雑多 | ナノ



病は機から1

※3キャラがいます
※♀メタ
※チュチュ→カビ的表現




 頭が痛い。目眩がする。
ぐるぐると回る世界に、メタナイトは本日何度目かわからない膝をついた。
 無慈悲にも襲いくる熱さの正体はなんなのだろうか。確かめるために空を見上げるが、仮面の細い隙間すら容赦のない太陽光線が突き刺さる。目を守るように細めたが、敵の正体もつかめないまま体力だけが奪われていく。
雨も降らない快晴、春の柔らかな日差しであるから熱中症というわけでもないだろう。他に思い当たるとすれば、着込んだ鎧やマントや、人々の視線、どれもこの症状の原因たるものではない。
体の奥から蝕まれるように、強制的な怠惰が広がっていくような感覚と、激しい嫌悪感が沸き上がる。きっと、永きにわたる逃避行に、体が悲鳴をあげているのだろう。

「××××××?」
「××、××××××××」

 人々の無償の親切心からの言葉も理解ができない。最後の力を振り絞り翼で空を覆い人目から逃げ、人気のない樹海の入り口に舞い降りる。
太陽の光すら遮断し拒絶するかのような場所が、涼しく心地よい。
 現実からにから逃避するため目を閉じると、そのまま意識は闇の奥へと堕ちていった。




 どれだけの間、眠っていたのか本人にもわからない。この昼光は、本当に倒れた同日のものかすら疑わしい。それほど深く、深く無の中を彷徨っていた。
視点が定まった時には知らない天井の下、見知らぬ少女に覗き込まれているとわかるとわかった。
 あぁ、息苦しい。体へとかかる強い圧迫感に、気道より吐き出される熱。声を出すこともままならず、大きく咳き込むと水が差し出された。

「あら、気がついたかしら」

 目の前にいるのは、赤い大きなリボンと頬紅、全身をピンクでコーディネートした少女。
敵意はないが、気を許す理由にならない。視線を外さずに睨みつけるが、臆した様子はない。
この国を混乱に陥れ、革命を起こそうとした者の特徴は皆が知ることであろう。
 仮面の騎士の、名はメタナイト。
丸腰ではあるが犯罪者には代わりない。それでも怯むどころか無理矢理ベッドへと押し戻そうとする様子に、肝は座っているとわかる。

「カービィに感謝しなさいよね。倒れてる貴方をここまで運んだのだから」
「奴、が?」

 どうして彼が助けてくれたのか。理解はできないが、あの容赦のないお人好しならやりかねない。
敵であり平和を脅かした相手にすら、平等に優しくするような底抜けのお人好しだから。

『こんなこと無意味だ。やめよう。今ならみんな、許してくれるよ』

今にも墜落する艦橋で、剣を握り見上げてくる目には明らかな憐憫。
もう勝てないとわかっていても、部下の為ケジメの為に、反逆者を打ち倒した勇者は声高々と偽善を吐く。黒煙が渦巻き、星の勇者の顔は見えないが、もしかしたら泣いているのかもしれない。幼い声は震えていた。
赦してくれる?
「迷惑をかけました、ごめんなさい」と醜い命乞いをするだけで、この国の甘い大王なら軽罪として不問にしてくれるだろう。
 だが、そんな矜持も厚志もなく生き恥を晒すくらいなら、初めからこのような暴挙はしない。
自身の欲望で革命を起こしたわけではない。このままではいつか国は滅ぶという危機感を覚えたからだ。憐れまれる必要も同情される言われもない。
例え現代の世界を敵に回したとしても、未来の住民たち安息が訪れるなら悪役にでもなろう。
宇宙の至るところで蠢き轟く悪意や悪夢への正念を向け、目の前の障害へは鋭利な刃と怒りを向けて、地面を蹴りつけた。

 結果は世間に知れわたることになる「革命失敗」。
人に対する陰口など罵詈雑言を言わない平和な国だがら、形式だけのお尋ね者ではあるが、その中途半端な優しさが逆に胸を締め付けた。

「……で。貴様も私を笑いに来たか」
「冗談。女同士のほうがいいってことで私がいるだけよ」
「女、……っ!」

 慌てて自らの顔を押さえれば、仮面がない。
枕元に無造作に置かれているのを見定め、手を伸ばそうとしたが届かない。その間にも突き刺さる視線が嫌になり、布団をかぶることで応急処置を施すことにした。
他の者はどうとも思わないだろうが、騎士にしては威厳も重要。きっと眠っている間に体中くまなく視姦されたのかと思えば、屈辱しかない。

