33届かぬ言葉、届いた想い
***
「"蓮の邪魔をする者を殺しなさい"」
大蛇丸様の声が、頭に響く。
そして心の中にある想いが強くなる。
"大蛇丸様を裏切るな"
それ以外の事は考えられない。
考える必要がない。
私はただ、命令に従うだけ――――
ゆっくり顔を上げ、言われた事を遂行する為その人物を確認する。そしてその人と目が合った瞬間。
心の奥の…奥の方で何かが溢れ出しそうになった。
『……………?』
何故だろう…彼が誰なのかわからないのに。
それなのに、強く思わずにはいられない。
"よかった、生きていてくれた"
その気持ちが溢れ胸が熱くなり、気付いたら頬に温かいものが流れ落ちていた。
私を見る彼の目が見開き、同時に私に訴えかけるように叫ぶ。
「……っ名前!!思い出すんだ!!
俺を……っ自分を思い出せ!!」
その言葉に頭がズキリと痛み顔を顰める。
わたしはだれ?
彼は……だれなの?
この涙は一体、なんの涙?
わからない、わからないけど。
心が苦しいって、叫んでる。
(わたし、前にもこの気持ちをどこかで――)
「何をしている!早く言った通りになさい!」
突然聞こえてきた言葉にビクッと反応し、再度心に強い想いが戻ってくるのを感じた。
"大蛇丸様を裏切るな"
でもそれと同時に、ある想いも生まれる。
"この人を傷付けたくない"
その2つの想いが心を支配していく。
それでも少しずつ、少しずつ……
片方の想いがどんどん強くなっていく。
「……っ聞いているの!?早く『イヤ……』
『…わたし、この人を傷付けたくない…』
私の言葉を聞いた瞬間、大蛇丸様の顔が歪み怒りの表情に変わる。
「なぜ…っ、なぜ逆らえる!?カブト、お前薬の量が足りなかったんじゃないの!?」
「まさか!!あれ以上多くすると彼女の精神が崩れます!!」
尚も怒りに顔を歪め私を睨み付ける彼が、ゆっくり息を吐き再度口を開いた。
「ああ、そう…じゃあこうしましょうか…
その男を殺せないのなら"自害しなさい"。」
『………っ!』
その言葉を聞き、鼓動の音が早まる。
私が何もできずその場で静止していると大蛇丸様に向かって誰かが叫んだ。
「……っ、大蛇丸様、何故そんな命令を!?名前は俺の復讐には必要不可欠です!それはアナタも分かっておいででしょう!?」
「従わない子なんて居ても無意味よ。お前の復讐ならお前自身で事足りるでしょう。ワタシはお荷物を抱える程優しい人間じゃないのよ。」
その会話を聞きながら、頭の中で先程言われた事を考えた。
(あの人は殺したくない……)
でも大蛇丸様にも逆らっちゃいけない。
……なら私が想う気持ちは、一つしかない。
「……っ名前!!ダメだっ!!」
私が今から言う言葉を察したのか、焦った表情をし私に駆け寄ってくる彼を見て再度胸の奥が熱くなる。
――――――あぁ、もう充分だ。
私は今のこの気持ちだけで、もう充分。
彼が誰かもわからないけれど…心があたたまるこの想いはきっと"私自身の想い"なのだろう。
名も知らない銀髪の彼に少しだけ笑みを向けると、彼の目が恐怖の色を帯びた。
そして想いを強く願うと同時に、喉が熱くなるのを感じる。
彼を殺すくらいなら、私が―――――
「名前!!やめ……っ!!」
――『私が死ねばいい』――
―― 『私が死ねばいい』――