えふえふ | ナノ



願い事の有効期限



1日はとても短い。
それが1つ、2つ、と増えていくと一週間、一月、と片手では数えられない日数になっていく。
いち、はずるい。
1番、先着1名様、なんだか特別で選ばれたような気になってしまう。
それに、少数だからこそ「1つならいいや」「1日だけだし」と錯覚を覚えてしまうのだ。
それが、罠とは知らずに。

「1日だけ言うことを聞く」と皇帝と契約をした。試合に負けたのだ、文句は言えない。ただ、いつもの涼しい顔を崩さない彼からは意図がわからなかった。
とはいうものの、傍にいたのはいいが、暴君からはなんの音沙汰もない。
自ら命令を催促しているようで癪だったが、訪ねてみたら「特に思い付かない」と言うときた。
「お前から言い出したんだろう!」と詰問してやりたかったが、臍を曲げて無理難題を投げ掛けられてもたまらない。知らないふりをしてまた黙って傍にいた、それだけ。
一緒にいることに対して文句があるわけではない。むしろ、煮え切らない態度が彼らしくなくて心配だともいう。別に小間使のように扱うわけでもなく、話しかけてくるわけでもない。ただ、時折名前を呼んでは目を向ける、それだけだ。

「とりあえず、飯作ってきていいか?」
「ん」

無作為な返事だが、特に気にすることはない。機嫌を損ねていない、それだけで十分である。
和やかな空気に似合わない重装備一式を置くと、禍々しい空気の渦巻く城の中、重い腰を上げた。

「冷たいものにしろ」

唐突に聞こえたのは、ここにいる城の主の声しかない。てっきり人の話は聞いていないものだと思っていたため驚いた。

「お前も食うのか?」
「貴様、自分のものだけ用意するつもりだったのか」
「ああ」
「ふてぶてしいやつ」

人の敷地であるから文句は言わないし、これが例の命令というやつだろうか。ついでならば労力にならないし、料理を苦だと思ったこともない。
二つ返事をしようとしたところで、唐突に「待った」の声が上がったのだ。

「だが、これは命令ではない」
「?」
「貴様の好きにしろ」

何が言いたいかはわからない。新手のツンデレというやつなのだろうか。
首を傾げながらも顔色を伺うが、振り返る気配もない。珍しく殊勝な態度と、煮え切らないお願いに首を傾げたが、悲鳴をあげた腹の虫に我に返る。適当な返答だけを置き、勝手知ったる薄暗い城の中。迷うことのない歩みで、自室よりも広い廊下を駆け出した。



「あれから何日間経った?」
「7日だ。大したことあるまい」
「ふぅん」

もうそんなに経っていたのか。もう違和感もなく共に行動していた為に、驚きを隠せない。
全く代わり映えのない日常。異常が日常に溶け込んで行く。これが皇帝の罠なのだろうか。いや、彼らしくはない地味で意味のない行為でしかない。

「で、今日の命令は?」
「特に思い付かん」

++++
貴方はフリ皇で『週7日制』をお題にして140文字SSを書いてください。

一生思い付かないやつ

20.9.8

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