「見たな」
「別に言わないわよ」
「見られたかどうかが問題だ……」
「可愛い顔してるんだからいいじゃない」
「貴様っ!」
「やぁチュチュ。様子はどう……って、ごめんごめん!」

 突然背後にある窓から声が聞こえたかと思ったが、メタナイトが振り返るころには誰もいない。
一体何事かと思えば、手だけが現れて窓から薬の入った紙袋だけが顔を出した。

「もう! ダーリンったら初なんだから!」

 どうやら半裸の女性がいる部屋を覗くことに抵抗があるらしい。昼寝と食事が趣味な彼に、そんなデリカシーがあるのかはわからないが、チュチュは頬に手を当てて嬉しそうに紅潮する。

「ダーリン? お前たち、結婚しているのか」
「やーね。 結婚なんてしなくても、私とダーリンはいつでも赤い糸で繋がれてるわよ!」

 物言いからして、どうやら彼女の片想い。ものすごく情熱的な性格をしているようであるから、彼も大変だろう。

「まぁ、別にボクは結婚する気ないけど」
「またまたぁ!」

 遠回しにフラれたのではないか、と第三者は捉えるやり取りではあるが、等の本人が気にしていないのなら良しとしよう。
開き直って、正々堂々部屋の扉を開け放つと、枕元に置かれた小さな机に氷水の入ったタライと、先程の小袋を並べていく。さっきの紳士的な気遣いは、悲鳴がないことにより必要ないと判断されたようである。メタナイトとしても、素顔を見られなければ裸など二の次だ。気にすることもない。

「戻りました〜」

 続々と部屋の人口密度が高くなることが煩わしくてかなわない。壁と見つめ合い背中を向けると、容赦なく蟀谷に濡れタオルが置かれた。意味があるのかはわからないが、位置を正す様子はない。

「あ。グーイも帰ってきたし、チュチュ、ありがとうね!」
「えー、私も泊まるわよ?」
「大丈夫大丈夫! 人も多いし、また今度お礼するし、ね?」

 純粋な笑顔に絆され、折れたのはチュチュの方である。駄々をこねることもなく潔く立ち上がると、周囲に花を撒き散らしている。どうやら「2人きり」のお礼が楽しみらしい。

「じゃあ、またなにかあったら来るわね」
「うん、ありがと!」

 丘を上りながら手を振り続けている彼女に律儀に答えながら、姿が見えなくなれば、すぐさま視線は別の物を捉える。言いたいことはあるが、あえて口にするのもはいなかった。
視線から悪寒がすることであるし、愛用の仮面を取り戻そう。素早く日向ぼっこをしているところへ手を伸ばそうと奮起するが、目眩が邪魔をして腕すら上がらないではないか。仕方がないから再び布団に隠れ、目の前の女泣かせの戦士を睨みつける。
視線を体調不良からの不安と捉えた能天気は、満面の笑顔で返事をした。

「大丈夫? 何か欲しいものはある?」
「誰もいない空間が欲しい」
「わかった! リンゴ剥いたげる!」
「会話をする努力をしろ」

 悪態を受け流されてはたまったものではない。わざとらしい、聞こえよがしな冷え切ったため息すら熱を帯びてしまっている。どこからともなく赤い果実を取り出し、たらいの中の小さな湖へと沈める。おまけに仮面を手に取ると、一緒に放り込んだではないか。闇鍋みたいな感覚で大切なものを扱うな、と怒りたくとも声が出なので以下略。ザブザブと洗った後に、綺麗な布巾で水滴を1つ残らずふき取ると、顔へと押し当てられた。まるで肌に吸い付くような冷たさだ、大事に抱きかかえると、カービィが無言で見つめてくる。何を企んでいるのかわからず、仮面へと隠れれば、顔を赤くして次はリンゴへと興味を写した。

「君も女の子らしいこと、するんだね」
「うるさい。仮面に触るな」
「有名になったのは、特にその仮面でしょ? しばらく素顔ですごしたらいいのに」
「仮面をとるくらいなら捕まったほうがマシだ」

 確固たる意志を示せば、呆れるわけでも強要するわけでもなく「ふぅん」と軽くいなして林檎の皮が床へと流していく。
「できた!」と声高々に掲げたウサギの形をした果実を、躊躇いなく自らの口へと放り込むのは予想外だ。自由すぎて行動が予測できない。

「うちには女の子が1人しかいないから、なにか不自由があったらグーイに言ってね」
「男女で1つ屋根の下に住んでいたのか?」
「大丈夫。グーイとボクは友達だし、彼女は強いから」

