ててご | ナノ



両思いの女性を口説く方法

※囚→(←)写
※写女体化




「貴女の美貌に魅せられ、初めて人を美しいと思いました」

「白い肌に、白い髪。何をとっても美しい」

「私の専属カメラマンになっていただけませんか?」

 どの口説き文句もしっくりとこない。だが、タンスに収まる衣服は感想もくれない。1人、衣装ダンスを見つめながらため息をつくと、タイを首に巻きつけた。
 本日は珍しいサバイバーとハンターも合同のパーティーである。それぞれの格の違いを見せつけるための催しかはわからない。時折このような宴がこの荘園で開かれるが、そのようなことはどうでもいい。ただ、一目でも見たい人物がいる。それだけで普段は無頓着な容姿にも気を使ってしまう。
白黒のYシャツに、シワのない黒のタキシード。黄色いタイをつけてはもう一度上着をひいてはシワを伸ばす。これならば普段研究ばかりの薄汚い囚人には見えないだろう。隣にいた、可愛らしいレースのドレスに身を包んだ技師も思わず拍手をする。

「ちゃんとした服を着れば、かっこいいよね」
「失礼極まりない。普段からかっこいいだろう?」
「へぇ」
「適当な返事だな! それに今日は特に気合を入れなければね」
 
 「冗談冗談」と笑う彼女は笑顔が似合う。平民であるために粗はあったとしても、快活で聡明なところが囚人は好きだった。しかしそれはあくまでも友人としてだ。お互いに傍にいて、気が楽だと豪語する関係である。
 そんな数少ない女友達兼、親愛の念をおける友人に珍しい正装を見せびらかしながらも訪ねてみることにした。

「ねぇトレイシー。女性ならどんな言葉をかけられるのが嬉しい?」
「言葉? うーん『研究資金をずっと工面してあげる』かな」
「それは君だけだろ。口説き文句のことさ」

 年中研究のことを考えている彼女には敬服するが、今は話が違う。ため息をつきながらも咎めると、戯けて舌を出しながらも笑う。

「ついに写真家に告白するの?」
「……はぁ。貴女に隠し事は難しいな」

 この高望みの感情を隠すつもりはなかったが、話してもいないのに知られているというのは気恥ずかしい。をほんのりと赤く染めながらも答えると、楽しそうに技師は笑う。「やっと認めたね」と。

「そうだよ。彼女に告白する」

 悔しくなり、吐き捨てるように言い放つと、ニヤニヤと悪戯小僧のような笑みを浮かべるのだ。
彼女は決して「無駄だから止めたほうがいい」などと後ろ向きなことは言わない。むしろ清々しい表情をしては、物理的に背を押しては扉を開けるのだ。

「邪魔するわけじゃない。応援してるよ」
「へぇ。珍しい」
「だって、そうすればルカを通じて資金幇助を受けやすいじゃない」
「そんなことだろうと思った」

 準備はできている。心の準備は、彼女の前になってからまた行おう。曖昧な記憶の中に眠る貴族の社交パーティーの様子を思い返しては、失礼のないようにと気構える。
いつもは遠いと感じる、パーティー会場となる離れの洋館であるが、我に帰った時にはもうすでに目の前に広がっていた。朧げな意識のまま、まるで介助をされるように技師に引っ張られてきたらしい。これから世紀の告白をする者として不甲斐ないばかりである。
 広く豪勢な会場であるが、目的の人物を見つけるまで時間は掛からなかった。鮮やかな空のような青いドレスに身を包み、銀色に輝く頭をゆったりと踊らせる美女。頭には黄色のリボンを、幼さが残らないように髪留めとして身につけていた。台の上から、女王と並んで座っている姿を見つけて思わず囚人は見惚れてしまっていた。
まるで魂が抜けたように惚けていたところを、戻してくれたのは技師の肘打ちだった。

