何度も、何度でもー番外編ー

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どうしたら貴方に伝わるのだろう。





どうしたらお前に伝わるのだろう。






"感情"というのは難儀なもので、





"心"というのは複雑なものだ。





想いを言葉かたちにしたところで、





それが正確に伝わるとは限らない。





それでも、私は―――………
それでも、俺は―――………














『…っなんでそんな嘘つくんですか!?』

「だーから、嘘じゃないって何回言ったらわかるのお前は。」


涙を浮かべながら声を荒げる名前。
それを困惑した表情で見つめ、何度も同じ言葉をかける。


「俺、今日任務だったって言ってるよな?なんでそれが嘘だと思うのよ。」


そう…名前は俺が今日任務に行っていないと思っているらしい。しかし何故そんな事を思うのかと聞いても、口を噤んで一向に話そうとしない。

そうして嘘だ、嘘じゃないと押し問答を繰り返し、いい加減困り果てていたところで漸く名前が理由を説明した。


『…っ、だって今日見たんですもん…っカカシさんが里にいたところ!!』


………………は?



「……いやいや、俺朝一で里外に任務だったからそんな訳『でもあれはカカシさんでした!見間違える訳ないじゃないですか!!』


カチン。


「…あーそう、わかったよ。そんなに俺が信用できないなら出てけば?」


名前があまりに分かってくれなくて、つい口から出てしまった言葉…それは彼女に対して1番言ってはいけない一言だった。

ハッと我に返り、すぐに先程の言葉を取り消そうと名前に視線を向けると、傷付いた表情で両の目からぽろぽろと涙を流していた。


「…っ名前、今のは『わかりました、出ていきます。』


そう呟くと彼女は玄関の方へ歩き出し、そのまま扉を開け出て行ってしまった。
咄嗟に彼女を追いかけようとしたが、頭を冷やしてからでないと先程のように心にもない事を言ってしまうと思い、ドサリとソファに腰を下ろし深いため息をつく。


(なんだってこんな事に…まず俺が里に居たって話がおかしいだろ。)


今日は家を出てすぐに里外へ任務に行き、戻ってきたのは夕方だ。そこから報告書や諸々の事を済ませてそのまままっすぐ家に帰ってきた。

だから名前が俺を目撃する事なんて無いはずなのに。


(それにあの取り乱し方は、ただ俺を見たって感じじゃなさそうだった…)


まだきっと名前は俺に言ってない事があるはずだ。それを聞いてきちんと話し合わなければ。

漸く頭も冷えてきたところで、名前が外に出てどこに向かったかを考える。


(もう夜だし最近寒くなってきたから、公園は流石に行かないよな。紅の家は…アスマと住み始めたからそこも気を遣うだろうし……)


となると……"アイツ"の家か。


名前が行きそうなところに目星をつけ、彼女を迎えに行く為ある場所へと向かった。









"はたけカカシ 出入禁止"

「……………。」

玄関の扉に貼られた紙を無言で見つめる。


(…なんて恥ずかしい事をするんだコイツは。)


自身の名前がこんな風に晒されるのはとても不快だ。一刻も早くこの紙を剥がす事と、家の中にいるであろう彼女を連れて帰る為に玄関のチャイムを鳴らす。

するとチェーン付きの扉が少しだけ開き、この家の主…アンコが俺を睨みつける。


「…アンタ、そこの貼紙見えないの?」

「ああ見たよ。何コレなんて醜態さらすのよ。お前恥ずかしく無いわけ?」

「恥ずかしさより怒りの方が勝ってんのよこっちは。言っとくけど名前は渡さないわよ。」

「ちゃんと名前に謝りたいから来たんだよ。もう頭も冷えたし話し合いたいんだ。だから名前を「うっさいわね、まだあの子が無理なのよ!ずっと泣いて喧嘩の理由も教えちゃくれないし…だから今日はこのまま泊まらせるから、アンタは大人しく帰って!」


尚も俺を睨みつけながら声を荒げるアンコ。その言葉を聞き部屋の奥にいるであろう彼女の事を想う。


(…ま、名前が話せる状態じゃないなら…今俺が連れて帰るよりアンコに任せた方が得策か。)


深くため息をつき「じゃあ、今日のところは頼む」とアンコに声をかけ、そのまま家路へついた。





──────・・・・





暗い闇の中にぼんやりと浮かぶ2人の影。
1人がこちらに振り向き、小さく呟いた。


「…ねぇ、なんでカカシは生きてるの?
なんで私達は死んでしまったの?」


リンのその言葉が、俺の耳に木霊する。
そして隣にいるもう1人もゆっくりこちらに振り向き、俺に問いかける。


「俺が死んだのはなんでだった?
リンが死んだのはなんでだった?
……全部お前のせいだろ。」


オビトが冷たい視線をこちらに向け、再度口を開いた。


「…何も守れないお前が、側にいる事を許されるなんて思うなよ。」


そう言ってスッと俺の後ろを指差す。
振り返ると、そこには愛しい人の姿。


"名前"


彼女の名前を呼びたいのに、声が出ない。
彼女の側に駆け寄りたいのに、足が動かない。

何も出来ずに佇んでいると、名前の側に1人の人物が姿を現す。
ソイツは微笑みながら名前の肩を抱き、こちらに目を向け呟いた。


「…何も守れないアンタには任せられないね。ただ傷付けるだけなら返してもらうよ。」


そう言って俺から離れるように2人は歩き出す。



やめろ、連れていくな。


俺から奪わないでくれ。



「………っ名前!!」


やっと出せた声が響き、歩くのをやめた彼女がゆっくり振り返った。
そしていつものように微笑んで、残酷な言葉を口にする。



『私を守ってくれたのは蓮なんです…貴方じゃない。だから彼のところへ還ります。』



ダメだ、いくな、いかないでく――――――



        


バッと手を伸ばした先には、見慣れた天井。

闇に包まれた静寂の中、部屋の中には自身の荒い呼吸音だけが響く。
咄嗟にその存在を確かめるように、横で寝ているはずの名前に手を伸ばした。

しかしそこに彼女の姿はなく、布団の冷たい感触が俺の手をかすめた。


(…そうだ、今アンコの家にいるんだった。)


上半身を起こし呼吸を整え、額の汗を簡単に拭いながら先程見た夢の事を思い出した。


(……久しぶりに見たな……)


リンとオビトの夢は昔から見ていたが……
名前が攫われたあの日から、彼女と"アイツ"も夢に出てくるようになった。

未だ早鐘のように鳴る鼓動を落ち着かせようと、寝室から出てリビングへ向かう。そしてソファへドサリと腰を下ろし、頭を抱え深く深呼吸をした。


(……"何も守れない俺"…か。確かにそうだ。)


オビトも、リンも守れなかった。


サスケだって止める事ができなかった。


そして名前を守ったのは蓮だ…俺じゃない。


ソファから立ち上がり、ベランダ近くにある机の引き出しを開ける。
…そこには名前と蓮が写った1枚の写真。



(……もし、名前が蓮を思い出したら……)



アイツは、どういう選択をするのだろう。
それでも俺の側にいてくれるのだろうか。


………いや、そもそも俺は名前の側にいてもいいのだろうか?


蓮は最期、俺に任せると言った。
俺も彼女を守ると、あの時誓った。


しかし何も守れないでいる俺に、


彼女を傷つけた俺に、


名前の側にいる資格が――――………


暗い思考の沼にハマるともがけばもがく程沈んでいく、落ちていく。

昔のように、心が深い闇に覆われる。

その考えを振り払うように乱暴に引き出しを閉め、再度眠りにつく為寝室へと足を進めた。


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