02隠しごと
***
次の日の朝、お味噌汁とごはんの甘い香りで目が覚めた。
一瞬見慣れない天井に困惑したが、すぐに昨日あった出来事を思い出す。
(…あ、そうだ。私、別の世界にきたんだ…)
昨日の夜、起きたら全部夢だった、なんて淡い期待を抱いて眠ったけどやっぱり現実なんだ…。
布団から上半身を起こして暫くぼーっとしていると、ふいに部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「名前ちゃん、起きた?」
『あ…っ、はい、今起きました!』
「もう朝ごはんできるから、着替えて顔洗っておいで。あ、昨日の服洗濯してそこに置いといたから」
敷いてある布団の横を見ると、昨日着ていた服が綺麗に畳まれて置いてあった。
いつの間に洗濯してくれたんだろうと驚きつつ、お礼を言って着替え部屋から出ると、カカシさんが朝ご飯をテーブルに並べているところだった。
『おはようございます!すみません、居候の身なのにお手伝いもせず…』
「おはよ。そんなの気にしなくっていーの。それより、昨日は眠れた?」
『はい!おかげ様でぐっすり眠れました』
「そ、よかった。じゃあ冷めないうちに食べちゃおう」
いただきますと、2人で手を合わせて食べ始める。
久しぶりに人が作った手料理を食べて、心がほっと温まる。
『おいしいです。カカシさん、料理お上手なんですね』
「一人暮らしが長いからねぇ…慣れだよ。まぁ、凝ったものは作れないけど」
そう言ってカカシさんは苦笑した。
『夜は私が作りますね。…あ、というよりお世話になってる間は私に作らせてください』
「そう?じゃあお願いしようかな。名前ちゃんも一人暮らしだったの?」
『はい、16歳の頃から。なので一応家事全般は得意です!』
「親は?そんな早くから一人暮らししてて心配とかされなかった?」
その言葉に、食事をしていた手がピタリと止まる。
『親、は…父とは不仲で…。母は自───』
頭の中で母に投げかけられた言葉が過る。
―――「触らないで、気持ち悪い」―――
―――「こっちにこないで」―――
―――「あんたなんか産まなきゃよかった」―――
『……事故で、亡くなりました』
きっと酷い顔をしているから、カカシさんに見られたくない。そう思い俯いたまま答えると、カカシさんは何かを察してくれてそれ以降何も聞いてこなかった。
「そうだ、名前ちゃん」
それから食事を終え、出掛ける準備をしているとカカシさんに呼び止められた。
『なんでしょう?』
「いや、念のため昨日言われた事おさらいしておこうと思ってね?」
「君が異世界から来たという事は他言無用だよ。俺と火影様しか知らないから、他の人には俺の遠い親戚って事で通してね。あと、基本的に何処に行くのも俺が一緒にいる。それに1人での外出は認めない。俺が任務に行く時は他のものが監視につく。…とまぁ、少し窮屈な生活になるけど暫く何もない事がわかったら監視も緩くなるはずだから、それまで申し訳ないけど耐えてね」
『はい、大丈夫です。むしろ牢屋ではなくここで過ごせるだけで有り難いですし』
そういって微笑むと、カカシさんは眉を下げて困った表情をして「そんな素直だと調子狂うなぁ…」とボヤいた。
そうして買い物へと出かけ、道中気になっていた事を彼に問いかける。
『カカシさんって、お仕事は何をされているんですか?』
「あれ?言ってなかったっけ?俺は忍だよ」
『忍?!忍って…忍者のことですよね?』
「うん、そうだけど?」
ちなみに、向こうにいるのもそうだよ。と教えてくれた方を見ると、確かにカカシさんと同じような服装、額当てをしている。その他に忍の階級や任務の種類(あまり詳しくは教えてもらえなかったが)生死に関わるものもあると教えられ、ますますここは自分がいた世界とはかけ離れている事を思い知らされる。
(忍者なんて、実在するんだ…)
『私の世界には忍はいないので、やはり別の世界に来たというのは正しいかもしれませんね…』
「名前ちゃんの世界には忍はいないの?じゃあ誰が国を守るわけ?」
今度はカカシさんが驚いた表情で私に問い掛けた。
『自衛隊とか、警察とかですかね?でも、そもそも争いや戦争は起きないので国を守るっていう概念があまりないかも知れません』
「平和な世界なんだねぇ…。それに昨日持ってた板みたいなやつ?あれも相当な技術だよね」
『携帯ですか?そうですね…世界中の人と繋がれるものですから。他にも飛行機…空を飛んで世界中どこでも行ける交通手段もあります。とにかく、ここよりも色々技術が発展した世界だと思いますよ』
「なるほどね…ちょっと名前ちゃんの世界に行ってみたいかも。」
『あはは、カカシさんがあっちの世界に来たらどんな反応するか、少し見てみたいです』
そんなお互いの世界の事を話していると、活気ある繁華街にたどり着いた。
「大体ここで揃うと思うから、欲しいものがあったら言ってね。三代目からお金も頂いてるし、気にしなくていいから」
カカシさんは私が遠慮していると思ったのだろう、
そう言ってくれたが私は別の事に気を取られていた。
『すごい、人ですね…』
人混みは"気"で溢れているから向こうの世界でも極力避けていた。でも今回はそうはいかない。
「この里1番の繁華街だからね。さ、行こうか」
(が、頑張って耐えなくちゃ…)
早く買い物を終わらせよう。
そう心に決意して人混みをかき分けるように中へ進んだ。