「ほら、早く声をかけてきなよ」
「あ、ああ!」
「あわよくば、お酒を飲ませれば一発でしょ?」
「女性がなんてことを言うんだ!」

 ドンと強く背中を押され、バランスを崩しそうになるのを慌てて細い足で地面を踏みつけて安定させる。赤い絨毯により滑るかと思ったが、しっかりと固定されていて助かった。少し乱れた襟を正して、周囲を見回してみれば普段は見られない愉悦と喧騒。思わず気が緩んでしまったが、慌てて頬を張っては気を張り詰める。
 ハンターとサバイバーは利用できる机も、配給される料理も決められていて、大きな違いがある。特に、お互いのいる場所には気軽に近づくことはできないのだ。特に、サバイバーがハンターの元へと行くのは至難の技。まずは見張りも兼ねている給仕をどのように躱すかを考えていた時である。目的の彼女が立ち上がったのは。
 血の女王も上流階級の女性としての気高さはあるが、想い人は表面上は穏やかな表情を浮かべるところがまた女性らしくて慎ましやか。たとえ冷酷な本性を知っているとしても魅せられ、惹かれてしまう。大きく広がった青いドレスは、何重にも層ができておりバラのよう。肩は大胆にも剥き出しになっているが、薄いレースをかけている。赤い唇が弧を描き、下ろしている長い髪を左右に揺らしながら、参加者面々の顔を眺めているのだ。

「今も、誰か探しているみたいだ。もしかして、恋人……」

 コツコツと共有スペースへと降りてきては周囲を見回し、視線があった時にバチリと音がするかと思った。まっすぐ逸らされない視線と、無防備に緩んだ口元。後ろに恋人がいるのかと振り返れば、給仕がワインを運んでいるところだった。もしかしてこれが欲しいのだろうか。呼び止めては2つもらい、ゆっくりと近づけば、目が大きく見開かれた。

「ご機嫌麗しゅう、デソルニエール婦人」
「ご機嫌麗しゅう」
「その、本日も美しいですね。花も恥じらうほどです」

 在り来たりな口説き文句に、彼女は作り物の笑顔を崩さない。「それはどうも」とそっけない答えであるが、弧を描く形の良い唇から目が離せない。赤い紅と、長い睫毛。青い水晶のような目が反射しては世界で一つだけの秘宝となる。

「そうだ。これ」

 ゆっくりと差し出したのは、透明で繊細な作りのグラス。仄かに香る上品な果実酒が年代物だということを間接的に伝えてくる。この機会を逃せば、蔑ろにされているサバイバーたちは口にすることができないだろう、ハンターと違って。それほどの代物である。

「これは?」
「見つめていたようなので、入用かと思いまして」

 ワインのグラスを手渡せば、パチパチと目を瞬かせては小さく首を傾げるのが見えた。なかなか受け取らないために不審に思っていると、我に返って受け取るのだ。

「ありがとう、ございます」

 小さな掌で、一生懸命男の手を包み込もうとするのが微笑ましい。思わず左手へと目をやるが、薬指に指輪がないことに安堵した。改めて彼女へと向き直ると、驚いた表情でワインを眺めては目を丸くするのだ。まるで、予想外というように。

「本当に、綺麗……貴女に見初められる人が羨ましい……」

 これは無意識にでた言葉である。素直な子供のような賞賛の言葉であるが、彼女はそれで満足したらしい。を赤らめてはサービススマイルをうかべるのだ。

「フフ。ありがとうございます。お上手ですね」
「冗談ではありませんよ! そして、その、ええっと……」

 いざこの花の咲いたような笑みの前になると、勇気がなくなってしまった。「お付き合いしてください」それだけの言葉であるが、喉に餅がつっかえたかのように、重く、苦しく、呼吸すら不規則になってしまう。しばらく無言で見つめあっていたが、我慢ができなくなったのは囚人の方だ。顔を真っ赤にしては顔を背けてしまった。これ以上、この美顔を見つめていたらどうにかなりそうである。気を悪くしている素振りはないが、その絵画のようにニッコリ微笑む様に、いたたまれなくなってしまった。
 玉砕する男の背中を黙って見つめていた技師だが、やれやれと呆れて首をすくめる。「もうやめておきなよ」と助け舟がわりに手招きをするのが見える。

「そ、それでは失礼します!」

 急いで駆け戻ろうとすれば、弱く服の裾が引っ張られた。机へと引っ掛けたのかと慎重に振り返れば、ネイルの施された白く細い指。照れ隠しで一気に煽られたワインがこくり、こくりと動く喉に嚥下されていく。