 シャクシャクと下品な音をたてながら、何を根拠に言っているのはわからないし、そのグーイすら姿が見えない。話を聞いていないことに対しては、彼も気にしていないのなら何も言うまい。悪そびれもなく洗濯物を片付けている姿が見え、本当に仲がいいのか疑う。二人のことをよく知らなければ、関係性の謎は深まるばかりである。

「何かあったら呼んでね。ボクはご飯係だから」
「あっ、おい!」

 呼んでくれ、と言ったそばから無視である。
それでも独りになれるのはありがたい。目を閉じ、熱い息を深く吐き出す。
飛び出したところで、また行き倒れるのは目に見えている。今度目を覚ませば、牢獄の中かもしれない。流暢なことを考えながら自らを冷笑すれば諦めもついた。
隙を見て逃げ出せばいい。今は体力の回復だ。開き直れば早いもので、気がつけば意識が遠退いていた。



 太陽と時を同じくして消えてしまったかのように、見回しても家主たちはどこにもいなかった。
グーイは自らの部屋を貸し与え、カービィの部屋で眠っていた。
彼が寝ぼけて間違えることを防ぐための配慮だが、どちらにしても敵の家であることに大差ない。
それでも、飛び出してどこかへ向かう宛もなければ、体が重くて羽も満足に動いてくれない。
 夜に目が覚めてリビングへ行くと、机にへばりつくように眠るピンクを見つけた。ただ、水を飲みたかっただけではあるが、逃げ出せるなら越したことはない。今の体の重さから結果はすぐわかるが、少しの悪戯心。
ゆっくりと扉との距離を縮めて手をかけると、突然椅子の倒れる音がした。

「ん……、どこ行くの?」

 地に足がついていない声ではあるが、状況は認識できているらしい。真っ直ぐ歩いてきたかと思えば、急に体のバランスが崩れて、浮遊感に襲われた。

「治るまでは意地でも帰さないよ」
「離せ!!」
「嫌だ」

 誰の許可を得ているのか、馴れ馴れしく体に触れるだけでなく抱き上げてきたのだ。
いくら手足を必死に動かそうとも、力の出ないと戦士の前では抵抗にすらならない。ついには強く抱き締められて、満足に動くことすらできなくなってしまった。
冷たい体温が、心地いい。

「武器は隠してるし、おとなしくしなよ」

 子供ゆえの強情さで、有言実行を貫き通す。有無を言わせぬ敏捷さで宛がわれた部屋のベッドまで運ばれ、優しく寝かしつけられる。
上身を起こしても、肩を軽く押されるだけで力が抜けてしまう。大人しく枕へと頭を埋めるのに時間はかからなかった。

「ふわああ、治ったらどこに行っても止めないよ」
「居られると迷惑か? 拾った割には責任感がない奴だ」
「違うよ。君がボクのこと怖がってる」
「怖がっている、だと」
「うん」

 神経を逆撫ですることを平然と言い放つと、鍵を念のために確認すると、怒りに震える目の前に立ちふさがる。

「違うの?」
「そんなわけがない!」
「ボクには勝てないって、わかってるから強く抵抗できないでしょ?」

 その言葉は、侮辱であり正論でもあり。
お互いに武器を持たぬ状況ではあるが、腕力でも負けているのは一目瞭然。
下唇を噛み締め、鉄の味が口内にじわじわと広がる。言葉がまるで膿のように、ゆっくりゆっくりと身体中へと伝い馴染んで消えていく。
 現実から逃げるつもりもなくて、残る力を全て眼力に込めたのだが、対象は大あくびをしながら部屋の壁へ歩いている最中だった。

「眠るまで見張る」
「出ていけ」
「何もしないって」
「されてたまるか」
「女の子の寝室にいるのはよくないことだけど」
「女扱いするな! 戦士に性別など関係ない!」
「そっか。じゃあ一緒に寝よー」

 突然、ベッドに入り込んできたと思えば、身を寄せてきたのだ。
先程の気遣いは幻聴だったのか、と疑うデリカシーがない行動に目を見張る。相当机の上は寝心地が悪かったのか、柔らかいメタナイトの体にすり寄ってくるのだ。

「えへへー、仮面が冷たいー」
「離れろ変態!」
「女扱いするなーって怒ったのはメタナイトでしょ?」
「馬鹿者! それとこれとは話は別だろう!」
「よしよし、独りだと寂しいもんね」

