29蘇る記憶、隠された真実
***
………例えば、大切な人を失ったとして
もう逢えないと、触れる事は叶わないと
絶望の淵に立たされたとしよう。
でも、もしその人が再度自分の前に現れたら?
二度と逢えないと思っていた人と
もう1度逢えたら、人はどうする―――……?
「―――――………名前」
背後から名を呼ばれた。
その声には、聞き覚えがあった。
記憶が曖昧になっていたけれど…それでも聞き間違える事はない。
私の…大切な――――――
その声がした方へゆっくり振り返る。
自身の鼓動が早まり、呼吸が浅くなる。
そしてその姿を捉えた瞬間、息を呑み目を見開いた。
そこにいたのは――――――
『………レ、ン…………?』
こちらに笑顔を向ける、蓮の姿があった。
なんで……どうしてここに?
だって…蓮はあの日の火事で――――
思考が追いつかない中、蓮がゆっくりとこちらに歩み寄る。
と、その時フッと目の前に現れた人によって視界を遮られた。その人は私を庇うようにして蓮を見据える。
『…っテンゾウさ「名前さん、下がって。」
彼は蓮から視線を逸らす事なく、背中に背負っていた刀に手をかけた。―――瞬間、血の気が引いた。
『テンゾウさん!やめ…っ、違うんです!あの人は私の知り合いで……っ』
「…知り合い?何故名前さんの知り合いがここに「あーアンタちょっと邪魔、消えて。」
蓮が言葉を発したと同時に、テンゾウさんがその場から忽然と姿を消した。
咄嗟に蓮を見ると彼の目が蒼く光ったように見えて…しかしそれも一瞬の事で、すぐにいつも通りの漆黒の目に戻る。
(……なに、今の……気のせい……?)
尚も思考が追いつかず戸惑っている私に、蓮が笑顔で近づいてくる。
そして私の前に来ると立ち止まり、両腕を広げて。
「名前、やっと会えた…会いたかった。」
ふわりと、優しく抱きしめられた。
――――瞬間、一気に記憶が蘇る。
蓮のぬくもり、匂い、声
全てが私の知る彼だと認識できるもので。
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなり視界がぼやけていく。
『あ……、蓮……なんで……』
震える声でそう問うと、蓮が身体を離し私の顔を見つめる。
いつもの子供のようにあどけない…あの笑顔で。
「あ〜あ、そんな泣いちゃって。名前は相変わらず泣き虫だなぁ。」
言いながら、私の頬に流れる涙を拭ってくれる蓮。
『…っ、なんで…!だってあの時…っ「名前と同じだよ。」
「あの時、もうダメだと思った瞬間こっちの世界に飛ばされたんだ。ある人のおかげでね。だからこうして今生きてる。」
『……ある人?』
「そう、俺の命の恩人。…そして名前もこちらの世界に飛ばしてもらった。だから名前…俺と一緒に来――「名前!!!」
蓮の言葉を聞いていた時、私の名を叫ぶ声がその場に響いた。
驚いて咄嗟に振り向くと、そこにはいつも隠している左目を露わにしたカカシさんの姿。
『カカシさ「名前!そいつから離れろ!!」
声を荒げ叫ぶカカシさんを前に、疑問ばかりが浮かぶ。今目の前で起こっていることや彼の言葉が、うまく理解できない。
『な、なんで…?カカシさん……っ蓮も…蓮もこの世界に飛ばされたって……!だからあの時亡骸が見つからなくって……っ蓮が助かってたんで「違う!!!」
「そいつは元々こちらの世界の人間だ!!
名前、お前をこの世界に連れてきたのは…っ
空閑一族の蓮、そいつなんだよ!!」
…………何を、言っているの?
カカシさんは一体……何を………、
『な、何言ってるんですか……?蓮は私と同じあっちの世界の人間で「じゃあ蓮の姓は知ってるのか!?生まれた場所は!?家族構成なんでもいい、蓮の名前以外にお前が知ってる事はなんだ!?」
カカシさんは尚も口調を強め、声を荒げる。
(……何言って……そんなの知ってるに―――)
彼に言われた事を答えようとしたが、言葉が詰まってしまった。
――――――知らない、わたし。
蓮の姓は?生まれた場所は?
それだけじゃない……
いつも会う時は私の家か、外でだった。
蓮がどこに住んでるのかすら私は知らない。
知らなくても、気にも留めなかった。
彼が側にいてくれたらいいと、そう思って。
蓮と過ごした1年…私は疑問を抱く事なく――
「……名前、ちょっとごめんな。」
不意に蓮に話しかけられ、彼を見上げようとした。
――――――そこで、私の意識は途絶えた。