「あの」
「はい?」
「……私、話し相手がいないので、しばらくご一緒しませんか?」

 まさかのお誘いに、今度は囚人が目を丸くする番である。もじもじと指を擦り合わせては、淑やかで内気な女性を演じられるとはまさか思うまい。上目遣いで、眉を下げながらという慎ましやかな動作に、頭痛すら覚えた。

「わ、私でよろしければ!」

 気が変わる前にと食い気味で手を握ると、一瞬困惑した表情を浮かべるのが見て取れた。男から触れられるのは嫌なのだろうか。慌てて手を引けば、心配を否定するように白い手に引き戻された。

「では、ベランダへ行きましょう。酔いが回ってしまったのか、体が熱いです……」

 体を寄せては誘惑してくる様に、背筋が粟立つ。腕へと抱きつき、控えめな女性の象徴を押し付けられ、男として反応しないわけにはいかない。ましてや、片想いの相手である。この期を逃しては、2度と手を繋ぐという初歩的な接触すらできない可能性だってある。ベランダへの大きなガラス戸を超えてからも、夜風の冷たさよりも隣にいる麗人の体温を鮮明に感じ取ってしまう。

「これを」

 珍しくめかし込んだ上着を躊躇わず脱いでは、剥き出しの肩へとかけてやる。初めは優しい声音に驚き振り返っていたが、肩へと感じる暖かな人肌の残火を感じ、抱きしめるようにしっかりと羽織り直す。
唇を噛みしめ、嬉しさを隠そうとしている。だが、同じく余裕がなくなり恥辱で夜空へ逃避していた囚人が気付くことはなかった。悲しいすれ違いに、夜風がいっそう冷たくを打ち付ける。

「ありがとう、ございます」
「レディーが体を冷やしてはいけませんから」

 さりげなく肩を抱き寄せると、抵抗はなかった。それどころか頭を傾けては髪が首筋を撫で、ぞわりと背徳感のような感覚が全身を走り抜ける。もしかして誘われているのでは、いや彼女に限ってそんな蠱惑的な行動はしない、と勝手な妄想を働かせ。しかし、手は欲望に忠実で自分の上着を免罪符に小さく丸い肩を撫で回す。
 急に芯の強い目が上げられ、思わず悲鳴をあげてしまった。痴漢のような行為に対する非難の言葉が飛び出すかと思って身構えたのだが、想像していたよりも機嫌は良い声色で。

「さきほどは、技師が呼んでいた様子ですが、私と話していてよいのでしょうか?」
「特に問題はないですよ。彼女は後でも問題ないので」

 見かねて引き時を支持してくれただけである。別段と用事があったわけではない。
そのニュアンスを含めて言った言葉ではあるが、気兼ねない関係が気にくわかったようだ。歪んだ表情と不機嫌に膨らんだという珍しい子供のような反応に、つい顔が緩んでしまった。

「貴方はいつも、彼女と一緒にいますね」

 視線の先にいるのは技師である。大きな切れ長の目を細め、浮かぶのは嫉妬。だが誰に、どのような気持ちで嫉妬しているのかは鈍感な囚人にはわからなかったのは残念である。同時に同じ人を見ていたのもあるが、探るように向けられたサファイアブルーの伏せられた目にも気付けないときた。
再び目を合わせたのも、痺れを切らせた彼女が小さく咳払いをしたから。視線には鈍感であったのに「技師に対してあまり良い印象を持っていない」というのは声音からわかった。友人をよく思われていないのも悲しいものである。誰に頼まれたわけでもなく「誤解ですよ」と笑いながら、両掌を降って見せる。

「気の合う女性なので、一緒にいて落ち着くのですよ。ああ見えて、可愛らしいところもある彼女です」
「……恋人同士、なのですか?」
「いえ? 友人です」

 その言葉に小さく息が吐き出された。
もしかして、脈ありなのだろうか。彼女が浮かべた安堵の笑みに、幻想を抱いてしまう。人の表情を読むことは、記憶が飛んだとしても体で覚えているものだ。
いや、それよりも素顔に仮面を被った写真家が、年相応な女性の表情を浮かべたことに驚き、惹かれたというのが正しい。いつも必ず、わかりやすいほどに取り繕っていた表情が、無防備に緩むとなれば嘘とは思えない。それに、彼女の素顔を見れたという優越感を感じざるを得なかったとも言えるだろう。