 人の話を聞かずにマイペースであることは勇者の特権。だが、そのマイペースさに救われてしまうのが、悲しいかなライバルキャラの性質というメタ発言。
誰かの為に張り詰めていた糸が、プツリと音をたてて切れた。
 ついてきてくれる部下はいたが、彼らもまた守るべき者であり、共に歩むには歩幅が違っていたのは確かであり、弱さを見せていい相手でもなかった。だが、目の前の男は、無理矢理にでも甘やかそうとして世話を焼いてくる。どれだけ否定しても力付くであるから質が悪い。優しさを振りほどけない。
 もう、泣きかたを忘れた心も限界なのかもしれない。誤魔化すように、押し付けるようにと締め付けると、熱を吸いとる体温がある。

「うわ、熱いなぁ」
「んっ、冷たい……」
「そうだ」

 身軽にベッドを飛び降りてリビングまで駆けていく。ぽっかりと空いた布団の穴と交互に見つめていると、ガラガラと音を挟み、穴へと飛び込んできた。

「アイスコピー! 涼しいでしょ?」

 いるだけで彼の周囲が冷気を纏う。カービィに抱きつかれると、ひんやりとした肌が不要な熱を吸い込んでいくようだ。逆に、メタナイトからはまるで熱した鉄にでも触れているかのような感覚が流れ込んでくる。よくもこの状態で歩き回っていたものだ、と強靭な精神力に関心の念を抱いてしまう。

「気持ち、いい……」
「元気になるまで、ボクが一緒だからね」

 これは、責任感だろうか。
自分のエゴで野望を潰された者への療養と、どんな者でも手に届く範囲ならば見捨てないというカービィの確固たる意思。どんな悪党でも懐にいれるなど、反吐が出る。
 切り捨てればいいのに。不要な異分子なんて。こんな、素直になれないじゃじゃ馬なんて。
弱る心は病気のせいだ。抱きついて、押し潰して、閉じ込めて荒治療をしてしまえ。
 泣くのは最後だ。この夜に、女々しい心は置いていく。



 朝が訪れて、目覚まし代わりに響いたのは病人と変質者との大喧嘩。
熱のせいで正常な判断ができなかったとはいえ、一晩抱き枕にされた挙句、シングルベッドで抱き合って眠っていたのだ。いつのまにか仮面が外されていたメタナイトにとっては、全裸にも等しい状態である。
 打って変わってカービィが何が悪かったのかを自覚していないというのがまた腹が立つ。首を傾げて間違い探しをしているが、答えは一向に出てこない。素直に「なんで怒ってるの?」と聞き返せば、勢いよく羽毛の枕が顔面に直撃した。気がきくようで鈍感な、基準がわからない男である。
 しかも、顔を赤くして怒る姿を見て、なんと再び近寄ってきては額同士を合わせたではないか。先に「ごめんよ」とはことわったが、言葉と行動の間が短すぎて意味をなさない。
顔を赤く、青くと変色させて動けなくなってしまったのをいいことに、数十秒もの間、その体制で動かなかった。

「うん。熱、下がったね。もう好きなところに行けばいいよ」

 ヤブ医者からのお許しがでたことであるし、晴れてもう自由の身である。
布団の上に粗雑に投げ渡される肩当て、靴、剣とエトセトラ。腹にかかる重みを感じながら、全てなんら変わりがないかを簡単に確認し終えてから、未だに赤みの引かないを強く叩いた。

「ならばここに残る」

 意外な返答に目をパチクリ。孤高な彼女は「今すぐにでも出ていく」と言うと予測していただけに、反応が遅れてしまった。

「……それが君の選択なら止めないけど、ボクのことは嫌いじゃなかった?」
「貴様のことは気に入らない。だが、恩義はある」
「まっじめー。ボクはなんとも思ってないのに」
「その態度も気に入らない」

 「このくらい当然だ」と気にも留めないところがまた腹が立つ。だが、取っ組み合いをしたくとも熱が下がっただけで本調子ではない。何より、お節介といえども恩を感じているのは嘘ではない。
装飾品たちを丁寧にまとめて、床の端へと固めて置いて、久しぶりに地面に足をつける。
少しふらついただけで、カービィが不安な表情でその細い身体を支えては、鼻を殴られる。彼女としては触れられることに対してはあまり気にすることではないのだが、これはもはや意地だ。
許容してしまえば心を許してしまったような気になり、自分を許せない。もはやプライドと良心が葛藤している状態なのである。そう、いわゆる照れ隠し。

「ボクは全然構わないけど。ベッドはボクの部屋のを使っていいよ。たまにグーイがいなくなるから、その時はそっちを使ってね」

 今、サラリととんでもないことを言わなかっただろうか。これからの居候生活にどんな受難が訪れるかはわからないが、一筋縄ではいかないだろう。
後悔するまでわずか数分間。残るなどののたまった、過去の自分を殴りたいと感じつつ、天井を仰いだ。

+END

20.4.2

[ 43/49 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -