもじゃないんですから!』
また子供扱いして、と1人怒っていると頭にぽん、と手を置いて「名前が綺麗だから心配してるんだよ」なんて言うものだから、心臓が破裂するかと思った。
『…っわかりましたから!ほら!早く行ってください!』
頭に置かれた手を払い退けてカカシさんの背中を押す。
「はいはい、いってき…あぁ、それともう1つ言うことが…って、まぁ今日のあいつら次第だからこの話は帰ってからだな」
『…?』
何かを言いかけ、1人で納得したカカシさん。私がそれを不思議そうに見ていると、右目を弓形にし微笑んで「じゃあ、行ってきます」と再度私の頭を撫でた。
『はい、いってらっしゃい』
それに応えるように私も微笑み返す。言いかけた話が気になるけれど、きっとそれは夜に教えてくれるはずだ。
『さっ、まずは掃除をしよう』
私は私のすべき事をしなくちゃ。
そう思い部屋の掃除に取りかかった。
お昼過ぎ、一通りの家事を終えふぅ、と息をつく。
あとは夕飯の買い物をしに行かなければならない。
(でも、その前に……)
ちら、と昨日戻ってきたギターを見る。
ここに来てから、もうずっと歌っていない。あんなに毎日歌っていたのに、2週間も歌わずによく我慢できていたなぁと思う。
「…っよし!」
そう言って立ち上がり、ギターを手にする。
そのまま玄関の方へ行き靴を履くと、ある場所へ向かう為外へと歩き出した。
木ノ葉茶通りを歩きながら、通りから一つ外れた道を進む。すると少ししたら小さな公園が見えてきた。
以前カカシさんと散歩をしていた時偶然見つけた公園だ。あまり目立たない場所にあるためか、ここで子どもが遊んでいるところを見たことがなかった。
『やっぱり、ここ穴場だ…っ!』
大通りから外れている為、周りにはお店も住宅もない。ここならギターを思いっきり鳴らせられるとずっと思っていたのだ。
ベンチにケースを置き、中からギターを取り出す。座りながら少しだけ音の調整をし、久しぶりの感覚に嬉しさが込み上げる。
(あぁ、やっぱりいいなぁ…わくわくする)
準備を終え、ベンチから立ち上がり公園の中央へ移動する。
(蓮、ずっと歌ってなくてごめんね。今届けるから)
すぅ、と息を吸い、同時に思い切りギターをかき鳴らした。
空気を、風を、太陽を、この体全部で感じて。
言葉から声に、声を唄に変えて、想いを乗せる。
貴方に届くように。
貴方に届きますように。
どうか、どうか―――……
―――名前、歌って―――
ギターの音が止む。辺りに静けさが帰ってくる。
久しぶりに思い切り歌った所為か肩で息をするくらい疲れてしまったが、それでも久しぶりに歌えてとても気持ちが良かった。
(……蓮、聴こえた?)
息を整え、空を見上げながら彼に語りかけていた、その時。
「なんと……なんと美しい歌声なんだ……」
『っ!?』
背後から突然声がし、驚いて振り向いた。
誰もいないと思って歌っていたのに、そこには1人の男性が立っていて。
カカシさんと同じ額当てにベスト…そして全身を緑で覆い髪はオカッパのように短く切られていた。
その男性がズンズン近づいてくる。そして目の前まで来たと思ったらガシッと両手を握られ―――
「お嬢さん…貴女の歌声に心を打たれました!!私はマイト・ガイ!!ぜひ!!!私と!!!お付き合いして頂きたい!!!」
………………ぇぇええっ!?
驚きすぎて手を握られているのも忘れそのまま固まる。そんな私を見て、男性…ガイさんはハッとした表情を見せ
「む…いや、初対面でいきなりお付き合いを申し込むのは失礼に値するか…お嬢さん!!まずお友達からお願いしたい!!!」
そう勝手に納得し、またもやズイっと顔を近づけてこちらを見てきた。
ど、どどどどうしよう……っ!!
とりあえず、ここから逃げないと……っ!!
『あっ……あの……っ!』
「はい!!!何でしょう!?」
『も、もし次お会いすることがあれば、その時はお友達からで……っ!すみません!!』
そう言い終わらない内に握られていた手を振り解き、ギターをケースにしまい逃げるようにその場を後にした。
「なんて………可愛らしい人なんだ……」
ガイさんがぽつりと呟いた言葉は、私には届かなかった。