「では、今は恋人はいないのですか?」
「そうですよ。フフ、よかったらお付き合いしますか?」

 勢いのまま、いつもの社交辞令の延長線の感覚でつい口からとんでもない口説き文句が出てしまった。冗談めかしい口調で言ったために気分を悪くされるかも知れない。「冗談言わないでください」と躱されるかもしれない。嘘でもふられるとなると傷つく。
 表面上ではまだ余裕の笑みを崩さないように取り繕うが、心中では真っ青で冷や汗が止まらない。告白をするつもりであるが、もっとスマートに男らしくエスコートをするつもりであったから、プランが台無しである。

「はい。私でよければ」
「え?」
「私も、恋人はいないのですよ」

 思いがけない返答に、頭が真白になってしまった。さらには細い指を腕に巻きつけ、体を寄せてくる彼女に顔が熱くなる。
一体何のつもりで誘ってくるのかはわからない。あわよくば、写真の中にでも閉じ込められてしまうのだろうかと、本能が警笛を鳴らすが、それでもいいかもしれないと盲目になった心が囁く。
例え、研究材料としか見られていないとしても。それでも、彼女に甘えてもらえるのならば命だって安いものだ。どうせ、研究しか生きる理由もない。それならば、腹上死が男としてはロマンであろう。

「今のは、どういう……」
「ルーカ! 時間!」
「え、あ、そうだった!」

 まるで魔法の解けたシンデレラのよう。遠くから品もなく叫び、大きく手を振る女性は先ほどまで話題の中心であった技師である。今の衝撃的な言葉のせいで、一瞬にして忘れさっていたのだが「時間」という単語に我に返り、慌てて襟を正す。

「すみません! 私たちは主に呼ばれているので失礼します」
「そう、ですか」
「冷えるので、もう中へいきましょう」

 腰に手を当てて、小さく白い手を取ってはゆっくりと背中を押して歩き出す。自然に見えるようにと流れるように行った所作ではあるが、万が一拒絶をされたらどうしようかと思っていたため、赤い顔をして頷いてくれたことに、心の中で盛大な息をついた。
見た目よりも細い腰に、すべすべした手。長い睫毛に赤い唇に目を引かれては喉が鳴る。
 今夜必ず告白をしようとは思っていたが、このような結果になるとは。本気ととられてはいない様子であるから、再度真面目に伝えたところでまたふざけている、と解釈されていまうだろう。怒らせることだけは避けたかった。
ベランダから戻るとあまりに周囲からの視線が突き刺さるものだから、名残惜しいが手の甲に跪いて口づけを落としては離れる。主に男からの視線が痛い。

「鼻の下を伸ばす男にはお気をつけて。トレイシー!」
「もー遅い!」

 特大のブーメランとなる発言は、運良く小言の多い同伴者の耳には入っていなかった。ぷりぷりと可愛らしくを膨らませながら、ドレスとヒールに苦戦しながらも駆けてくる。射程範囲になると容赦なく背中を蹴り飛ばされ、思わず前のめりになってしまった。彼女の無体には困ったものである。
そんなやりとりを見ながら、写真家は下唇を噛む。羨望の眼差しの意味も、話に花の咲いている2人は気がつかない。

「それで、うまく行った?」
「その話は帰りながら」

 本人が目の前にいるというのに、告白大作戦の結果を訊こうとする彼女の口を塞ぐと、淑女の細い眉が寄せられて眉間にシワを作っていた。そのまま早足に並んで駆け出しては、マナーも厳かに扉を突き飛ばすかのように開いては、長く先の見えない廊下へと飛び出した。



「今のは、お付き合いを了承したことになるんでしょうか」

 まともな返事もアプローチもなく、消えた男の背中があった方向を見つめる彼女。先ほどまではしっかりと行儀良く着込んでいたスーツも少し崩れ、表情共々皺ができているのも見て取れる。

「……私は本気なのに」

 お互いが「相手にからかわれた」と思い込むのは滑稽である。人にはこけない声量で、ふられたと勘違いをした2人は同意にため息をつき、天井を仰ぐ。自らの恋がもう叶っているものだと、いつ気付くのかは定かでなない。

++++
女体化である意味があまりないから、ちゃんとした女体化を書きたい

23.3.22


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